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バングラデシュはどのくらいビジネスがしやすいのだろうか?

 そんな疑問に答えるひとつの資料がある。途上国の企業に対して投融資や助言を提供する世銀グループの一部門、IFC(International Financial Corporation:国際金融公社)が年に一度公表するDoing Business指標がそれだ。

 2003年以来十年にわたり毎年公表されれているこの資料は、主として各国の地場中小企業にとって、その国がどの程度ビジネスが展開しやすい環境にあるかを、ある程度客観的に明らかにするために、先進国・途上国双方を含む世界各国(初版の2003年は113カ国)を共通の指標で比較してランク付けをしたものだ。比較に用いられる指標は、例えば、会社の立上げ(Starting a Business)、建築許可の取得(Dealing with Construction Permit)、輸出入(Trading Accross Boaders)等に要する行政手続きの数、必要書類の数、日数、そして金銭的コスト(公式の手数料で賄賂は除く)といった、各企業が商売をする上で具体的に直面する法規制や許認可手続き等、もっぱらミクロで、且つ客観的に比較可能なものだ。

 10月23日に公表された2013年度版Doing Businessは、日本やバングラデシュも含む世界185カ国を10の横断的指標で比較している。以下、今年度版のDoing Businessが、バングラデシュのビジネス環境をどのように評価しているか、眺めていきたい。

   doing business 2013 Bangladesh

 上の図がバングラデシュの成績表だ。10の指標の横にそれぞれの順位を記した。特に足を引っ張っているのが、やはり「Getting Electricity」。これは、地場の中小企業が各国の首都圏(バングラデシュであればダッカ)で新規に電力申請をし、実際に電力が供給されるまでに必要な①行政手続きの数、②日数、③金額(一人当たりの国民所得比で計算)で、各国を横断的に比較したものだ。このブログでも過去、バングラデシュの危機的な電力事情について何度か紹介してきたが、バングラデシュの電力アクセスは、今年のDoing Businessで185か国中最下位となってしまっている。何しろ、バングラデシュでは電力を得るために、9の行政手続きと、404日間(一年以上!!)、そして一人当たりの国民所得(2012年で770ドル)比で約5,000%(770×50=約3万8,500ドル!!)という、文字通り法外なコストがかかる

 もう一つ気になるのが、185か国中182番と世界最下位が手に届きそうな「Enforcing Contract(契約の執行)」。指標のタイトルだけ見ると、バングラデシュでは商業契約が世界で最も守られない国の一つに見えてしまうが、この指標が具体的に計っているのは、企業同士の契約の遵守状況ではない。ある二社間での商品売買契約においてトラブルが発生し(買い手が品質の不具合を理由に商品の購入代金を売り手に支払わないトラブルを想定)、そのトラブルが裁判所に持ち込まれて解決されるまでに発生する手続きの数、日数、そして金銭的コストを比較したものなのだ。指標を裏付ける個別の数字を見ると、バングラデシュでこうしたトラブルを裁判所で解決するには、41の行政手続きとトラブルの元となった商品の約6割に当たるコスト、そして1,442日!!!(約4年の歳月…)を要するという。

 足りない点ばかり上げているのも如何かと思うので、バングラデシュの得意科目にも光を当ててみたい。すると、「Protecting Investor」の指標で25位という好成績を収めている事に目が留まる。これは企業財務の開示、株主訴訟に関する法整備、インサイダー取引や相場操縦への罰則等、個人投資家保護に関する法制度の整備状況を指標化して国際比較をしたものだ。繰り返しになるが、Doing Business指標はOECD諸国(先進国)も含んだランキングなので、これは相当優秀といえるだろう。

 Doing Business指標は、上記10の各指標の順位を平均して総合順位も出している。今年バングラデシュは185か国中129位という成績だった。気になるのは、バングラデシュのDoing Businessの総合ランキングがここ数年下落基調にあることだ。

   Doing Business Bangladesh Trend

 経済活動が活発化する中、道路や電力をはじめとする各種ハード・インフラの整備が追いついていないことは、このブログでも度々指摘してきた。バングラデシュのDoing Businessランキングの低下の背景には、これに加え、政府による規制や行政手続きの執行力の弱さがあるだろう。仕事柄、財務省を中心にバングラデシュ政府のオフィスに出入りする機会は多いが、パソコンで仕事をしているのは、ごく少数の高官のみ。地方都市における出先機関はもちろん、ダッカの中央省庁でも山と詰まれた紙に囲まれて仕事をしている政府職員が目立つ。政府職員と名刺交換をすれば、そこに書かれているe-mail addressの末尾には、gmail.comや、yahoo.comとある。政府内のイントラ・ネットの整備はこれからで、様々な統計データの各省庁ウェブサイトへのアップも緒についたばかりだ。そして、中央省庁の数は50を超え、省内、省庁間の手続きに膨大な時間を要する。

 バングラデシュの公的部門については汚職の問題が指摘されることが多いが、それ以前に行政の足腰が弱い(上記Doing Businessの各指標の背景にある数字は、公式の手続きやコストであり賄賂などは含まれない)。民間企業の活動が熱を帯びれば帯びるほど、行政の処理能力とのギャップは広がり、結果バングラデシュのビジネス環境は悪化を続けることになる。

   SME in Dhaka
~ ダッカ市内の一角に軒を並べる零細企業の工場。厳しいビジネス環境にもかかわらず年率6%近いGDP成長率を過去10年間にわたって維持し続けている背景には、Animal SpiritとPatienceに満ちたバングラデシュの労働者や企業家の努力がある~


 ところで、飽和状態にある日本国内の消費市場から、新興国に向けてBOP(Base of Pyramid)ビジネスを展開すべし、との声が最近喧しい。バングラデシュをはじめ新興国への進出を検討する日本の企業や投資家にとってもDoing Businessは目に留まりやすい指標だろう。投資家向け説明会用の資料等で登板する機会も多い。

 しかし注意したいのは、Doing Businessは、各国の地場中小企業にとってのビジネスのし易さを比較したものであり、その国に対して投資を考える外国企業を念頭においたものではない、という点だ。バングラデシュについても、いくつかの日本企業も拠点を構えるExport Processing Zone(輸出加工区)での税制優遇や電力の優先供給等の投資優遇策があるが、これらはDoing Businessでは考慮されない。現地で一からベンチャー企業を立ち上げる、というならともかく、バングラデシュへの直接投資等を検討している日本の大手企業や金融機関にとってはDoing Businessは単なる参考以上のものにはならない。そもそも、こうしたランキングや統計と睨めっこをしながら、投資先を検討するのは休むに似たり。やはり、現地に飛んで、己にこびり付いた既存の価値観や思考のフレームワークから距離を置き、五感の全てを総動員しながら、人々がどのように時間とお金を使っているのか、現在流通しているモノやサービスはどこから来ているのか、目に見えない商慣行や生活習慣も含めて観察することなくして、前進はあり得ない。何と言っても、日本企業がその国を選ぶのではなく、その国の消費者が、数多ある国内外の企業の中から、日本企業のモノやサービスを選んでくれるかが問題なのだから。

 話を元に戻して、Doing Businessの目的は、海外直接投資を考える投資家や企業に、各国の投資参考情報を与えるというよりも、各国それぞれの規制当局が、地場中小企業がその潜在力を存分に発揮しつつ、社会に貢献できるような、SMARTな規制の策定・実施していくよう、切磋琢磨を促すことにある。ちなみに、ここでいうSMARTとは、
 - Streamlined(効率的で)
 - Meaningful (市場での取引に意味ある(ポジティブな)インパクトを与え)
 - Adaptable (経済・社会状況の変化に適応できる)
 - Relevant (解決しようとする社会問題に対して妥当な手段であり)
 - Transparent(誰にとってもクリアで、且つ内容を入手できる)
規制を指す。世界銀行のバングラデシュ国別援助戦略(Country Assitant Strategy)でも、民間企業による投資活発化に向けたビジネス環境整備は目指す目標のひとつとされ、その成果測定の指標として、Doing Businessのランキングが活用されている。このように、Doing Business指標は規制を受ける中小企業からの視点で、且つ国際的に比較可能な形で、各国の規制や行政手続きの現状や課題を示し、国際機関と政府、あるいは政府と民間企業との対話におけるたたき台としての役割を果たしている

 なお、Doing Business2013年版における日本の順位は24位、2008年時点の12位から大きく順位を落としている。逆に近年競争が激しい韓国は7位。同国は2008年には22位だった。Doing Businessは、バングラデシュをはじめとする新興国・途上国の現状を上から目線で眺めている先進国の政策担当者や企業人に対しても、とるべきアクションを発信しているのだ。
バングラデシュの経済・産業が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/11/28 18:03

バングラデシュの経済は大丈夫なのか?(その3)

 「エグロ ディム コト?(タマゴ、幾らですか?)」
 「エクタ ノイ タカ」(一つ9タカ(約9円)だよ)

 「アプナール モネ アチェ プライ エク ボチョール アゲ エキ ディム コト ホエチェ?(一年前くらいは、同じタマゴ、幾らぐらいだったか覚えていますか?)
 「モネ ホイ チョイ タカ ホエチェ(6タカくらいだったかな)」
   野菜市場    

 ここはダッカ南部を流れるブリコンガ河を渡った先に広がるカリガンジ・バザールの一角。縫製工場で働く女性や船舶修復現場で汗を流す男たちなど、バングラデシュの庶民が日々の買い物で利用する市場だ。向き合うのは、僕のたどたどしいベンガル語の質問に気さくに答えてくれる八百屋のオヤジ。目の前にはツルリとしたタマゴが、色鮮やかな野菜たちに囲まれて並んでいる。
  
 バングラデシュの一般家庭や地方のホテルでの朝食と言えば、タマゴ焼きが必ずと言っていいほど振舞われる。
    breakfast

しかし、その値段は意外に高い。一パック分(12個)を買えば約110タカ(110円)。昨年と比べて5割も値上がりし、今や日本のスーパーのバーゲン価格と殆ど変わらない値段。しかし、例えば勤続20年程度の公立小学校の先生の給料は約8,000タカだ。もちろん昨年と比較して5割増えるている訳はない。

 市場のオヤジとのやり取りは続く。中国から輸入したガーリックは昨年1キロ50タカだったものが、今は90タカ。一キロ12タカだったジャガイモは20タカ、などなど。


 場所は変わって我が家から程近いグルシャン2交差点。舞い上がる粉塵とクラクションの音が交差する。汗だくになりながら向き合う相手はCNG(CNG:天然ガスで動くオート・リキシャ)の運転手のおっさんだ。

 「エカンテケ カウランバザール ポルジョント デルショ タカ?ビシャッシ コッテパリナ!シャダロノット プライ エクショ タカ ホイ ナキ!?」(ここからカウラン・バザールまで150タカだって?信じられない!いつも大体100タカでしょ!)
 「ナー、ナー、フューエル プライス オネク ベレジャッチ」(ダメダメ、燃料代がスゴクあがっているんだから。)
  
 ベンガル語で言い合っていると、興味本位で集まってくるベンガル人の人だかりがすぐにできる。しかし、運転手は相変わらず取り付く島の無い様子。最後は、  
 「アミ アプアールジョンノ チャラレ、CNGバラ コム ホベ?。バイ、ピチョネ ボシュン!(僕が代わりに運転したら安くなる?オジさん、後ろに座って!」
 と捨て身の“ハイジャック作戦”で食い下がるも値段は変わらず。仕方なく言い値の150タカで矛を収めることに・・・こんな感じで、外国人価格を吹っかけられるのは仕方が無いとしても、CNGの値段があがる一方なのも確かなのだ。

  CNG

 ところで、市場や交差点の一角で返って来るこうした答えは新聞の一面を飾る不吉なヘッドラインとも重なる。そう、あらゆる物の値段が上がっているのだ。庶民の給料の伸びをはるかに上回る勢いで

 バングラデシュの経済に過去20年近く見られなかった幾つモノ「異変」がここ1年足らずで発生している。例えば二桁を超えるインフレがそれだ。上記で紹介した食料品を含む消費者物価指数(CPI)を見ると、足元若干下落したものの対前年同月比で10%近い伸びを示している。しかし、食料品やエネルギーを除いたベースでCPIの上昇率を見ると状況はより一層深刻であり、足元14%にも達している。バングラデシュは、過去10年平均6%程度の経済成長を続けてきたが、インフレ率が10%を超えることは殆ど無かった。では、最近になって、バングラデシュ経済の基盤を揺るがす二桁のインフレが発生している背景には何があるのか。

 そこに第二、第三の「異変」の存在が浮かび上がる。それは、エネルギー不足による輸送コスト・資材コスト等の高騰、そして、バングラデシュの通貨(タカ)の減価による輸入品価格の高騰だ。

 例えばタマゴの値段が上がっているのは、鳥インフルエンザの発生による一部家禽の処分の影響に加え、タマゴを市場まで運ぶための輸送費、卵を産むニワトリの飼料、飼料を育てるために必要な水をポンプで獲くみ上げるための燃料代、これらが上昇していることが背景にある。

 過去10年、うなぎ上りだった需要を背景に急成長を遂げてきたバングラデシュの不動産業もしかり。価格の上昇が止まらない一方で、業績がここに来て対前年比25%減という厳しい状況に陥っているのは、マンション需要が減少したからでは決してなく、資源・エネルギー価格の高騰によるコスト増や、マンション建設に必要な資金を銀行から借り入れる際の金利の上昇分を、価格に転嫁せざるを得なくなった結果、主たる買い手の購買能力を上回るほどにまでマンション価格が上がってしまったことによる。

 値段が昨年比二倍にも跳ね上がった中国産のガーリックの背景には、輸送費の増大に加え、第3の異変、つまり通貨タカの下落が影を落とす。下記のグラフが示すとおり、2011年1月時点で1ドル71タカ程度だった名目為替レートは今年に入って1ドル83タカ程度と約15%程度減価しているのだ。

為替レートの推移

 これでは、他の条件が何も変わらなくても輸入品の値段は15%程度割高となってしまう。なお、バングラデシュの通貨が過去1年間で急速に下落したのは、縫製品などの輸出や中東を中心とする海外出稼ぎ労働者からの送金で得られる外貨よりも、原油や石炭、あるいは産業機械等の輸入の支払いのために海外に出て行ってしまう外貨のほうが多い状態、つまり経常収支の赤字が続いているためだ。ちなみに、バングラデシュが経常収支が赤字に陥ったのも、過去10年間で初めてのことだ。

   経常収支
 
 なお、輸出の伸び悩みの背景には、バングラデシュのお得意様である欧州各国が、ギリシャに端を発する債務危機により景気後退に陥っていることが挙げられる。何しろ、バングラデシュの輸出の8割を占めるReady Made Garment(既製服)は、人々の財布の紐がしまったときに真っ先に締め出される品の一つなのだから。そして、エネルギーの輸入が激増する背景は、前回までの記事で紹介したとおり。


 このように、タマゴ、ガーリック、オート・リキシャの運賃、不動産の価格など、様々な製品・サービスの価格が上昇し、全体として二桁を超えるインフレが発生している背景には、需要の増(所謂ディマンド・プル・インフレ)よりも、①エネルギー不足、②エネルギー補助金の垂れ流しによる財政の悪化と金利の上昇、③タカの減価、等による製造コストの増(コスト・プッシュ・インフレ)要因が強く働いている

 メキシコやトルコ等と並びBRICに続く急成長が見込まれる「NEXT11」としてバングラデシュの名前が挙げられたのが2005年。バングラデシュはその前後5年で、確かに順調な経済成長を遂げた。巨大サイクロンの被害に見舞われ、国家非常事態宣言が出される程の政治動乱を経験し、そして世界金融危機やアラブの春等の厳しい外部環境の中にあってもなお、成長を続けた。これは、バングラデシュの実に力強い、そして底堅い民間セクターの存在の証だ。

 しかし、これからはどうだろう。

 エネルギー不足、インフラ不足、これを賄おうとする結果拡大する政府の財政赤字の悪化と金利の上昇、そしてインフレと為替の下落…これらは、民間企業の努力だけでは、解消され難いマクロの課題だ。放置すれば、力強い民間セクターの潜在力を奪い、労働者が手にすべき所得を減らし、人々の生活の糧を蝕む。外国からの投資も入らないだろう。独立40年を経た今日、新・新興国バングラデシュは、こうした困難なマクロ課題に直面している。

 そして、これらの課題を解決できるのは、政府以外にはない。しかし、そこにあるのは、世界最悪レベルの汚職と非効率で知られる政府だ。ここに、バングラデシュにおける現在の最大の課題が政府のガバナンス(統治能力)やキャパシティ(問題解決能力)の強化であると信じる理由がある。(本シリーズ終わり)
バングラデシュの経済・産業が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/05/30 02:41

バングラデシュの経済は大丈夫なのか?(その2)

 危機的な電力不足は、バングラデシュの主力輸出産業である縫製業等のコストを劇的に引き上げ、食料安全保障を脅かし、そして人々のクオリティ・ライフを決定的に損ねている。電力危機はマクロ経済の安定にも暗い影を落としているが、マクロ経済状況に関する話題に入る前に、今日の記事では、そもそも何故電気がこないのか?というシンプルな問いと向き合いたい。

   power plant

 この問に関するストレートな答えは、「バングラデシュにおける経済活動の活発化を背景に増加を続ける電力需要に、電力供給が追いついていないから」ということに尽きるのだが、では、深刻な電力危機を前に、バングラデシュ政府はただ手をこまねいているのだろうか?

 そんなことはない。現与党アワミ・リーグが2009年に政権を取得して以来3年間で、バングラデシュの電力供給は約3,300メガワットも増え、2012年2月現在で7,448メガワットの供給能力を実現したと政府は発表している。しかし、前回の記事で紹介した通り、Bangladesh Power Development Boardの日々の需給統計を見ても、総需要約5,000メガワットに対し、供給は約800メガワットも追いついておらず、大規模な計画停電が常態化している。

 供給されるはずの電力は一体どこに消えてしまったのだろうか?

   power shortage 1

 どうも“紙の上での電力供給能力”と“実際に供給される電力量”に大きな差があるようだ。例えば、当局が発表している「電力供給能力」は、国内の発電所がそれぞれフル稼働した場合の数字を積み上げているが、多くの発電所が老朽化しており、現実の供給能力は大幅に低下している。そして、新規の発電所建設は政府の資金不足のため遅々として進んでいない

 また、アワミ・リーグ政権成立以降、多くの時間と資金を要する新規発電所建設に代わるスピーディーな電力供給アップを目指して導入された「Quick Private Rental Power Plant」は決定的な失策だったとの批判に晒されている。

 「Quick Private Rental Power Plant」政策とは、読んで字のごとく、政府が私企業(Private)の手を借りて当座の国内の電力需要を賄う政策だ。具体的には、政府が選別した企業に、小規模自家発電機(いわゆるジェネレーター)と発電に必要な燃料費を提供、そして、各企業が沸かした数十ワット程度の電気を政府が買い取っていくというものだ。

 各企業がジェネレーターを購入して電力を沸かし、それを政府が買い取れば、たとえ個々には小規模であっても、時間を掛けることなく、チリも積もって山となった電力を供給できる…これが、アワミ・リーグが政権取得時に有権者に示した電力危機脱却のための秘策だった。実際に、現在政府が発表している「3年間で3,300メガワットの新規電力供給の実現」の大半は、このPrivate Renal Power Plantによるものだ。

 しかし、電気は来ない。停電は増える。何故だろう。 

   power shortage 2

 前述の通り、当局が発表する「電力供給量」は、今ある設備がフル稼働した場合に供給させる仮想の電力量で、実際に供給される電力量とは異なる。そして、Privte Rental Power Plantが大掛かりな失策となってしまったシンプルな原因は、政府から発電に必要なジェネレーターの提供を受けた企業が、ジェネレーターをフルに稼働させていないことにある。

 これは何故か?燃料が十分でないのだろうか?いや、燃料代は政府から企業にフル稼働に必要な分だけシッカリ支払われている。では、その資金はどこに?その確たる答えを示す証拠はどこにもない。しかし、金の行く先が彼らのポケットであることは、多くメディア、専門家、そして市民が知るところだ。では、何故、当局はしっかりチェックをしないのか?それは、そもそも選ばれた企業が、政府の高官や政治家との密なパイプがあるものが多いためだ。

 それだけではない。政府が各企業から買い取る電力価格には、このスキームに企業が参加するインセンティブを高めるためのマージンも織り込まれている。即ち、このスキームに“招待”された企業は、電気を作り出す原料費を政府から調達する時、そして、作り出した電力を政府に販売する時の双方で、ガッツリと儲けることができる訳だ。そして、儲かった利益の一部は、彼らをスキームに“招待”した偉い人にキックバックされている。ストレートに書くのが憚られるストーリーだが、これがバングラデシュの現実だ。

 これは、単に「一部の人間だけが得をしてズルイ」、「電気が来なくてヒドイ」というだけの話に留まらない。

 グローバルに燃料価格が上昇基調にある中、Quick Private Rental Power Plantに必要な膨大な財政負担は、一般消費者向けの燃料や農家が購入する化学肥料の小売価格を抑えるための補助金増加と相俟って政府の財政を圧迫しているからだ。例えば、アジア開発銀行の試算では、政府歳出に占める電力・燃料・肥料関連の補助金の割合は2010年度の8.8%から2012年度には19.1%にまで上昇している。増大する費用を賄うために政府は国内銀行からの借入れを増やし、これが金利の上昇を招いている。

 つまり、電力不足で苦しむ国民や企業に電力を供給するために導入された「Private Rental Power Plant」政策は、政府高官や政治家とのつながりを持つ一部企業への補助金政策に化け、必要な電力を生むどころか、財政の圧迫と金利の上昇と言う巨大な負のコストをバングラデシュ経済にかける結果となったのだ。

 こうして、電力不足と、その背景にある政府のエネルギー政策実施能力の低さは、過去10年近くに亘り保たれてきた経済活動の基盤である、マクロ経済状況の不安定化をもたらしている。具体的には、上述した財政の悪化と高騰を続ける銀行から企業への貸付金利に加え、過去10年で初めて二ケタ台に達したインフレ率、そして国際収支の悪化と為替レートの下落だ。次回は、バングラデシュの普通の人々の生活やビジネスの基盤を脅かし、人々から経済的、心理的余裕を奪っているマクロ経済の不安定化についてまとめていく。(続く)
バングラデシュの経済・産業が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/05/18 17:39

バングラデシュの経済は大丈夫なのか?(その1)

 縫製業を中心とする輸出とGDPの10%にも及ぶ海外出稼ぎ労働者からの送金等をエンジンに、過去10年、平均6%の経済成長を実現してきたバングラデシュはもはや最貧国とは言えず、経済規模で世界で上位4分の1に食い込もうとする新・新興国だ。

   バングラデシュ輸出セクターの伸び
   ~2006年第一四半期と比較して、バングラデシュの主力輸出品である衣類(Garment)は2.6倍の伸び、それ以外も2倍近くの伸びを示している~

 また、国民のアイデンティティの中核を形作るベンガル語による密なコミュニケーション、「黄金のベンガル」と呼ばれてきた豊穣な大地がもたらす農作物や大河が恵む川の幸は、国民国家としての強い基盤を作っている。

 こうした中、バングラデシュのMuhith財務大臣は「このままの成長が続けば2050年までに、バングラデシュは世界でトップ15の先進国への一つとなるだろう」と鼻息が荒い。

 しかし、過去の成功物語は、この国が今後もこれまで通りの発展をしていくことを保障するものではない。むしろ、バングラデシュ独立40周年を迎えている昨年来、バングラデシュの経済・社会は大きな曲がり角に直面しつつあるのではないか…各種経済指標を横目に、日々の新聞をにぎわせるニュースや、ダッカ市内の様子を観察していると、こうした懸念が日に日に強まっていく。

    ダッカの風景
          ~市内の高層ビルの23階から臨むダッカの風景 ~

 高まる懸念の背景にあるのは、経済活動の基盤となるエネルギーの圧倒的不足、マクロ経済の安定の揺らぎ、そして、こうした課題を解決できる唯一の主体である政府の貧弱な政策実施能力及び税金徴収能力だ
 
 バングラデシュの電力や道路等のインフラの未整備については、「1キロ10分」と言われる、ダッカの凄まじい交通渋滞頻発する計画停電等を例に、既にこのブログでも何度も触れてきたが、他国との比較の視点を持つと、この問題のスケールがより鮮明に浮かび上がる。

 以下の表は、OECD-World Economic Forumが年に一度公表している「世界競争力ランキング(World Competitiveness Report)」の指標のひとつであるインフラ整備について、バングラデシュ及びその近隣の途上国の状況を比較したものだ。最低評点は1=「極端に未整備(Extremely Underdeveloped)」、最高は7「国際的に見ても広範且つ効率的」までの7段階で評価されている。
 
 quality of infrastructure

 ご覧の通り、バングラデシュは対象142か国中、下から13番目の129位。中国はスリランカはもちろん、「インフラ未整備が成長のボトルネック」と指摘されているインドやパキスタンにも大きく水を開けられている。この中でも特に足を引っ張っているのが電力(1.6)だ。

 この国全体の電力需要・供給の状況については、Bangladesh Power Development Boardのウェブサイトで更新される日次のデータで確認できる。例えば、4月17日の電力総供給は4,202メガワット、総需要は4,909メガワットと出ている。こんな調子で、年間を通じて供給が需要を上回る日はまず無いといってよく、総需要が約5,500メガワットにまで達する夏場はさらに計画停電が増えることになる。そして、需要は毎年伸びていく一方で、供給の伸びは覚束ない。
 
 そして、今やバングラデシュの電力不足はもはや「電力危機」と言うべきフェーズに突入していると言って良い。2010年8月からダッカの新築マンションやオフィスビルへの電力供給停止が実施されていることはこのブログでも既に触れたが、これに加え、今年3月からはバングラデシュ全土の産業部門への電力供給が夕方6:00から朝6:00まで一日12時間停止されている。政府との契約により24時間中断なしの電力供給を約束されていた輸出加工区(Export Processing Zone)でさえ、上記措置に伴う停電が一日数時間に亘り発生し、輸出製品の出荷に深刻な影響が出ている。多くの工場や企業はジェネレーター(自家発電装置)を備えているとは言え、これを途切れなく稼働させるための燃料費や修理費は大きな負担だ。(4月12日付けFinancial Express紙;Power Disruption in EPZs put investors in great trouble

 バングラデシュ衣料製造・輸出業者組合(Bangladesh Garment Manufacturer and Expor Industry Assocation)によれば、頻発する停電による製造の遅れが発生する中、海外バイヤーへの納期を何とか守るため、多くの企業が、船ではなく、航空機での輸出を余儀なくされている。その結果、業界の平均輸送コストが一製品当たり30セントから3.75ドルへと13倍に跳ね上がっているという(4月7日付け Financial Express紙:Power outage hampers apparel sector)。

  ダッカ市内の様子2
~ ダッカ市内に無秩序に張り巡らされる電線。しかし、電線を流れる電気の供給はなんとも心もとない ~

 そして、「産業部門への電力供給の1日12時間停止」という、経済活動を窒息死させるような施策を政府が講じざるを得なかった背景には、「食糧危機の回避」という深刻な事情がある。即ち、現在、今後収穫期を迎えるボロ米の生産に必要な灌漑用電力の不足により、好天にも関わらず国全体が食糧危機に陥る可能性が現実味を増したことから、産業部門に回す電力を農村に回さざるを得なくなっているのだ。  

 バングラデシュは、縫製業を中心にその安価で豊富な労働力から「China+1」、「(BRICに続く)Next11」として、近年日本を含め諸外国からの注目を集めているが、電力不足による生産コスト・物流コストの増は、賃金水準の競争力を相殺して余りあるほどの負のインパクトをこの国の製造業に与え、その状況は年々悪化の一途を辿っている

 そして、今は未だ4月。これからがバングラデシュの本格的な酷暑の始まりであることを考えると、事は余りに重大だ。今年に入ってさらに深刻さを増した電力危機は未だ序章に過ぎない、ということなのだのだから。そして、電力危機とその背景にあるエネルギー不足は、この国が過去10年間保ってきたマクロ経済の安定にも暗い影を落としつつあるのだ(続く)。
バングラデシュの経済・産業が織り成す物語 | コメント:(1) | トラックバック:(0) | 2012/04/18 14:45

バングラデシュは本当に“最貧国”なのだろうか?(その2)

 国の豊かさや人々の幸福感を計る物差しは単一ではあり得ない。数字で表し難いものも多くあろう。しかし、人と人とのコミュニケーションの量は、家族であれ、会社であれ、あるいは国であれ、ある人間集団の豊かさや幸福感を考えるうえで、欠くことのできない要素では無いだろうか

 人々がその経験から感じている通り、コミュニケーションは情報共有や、相互理解を生み、協働の基礎となる信頼感や一体感を創り出す。あるいは、人間集団が直面する様々な危機を乗り越えるResilience(耐久力)を高めていく。

 この点、世界でいわゆる「最貧国」と分類される国々の多くに見られる共通項の一つが、内戦や紛争等によって、国民同士の信頼感が失われていることだ。宗教や部族の違い等に端を発する紛争により国民同士のわけ隔てない、密なコミュニケーションが困難となってしまったこうした国々では、ビジネス展開は困難であり、開発プロジェクトの成果も出にくい。

 この視点で見ると、バングラデシュは、「最貧国」に分類されながら、驚く程コミュニケーションが豊かな国だ。コミュニケーションの豊かさを図る指標が世の中に存在するのかは知らないが、少なくとも世界で5本の指には入るのではないだろうか。何しろ、世界一の人口過密国。どこに行っても人ばかり…兎に角人と人との距離が近い。

  人口過密国バングラデシュ2

  物質的なアミューズメントも限られ、イスラム国家ゆえにお酒も手に入り難い状況の中、人々の娯楽は専らお茶をすすりながらの「おしゃべり」だ。

 こうした物理的な状況に加え、コミュニケーションの密度を高めるうえで大きく貢献しているのがベンガル語だ。バングラデシュは、東部山岳地方の少数民族を除けば、人口のほぼ全てがベンガル語を母語とするベンガル人。パキスタンからの独立のきっかけとなり、動力となったのも、パキスタンによるウルドゥー語公用語化の動きへの強い反発と、母語ベンガル語を守ろうという意思だった。

 同一言語での密なコミュニケーションは宗教の違いも乗り越える。バングラデシュは国民の9割近くがムスリムであるが、キリスト教徒やヒンドゥー教徒も社会で認知され、受け入れられ、尊重されている。

 例えばこんなエピソード。

 ラッシャヒという地方都市の近くにあるプティヤは、立派なヒンドゥー寺院群で知られる観光名所。ここを訪問した僕に、寺院の中や一つ一つの背景にある宗教的意味をブロークン・イングリッシュで説明してくれたガイドは、ムスリムだった。

 「いや、まぁ仕事だから。でも、そこいらのヒンドゥー教徒より、ヒンドゥーの教えについて詳しい自信はあるけどね。」

 はにかんだ笑顔が印象的なヒゲ面のオヤジは、訪問客である僕を自宅に招き入れ、「今食べたばかりだから」と必死で遠慮する僕に、大量の昼ごはんを振舞ってくれた。
 
 あるいは、昨年10月、ヒンドゥーの一大イベントである「ドゥルガ・プジャ」の祭りで目にした光景は、バングラデシュ人が、宗教の違いを尊重する姿勢を余りにも雄弁に物語っていた。この巨大な祭りの期間中、ダッカも含め、町のあちこちに、ヒンドゥーの神々が祭られる立派な祭壇が作られる。

そして最終日には、その神々の像を聖なるガンジス川に流すべく、ヒンドゥー教徒が大挙して、ド派手に装飾したトラックに神々を載せ、大音量のスピーカーで音楽を鳴らしながら、町中を狂喜乱舞しながら練り歩くのだ。当然、街中の交通網は完全に麻痺。まるで、国全体がヒンドゥー教国になったかのような大騒ぎだ。

  人口過密国バングラデシュ
 ~街中を練り歩くヒンドゥーの神々を載せたトラック。大音量と狂喜乱舞は明け方4:00くらいまで続いた~

 ところが、この国のムスリムと来たら、例えばこんな感じだ。
 「今日は、ヒンドゥーの同僚のアイツが、あそこで踊り狂ってくるから、俺が代わりに店番だよ」

 茶屋で店番をしながらヒンドゥーのパレードを所在無げに見つめる親父は涼しい顔。挙句の果てに、ドサクサにまみれて一緒に踊り狂っているムスリムも目立つ。

 モスクが立ち並ぶバングラデシュの街で展開される巨大なヒンドゥーのお祭り、そんな祭りを、それぞれのやり方で楽しむバングラデシュ人の様子を見ていると、宗教の違いを理由に殺し合いが発生している世界が、途方もなく遠くに感じるものだ。

 密なコミュニケーションは社会のセーフティ・ネットとしての役割も果たす。多くのベンガル人の住まいである、昔の日本の長屋のような集合住宅はとても狭く、プライバシーは皆無といって良い。しかし、家族や親戚、そして隣人同士の密なコミュニケーションにはうってつけの場所だ。物の値段から新しい店のこと、政治の話まで情報は口コミですぐに広がる。常に光っている人の目や、瞬く間に広がる噂話は、犯罪の抑止にも効果を果たす。家族が怪我や病気で働けなくなった場合には、手を差し伸べる親戚や家族がすぐ傍にいる。


 
 そんなバングラデシュに飛び込んだ日本人にとって、ベンガル人のあまりに濃密なコミュニケーションは、うっとうしく感じる時もある。 

 何故、通りすがりの見知らぬ人間に、国籍・仕事・住所から始まり、給料額や、結婚の有無や、相手との馴れ初めや、結婚しないこと理由や、あるいは携帯電話の番号を聞いてくるのか。ちょっと理解できないこともある(というか、殆ど常にそう思う)。

timp
 ~トラックの荷台を使った小型バス「ティンプ」でベンガル人と密着しながら村を移動中の筆者。こうした空間では、ほぼ選択の余地無く、ベンガル人との濃密な会話を楽しむことができる~

 しかし、バングラデシュ人のこうした濃密なコミュニケーションが、国を発展させていく上での力となり、また国家を決定的な過ちから守る盾となっているように思う。そして「最貧国」ならぬ「新・新興国」バングラデシュが直面している課題のひとつは、経済成長と都市化の進展の中で、かつて社会のセーフティ・ネットとしての役割や様々な紛争予防の機能を果たしてきたコミュニケーションが薄れ、共同体から零れ落ちる人が増えてきていることだろう。

 人と人との密なコミュニケーションが培ってきた社会資本を守りつつ、如何にして成長の糧を社会の隅々にまで行き渡らせるか、そして、そうした成長を持続的なものにしていくか、日本を含め、多くの先進国が経験してきた、そして今尚試行錯誤を続けている難題に、今、バングラデシュも向き合っているのだ(終わり)。
バングラデシュの経済・産業が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/04/14 14:40
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