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バングラデシュの農村に電気は届くのか?(その4)

 「ソーラー・パネルとマイクロ・クレジットの併せ技で、送電線網が届きにくいバングラデシュの農村部に電気を灯らせる」
 こんなアイディアを面的・持続的に実行に移すには、ターゲットとなる家庭の慎ましい購買力、ソーラー・パネルを販売するローカルNGOやマイクロ・クレジット機関の乏しい資本基盤、そして政府の貧弱なプロジェクト実施能力、といった幾重もの壁を、継続的に乗り越えていかなければならない。


バングラデシュにおけるソーラー・パネル販売促進に関する背景等については、下記の記事を併せてご覧下さい。
   バングラデシュの農村に電気は届くのか?(その3)
   バングラデシュの農村に電気は届くのか?(その2)
   バングラデシュの農村に電気は届くのか?(その1)


 こうした中、世界銀行がThe Infrastructure Development Company Limited(バングラデシュインフラ開発公社:IDCOL)を実施機関として2003年より展開している「Rural Electrification and Renewable Energy Development Project」 が、例外的なスピードで、バングラデシュの農村部にソーラー・ホーム・システムを設置出来ている背景には、Grameen Shakti等、現場ネットワークを持つNGOやマイクロファイナンス機関との連携に加え、Output-Based-Aid(OBA)という資金提供手法がある。

 世銀をはじめ、多くの開発機関によるプロジェクト融資は通常Input-baseで実施される。学校を建設するプロジェクトであれば、用地、セメント、ボトル、鉄骨、あるいは現場作業員の人件費など、学校という最終アウトプットを作り出すために必要なインプットの購買あるいは見積もりに応じて、資金を提供する方法が採られる。
 
 他方、Output-Based Aidの場合、資金提供のタイミングは文字通り、アウトプットに応じることになる。ソーラー・ホーム・システムの場合には、システムを販売・設置するGrameen Shakti等のローカルNGOに対して「農村部の家庭にソーラー・ホーム・システムが据え付けられ電気が灯る」というアウトプットを確認した段階で、つまり、出来高払いで、資金が提供されるのだ。

 Input-baseとOutput-baseの本質的な違いは、プロジェクトの遅れ等によるコスト増の負担を、プロジェクトの発注側(IDCOL)及びそれをファイナンスする援助機関(世銀)側(つまり、その資金を提供している先進国の納税者)ではなく、プロジェクトを実施する業者側(Grameen Shakti)が負う点にある。何故なら、事前契約で合意したコストの範囲内でソーラー・ホーム・システムを設置するというアウトプットを出さない限り、インプット購入に必要な費用が提供されないのだから。

 これは、プロジェクトのアウトプットを可能な限り早く出そうという強いインセンティブを実施機関に与えると同時に、プロジェクトの成果を発注側が極めてタイムリー且つ正確に把握する仕組みがビルト・インされるという効果をもたらす

 Grameen Shakti等の業者側もマイクロ・クレジットを組み合わせてソーラー・ホーム・システムを販売した後、アウトプットさえ示せば、その資金回収を待つ事なく次なる顧客向けのソーラー・ホーム・システム仕入れ資金をIDCOLから借り入れることが出来る。しかもその資金は世銀が提供する無利子資金。これにより低コストで資金の回転率を高めつつ、商品の販売及びマイクロ・クレジット融資を実施出来る。このサイクルが回ることで、ソーラー・ホーム・システム販売により利益を上げるというBusiness Profitabilityと、送電線網が届きにくい農村部に電力アクセスが次々と実現する、というSocial Impactが両立されるのだ。

 Solar Panal in Rural Bangladesh

 なお、業者側が最初のアウトプットを出すまでに必要な程度の当初資金を持ち、且つ、健全な経営体制を有していなければ、この仕組みはうまく機能しない。このため、ソーラー・ホーム・システムを世銀資金を活用して販売するローカルNGO等を選択する際、IDCOLは①最低100万タカの資本金を有するか、②負債額が資本金の3倍を超えていないか、③少なくとも1万人の顧客がいるか、④外部監査に基づく会計報告を毎年好評しているか、といった基準を設定し、これを業者選抜の入札参加に関する前提条件としている。


 国連の統計では、2010年現在、世界で14億人もの人々が電気無しの生活を送っている。その多くはバングラデシュの農村部やチョール(中州)に暮らす人々同様、送電線網の敷設が極めて困難な地域で暮らしている。一方、IEA(International Energy Agency)は、2030年までに全世界の人々が電力アクセスを手にするには、現在の投資額を遥かに上回る毎年360億ドル(約3兆円)の資金が必要と見積もっている。ニーズは莫大に存在し、資金はまったく不十分ということだ。ソーラー・パネルという技術革新を、それを真に必要とする人々の手に届けるには、公的資金の効率的な活用と民間資金の更なる動員が欠かせない。
  
 2003年、世銀はイギリスの援助機関DFID(Department for International Development)と連携して、Output-Based Financingのコンセプトを世界に広め、具体的なプロジェクトにOBA形式で資金を提供し、その結果得られた教訓をまとめて発信することを目的に、Global Partnership on Output-Based Aid(GPOBA)を立ち上げた。現在GPOBAは、世銀、DFIDに加え、Aus-aide(オーストラリア政府の援助実施機関)、DGIS(オランダ政府)、SIDA(スイス政府の援助実施機関)及びIFC(世銀の対民間セクター投融資部門)の参加及び資金提供を得ており、世銀はGPOBAのスキームを活用して、世界中で、地方道路整備や電力供給等のインフラ・セクター及び母子保健等のヘルス・セクターを中心に、総額約39億ドル、136のプロジェクトで、Output based Aidの手法を活用している。
 OBA World Wide
(世界で実施されているOutput-based Aidのプロジェクトについては、"OBA-DATA"で全て確認することが出来る)

 継続的な技術革新により、さらなる価格低下や性能向上が見込まれるソーラー・ホーム・システム。これが途上国の農村部も含めて広く継続的に普及していくためには、迅速なプロジェクト実施のインセンティブを実施機関に与え、購買力に乏しいエンド・ユーザーでも入手可能なレベルにまで価格を調整し、具体的な成果をタイムリーに示すことで官民双方の資金を動員できる、ファイナンシング・メカニズムが欠かせない。そして道具は既に我々の手にある。

 世界に存在する電気の無い村々の数多の家庭に、経済的、社会的、そして地球環境的に持続可能な形で明かりが灯る日は、実はそう遠くないかもしれない。(本シリーズ終わり) 
  Solar Home System
 ~ソーラー・ホーム・システムの力で灯る明かりの下で卵を炒める茶ドカン(茶屋)の若者。バングラデシュの南端、ボルグナ地区のガージョン・ブニア・バザールより~
バングラデシュと世銀の協働が織り成す物語 | コメント:(1) | トラックバック:(0) | 2012/06/30 19:40

バングラデシュの農村に電気は届くのか?(その3)

 バングラデシュでは農村部や中洲を中心に、約9,400万人もの人々が今なお電気無しの生活を送っている。一方で、その国土は大小約400の河川に分断され、雨季には約4割が水没する環境下にある。大型発電所の建設と送電線網の配置という従来型の方法では、全国津々浦々にまで電気を供給することは極めて困難だ。こうした中、
 「2020年までに電力のユニバーサル・アクセスを実現する(The Vision and Policy Statement 2002)」
 「全エネルギー供給に占める再生エネルギーの割合を現状の1%以下から2015年には5%に、2020年には10%にまで高める(The Renewable Energy Policy 2008)」」
というバングラデシュ政府が掲げる野心的な目標実現に向けた有力なツールが、数十ワット程度の発電能力を持つ小型の太陽光パネル、充電用バッテリー、電灯、その他付属品で構成される、ソーラーホームシステム(SHS:Solar Home System)だ。
 
  Solar Home System

 ただ、技術革新によって人々の生活を変革し得るプロダクツが開発されても、それを、面的且つ持続的に普及させていくには、以下のような需要面・供給面の双方にある壁を乗り越えなければならない。

 需要面については、対象となるバングラデシュ農村部で暮らす人々、即ち、概ね月収5,000~10,000タカ程度(約5,000円から10,000円)の層に手に届き、実際に購買意欲をそそるような価格と支払方法を考えなければならない。ソーラー・ホーム・システムが魅力的であり、将来の収入向上に役立つと考える人はバングラデシュの村にも少なからず存在するかもしれないが、数万タカもの金額を耳をそろえて支払うことのできる家計はごく僅かなのだから。
 
 一方で供給側が持続的且つ効率的に、ニーズに応じて次々とソーラー・ホーム・システムを提供していけるメカニズムも必要であり、その際、資金調達面とプロジェクト実施面の双方で課題がある。

 まず、上記ターゲットに対して、ソーラー・ホーム・システムを販売する場合、一括払いではなく割賦販売やローンが有効であることは容易に想像がつくが、これには供給側の資金調達が壁となる。つまり、対象となる層が支払いやすいスケジュールで割賦販売やローン販売しようとすれば、代金回収に時間がかかることから、供給側が次なる顧客向けのソーラー・ホーム・システムを仕入れるための資金を確保できるまでの間、ニーズに応じることが困難となる。ソーラー・ホーム・システムを村々に売り込み、設置するのに必要なネットワークを持つローカルな企業や草の根のNGOの資本基盤が慎ましことを考えれば、資金の回転率を高める必要性は殊更高い。もちろん、供給側が、銀行等からのローンによってまとまった資金を確保し、まとめて仕入れをする手もあろうが、これに伴い発生する金利は、ソーラー・ホーム・システムの価格に転嫁されざるを得ない。価格が高くなれば、せっかくの技術革新の成果が、それを必要とする人々の手から遠ざかってしまう。

 こうした資金調達面・価格面の問題があるからこそ、世銀から提供される無利子の融資資金を活用した政府の介入が意味を持つ。しかし、ここで更なる問題と対峙しなければならない。それは、世銀や日本をはじめとする多くの開発パートナーが揃って頭を悩ましている「政府のプロジェクトが当初予定通り前に進まない(その結果、初期の開発成果がなかなか実現されず、コストも予算を上回ってしまう)」という問題だ。

 例えば、政府が、ソーラー・ホーム・システムをまともに据え付けることが出来る業者を選び、彼らが正しい価格で必要な機材を必要な分だけ仕入れ、それを目的通り使っているかを事前・事後にスクリーニングし、モニターするためのシステム、つまりしっかりとした入札/調達プロセスをバングラデシュ政府が確立し実施するのは容易でない。また、政府のプロジェクト実施機関に、必要な能力を持った人員が十分な数いない、という話は五万とある。さらに、プロジェクト内容の微細な変更でも、関係省庁全てに合議をまわし、その上でトップレベルまで承認を取らなければならない等、万事につけ政府内の意思決定に時間がかかる。こうしてダラダラと進めているうちに、インフレによる資材コストが上昇等の影響で、当初の予算枠内で作業ができなくなる…、仕方なくプロジェクトのリストラをするが、そのためにさらに膨大な時間がかかる…

 書いているだけで頭が痛くなるこの手の話は、世銀プロジェクトのポートフォリオを見ていても、決して稀な話ではないのだ。

 バングラデシュの農村部の家庭に、広く、そして次々とソーラー・ホーム・システムを設置し、当該家庭の蛍光灯が点灯するという「アウトプット」を出す、もって、その家庭の子供たちの勉強時間が延びる、あるいは家計の所得が向上する等の、前回の記事で登場したファリダさん一家が享受しているような「アウトカム」を、面的・持続的に創出していくには、プロジェクトのデザイン、プライシング、資金調達、実施の各面で発生する様々な課題を確実且つ継続的にクリアしていかなければならないのだ。簡単な話ではない。

  Solar Home Systemの力で灯る蛍光灯
       ~ Solar Home Systemの力で灯る蛍光灯 ~
   
 ところが、ここでちょっとビックリするような話がある。

 世銀からの融資を元にソーラー・ホーム・システムの設置プロジェクトを実施しているThe Infrastructure Development Company Ltd (IDCOL)は、2003年のプロジェクト開始当初、2008年までに5万個のソーラー・ホーム・システムの敷設を目標としていたところ、目標を3年前倒しで、つまり2005年には目標を達成したのだ。しかも、当初の予算見積もりを約200万ドル下回るコストで。さらにプロジェクトの対象を拡大するフェーズ2の目標である「2012年末までに追加で100万個の設置」を早くも2011年6月には達成している。

 これは極めて例外的な成功だ。この背景にはいったい何があるのだろうか?IDCOLの職員が皆そろって例外的に有能で高潔だったのだろうか?

 むろん、IDCOLの職員の努力もあろうが、注目すべき一つのカギは、本プロジェクトが採用しているOutput-Based-Financingという資金提供手法だ(続く)。
バングラデシュと世銀の協働が織り成す物語 | コメント:(1) | トラックバック:(0) | 2012/06/26 23:24

バングラデシュの農村に電気は届くのか?(その2)

   Solar Home System
   
 バングラデシュの電力不足の問題については、これまでこのブログでも何度も取り上げてきたが、人口の8割近くが住む農村地帯やチョール(中州)の多くでは、送電線網の敷設が困難であることから、電力自体が届いていない。バングラデシュの電化率(国民のうち電気が使える比率)は2009年時点で41%。都市部は76%である一方で、農村地帯の電化率は僅か28%に留まっており、今なお9,400万人近いバングラデシュ人が電気のない生活を送っている。ちなみに、国民一人当たりの年間電力使用量は146.4キロワット。もちろん、バングラデシュ国内で相当程度の格差があるが、単純比較で、日本一人当たり(7,833キロワット)と比較すると、日本人はバングラデシュ人と比較して50倍以上の電力を消費している計算になる。

 人間電気がなくても生きていくことはできる。しかし、その生活は相当程度不便なものとなり、社会指標、経済指標を改善するための多くの機会を逸さざるを得なくなる。例えば、前回の記事でバングラデシュにおける携帯電話の爆発的な普及について紹介したが、家に電気が来ていなければ充電ができない。この場合、村でグリッド(送電線網)と繋がっている数少ない裕福な家庭や店にまで出向き、充電を依頼しなければならない。しかも、夏場は一日12時間以上という計画停電の合間を縫ってだ。

 また、電気代わりに使われる灯油ランプ(いわゆるランタン)は、室内の空気汚染や悪臭をもたらし、室内で多くの時間を過ごす女性や子供たちの健康に悪影響を及ぼす。一方でランタンに火をともすための灯油購入のコスト(1リットル46タカ程度)は馬鹿にならない。また、手元を明るく照らす必要のある手縫いや機械の修理等の内職は夕暮れとともに中断せざるを得ない。僅かな灯油ランプの元での出産は危険極まりないものとなるだろう。

ランタンを灯す商店
       ~ 灯油ランプ(ランタン)の僅かな灯で営業を続ける商店 ~

 電気のない生活を具体的に想像してみると、たとえ豆電球2-3個と携帯電話の充電ができるだけの、せいぜい40~120ワット程度の慎ましい電力が手に入りさえすれば、その家庭の、あるいは村の生活を激変させる効果を持つことが理解できる。問題は、送電線が敷設されるのを待っていては、人々の切実なニーズは場合によっては一世代待っても満たされないということだ。しかし、ソーラー・ホーム・システムはこの現実を変えた。 


 前回の記事で紹介したボルグナ地区の Garjon Bunia Bazaar(ガージョン・ブニア・バザール)で夫とともにお茶屋さんを営んでいるFarida Begum(ファリダ・ベガム)さんは、そんな激変を経験した一人だ。ベガムさんは、3万2千タカ(約3万2千円)でソーラー・ホーム・システムを購入。頭金として4,000タカを支払い、残りは3年のローンを組んで毎週700タカを分割払いで返済をしている。

    ファリダ・ベガムさん
 
 ファリダさんはコンデンス・ミルクと砂糖をお茶のグラスに入れ、スプーンでカチャカチャとかき混ぜながらソーラー・システム購入後の生活の変化について語ってくれた。「明かりがついたお陰で、日暮れ後も茶屋の営業を続けることができるようになり、収入が大きく増えました。でも、収入よりも大きいのは、子供たちが夜、家で勉強をできるようになったことです。娘と息子の学校の成績は目に見えてよくなりましたから。」

夜勉強をするベガムさんの子供たち
  ~ソーラー・システムで生み出された電気の元で勉強をする、ファリダさんの長女Shatiさんと弟のTowhid君~

ソーラー・システムによって、ガージョン・ブニア・バザール全体の様子も激変した。以前は人々の生活や仕事は夜明けとともに始まり、夕暮れとともに終わっていたが、今では黄昏の訪れとともに家々に明かりがともり始め、人々の会話や活動は熱を帯びる。

 たとえば、大勢で茶店に集まって、白黒テレビで映画を見たり…
    Garjon Bunia Bazarの様子③

 床屋で髪を整え、髭をそったり…
    Garjon Bunia Bazarの様子①

 あるいは、薬局で薬を処方してもらったり…
   Garjon Bunia Bazar②

 ミシンで縫い物を続けたり…
   Garjon Bunia Bazarの様子④

 小さな太陽光パネルによって、ガージョン・ブニア・バザールの夜は実に表情豊かなものとなった。 


 2002年、バングラデシュには約7,000のソーラー・パネルしか存在していかった。今日、バングラデシュの農村部の低所得者層だけで、140万の家庭がソーラー・パネルの恩恵に浴している。そしてその効果は当該家庭やコミュニティを超える。例えば、灯油やディーゼルの使用の低下による温室効果ガスの排出量減、エネルギー補助金減による財政赤字の緩和。あるいは、ソーラー・パネルの敷設やメンテナンスを提供する、いわゆる「Green Job」の創設だ。バングラデシュ政府は2021年までに電化率100%の目標を掲げており、ソーラー・パネルの敷設をその有力なツールと認知している。世界銀行も、2011年~2014年までの4年間を対象に策定した「Country Assistant Strategy」(国別援助戦略)において、GridとOff-Gridの組み合わせて90万の新たな家庭に電気を届けるプロジェクトを展開し、バングラデシュ政府の野心的目標達成を後押しししている。アクセスが困難な農村部を中心に存在する莫大なニーズを迅速に満たしていく際のポイントは、現場にアクセスのあるNGOとの連携、そして、革新的な外部資金の動員メカニズムによる、ソーラー・パネル提供主体への途切れない資金提供と利用者負担の低減の両立だ。(続く)
バングラデシュと世銀の協働が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/06/22 16:51

バングラデシュの農村に電気は届くのか?(その1)

 途上国は時として、日本をはじめとする先進国が歩んできた長い発展の過程を、一足飛びで進んでいく。後発者の利得とでも言うのだろうか。携帯電話がその好例だ。グラハム・ベルが電話を発明、フィラデルフィアの万国博覧会に出展したのが1876年。日本で始めて固定電話サービスが開始されたのが1890年。重さ3キロもある肩掛けの携帯電話「ショルダー・フォン」が始めて日本に登場したのが1985年。僕が大学に入学した1996年に、携帯電話を持っている学生は極めて稀だった。

 そしてバングラデシュ。政府が始めて携帯電話事業の入札を実施したのが1996年。その15年後の昨年、バングラデシュの携帯電話加入者数は全国で8,500万人を突破した。総人口1億5千万の約6割。年のスラムから辺境の農村まで、子供やお年寄りを除く生産年齢人口のほぼ全員が携帯電話を日々のコミュニケーションに、様々な社会サービスの提供や受け取りに、あるいはビジネスの生産性向上に役立てている。ちなみに、バングラデシュの携帯電話市場には、外資の多数参入している。例えば、業界最大手のGrameenPhoneについては、ノルウェーの通信事業社テレノール、米国著名投資家のジョージ・ソロス、そして日本の商社丸紅が事業立ち上げに当たって主要な出資者となった。そして、業界2位のBanglalinkはエジプト、続くAxiata BangladeshにはNTTドコモが出資、Airtel Bangladeshはアラブ首長国連邦とインドといった具合だ。

     携帯電話加入者数の推移


 一方で、>固定電話は伸び悩んでいる。2010年現在で固定電話加入者数はわずか約90万回線、人口の0.6%程度だ。大河で国土が分断され、雨季には国土の4割近くが水没し、そして人口の8割が農村部に展開しているバングラデシュでは、固定電話回線を農村部まで敷設し、電話代を徴収するといったメカニズムの構築が著しく困難だからだ。

     バングラデシュの固定電話加入者数の推移

 他方で、携帯電話であれば基地局をひとつ立てれば広範囲にわたって電波へのアクセスを提供できる。大河で寸断された海抜5メートル以下の地理的特徴も、携帯電話普及に当たっては強みに変わる。何しろ、電波をさえぎる山や谷が一部東部の丘陵地帯を除けば、皆無なのだから。プリペイド式にすれば料金を徴収して回る必要もない。

 街中の携帯電話店で売られている新品機種は安いものなら1,000タカ(約1,000円)程度で購入可能だ。そして携帯電話の修理店が地方の都市や街も含めて複数存在する。加えて機種には契約者情報が記録されたSIMの制約が無いことから、例えば友人が使わなくなったた古い機種を譲り受けて修理しながらどの携帯電話会社でもSIMカードを入れ替えて利用することができる。そして、SIMカードの価格は200タカ程度。通話料金は国内で一分一タカ以下、東京にかける場合は、一分15タカ(15円程度)と激安で基本料金はない。つまり、誰かから中古の携帯電話機種を譲り受けることができれば、誰でも200タカ程度でグローバル通信網へのアクセスを手にできるのだ。

 先進国が固定電話→PHS→携帯電話という長い変遷のプロセスを経験してきた一方、バングラデシュをはじめとする途上国は、固定電話回線という重厚長大、全国画一式のインフラ敷設を経ることなく、時代を飛び越え、移動可能な手のひらサイズの通信アクセスを全国津々浦々まで提供することに成功した。動力となったのは技術革新、現地の起業家、外国人投資家、そして現地の人々が購買できるプライシングだ。

 そして、同じような変化が電力分野でも広範に発生しつつある。大型発電所で電気を沸かし、送電線網を使って各家庭にまで届けるという従来のインフラ構築が困難な農村部やチョール(中州)の住民に電力アクセスを可能としたもの。それが、小規模太陽光発電だ。


 
 ダッカから300キロ以上南に位置するボルグナ地区のナルトナ・ユニオンにある村、Garjon Bunia Bazar(ガージョン・ブニア・バザール)。ダッカを出発したのが土曜日の朝8:00。大河を二つ渡り、凸凹道に揺られながら、ようやくバングラデシュ南部の主要都市ボリシャルに到着したのが夕方の5:00。夜間の移動は交通事故のリスクを格段に高めるため、ボリシャルのゲスト・ハウスで一泊。翌朝日曜日の早朝5:00にボリシャルを出発し、目的地のボルグナ地区、ガージョン・ブニア・バザールに到着したのは太陽が既に中空に差し掛かった11:00頃だった。
 
 長旅でさび付いた足腰を伸ばしながらジープから降りた僕の目に映ったのは、長距離バスが一台通るのに精一杯程度の幅の道路脇に、トタン屋根と木の枝や葉っぱで作られた茶屋、薬局、雑貨屋、床屋等が家々とともに軒を並べる風景。その質素な道路に、ローカルバスの車体をバンバンと手で叩きながらバスの出発を告げる車掌の威勢の良い大声や、若者が二人乗りでまたがって走り去るホンダのバイクのクラクションの音がこだまする。路上をうろつく犬やヤギたちは、胃袋を満たす何かをせわしなく探し回っている。一見したところ、見慣れたバングラデシュの農村風景だ。ある一点を除いては。
 
   ガージョン・ブニア・バザール

 注意深くトタンの屋根上を見ると、50センチ四方程の小さな太陽光パネルがほぼ全ての家々に据え付けられている。そう、この村は世界銀行がバングラデシュの政府関係機関Bangladesh’s Infrastructure Development Company Limited(IDCOL:バングラデシュインフラ開発公社)および太陽光パネル敷設を手がけるグラミン・グループ傘下のローカルNGO、Grameen Shakti(グラミン・シャクティ(ベンガル語でグラミンは「村の」シャクティは「パワー」の意味)と協働で展開する、 Rural Electrification and Renewable Energy Development Projectの現場なのだ(続く)。
バングラデシュと世銀の協働が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/06/20 04:47

開発プロジェクトの成果向上のためには何が必要だろうか?(その4)

 バングラデシュでは情報公開法(Right to Information Act)が2009年3月に議会で可決・成立しているが、これも、開発プロジェクトの成果を向上させ得る有力なツールだ。

 バングラデシュの西部、インド国境に近いシャトキラ(Shatkila)地区では、市民による政府のガバナンス向上をミッションに活動を続けるNGO、Agrogoti(アグロゴティ:ベンガル語で『前進』の意味)が、世銀の第三者評価プロジェクトを情報公開法を使って実施している。対象となるプロジェクトは、住民から選出された村議会、Union Parishad(ユニオン評議会)の強化を目指すLocal Government Support Projectだ。

 現在、バングラデシュには、地域住民が選挙で選出する村議会(ユニオン評議会)は存在するものの、実態は村の顔役たちが集まって、あーだ、こーだと議論をしているだけで、そこで決めた内容を実施することは極めて難しい。何故なら、ユニオン評議会の議員が利用可能な人員は評議会議長の秘書一人、そして利用可能な財源は、村人から徴収する微々たる税金のみというのが実態だからだ。つまり、バングラデシュの村では、住民代表が議論・決定した事項を、実行に移すための人員と予算を持つ「地方自治体(町役場や村役場)」が存在しないということだ。

 そして、各種の行政サービスは、各ユニオンにある中央省庁の出先機関が、中央からの指令に基づき実施している。これでは、地域住民のニーズに基づく社会サービスや小規模なインフラ整備の、きめ細かな実施は期待できない。汚職も起こりやすくなるだろう。

      Union Chairmanのオフィス
 ~ シャトキラ(Shatkila)地区のKhalishkhali Union Parishad(カリシカリ・ユニオン評議会)の建物。議長のオフィスとミーティング用スペース、そして秘書の執務室が入っている~

 こうした現状を変えるために、JICAが先行実施していたプロジェクトから得られた知見も借りて、世銀が全国的に実施しているのが、Local Government Support Projectなのだ。具体的には、ユニオン評議会に対し、住民からのニーズを反映したプロジェクトを実施する財源を与えるとともに、資金が真っ当に使われているか、ユニオン評議会がその説明責任を果たすための監査プロセスを導入する。

 世銀は、このProjectの成果指標のひとつとして「対象地域の女性の雇用がどの程度伸びたか」を設定している。そして、今回の第三者評価プロジェクトは、地元のNGO、Agrogotiの先導で、地域住民が情報公開法を活用して、上記女性の雇用に関する指標が実現できているかどうかをモニターし、最終的に世銀が実施する自主評価の結果とどう違うかを確認していくのだ。


子供たちが歓声をあげながらクリケットを楽しんでいる小学校の校庭の隅で、多くの女性と若干の男性たちが、椅子を並べて議論をしている。世銀のLocal Government Support Projectで提供された資金を使って、ユニオン評議会のイニシアティブで始めた地元の道路の修復事業がテーマのようだ。

     Social Mapping - Shelter 5

Agrogotiの担当者から、「世銀の成果指標によれば、このプロジェクト実施により地元の女性の雇用が20%から30%に改善することが目指されている」旨が紹介される。コミュニティのメンバーは、まず、何故道路のプロジェクトで女性において女性の雇用が重要なのか、という点から議論を始まる。

「女性が働いて家計を助けたければ、旦那と農作業をやればいいんじゃないのか?」
「いや、農作業は女性にとっては早朝から晩までの重労働。それに、すぐに現金が入ってくる訳ではないし…」
「田んぼの真ん中でトイレに行きたくなった時のこと、考えたことある?男は適当に用を足せばいいけれど、女性はそういう訳にはいかないのよ。」
「道路の修復もレンガを砕いたり、運んだりしなければならないけれど、農作業よりは随分楽。家からも近いかから、小さい子供の面倒を見ながら仕事を続け易い。」
 
 率直且つ実感のこもった対話が交わされる。そして、情報公開法に詳しい男性の一人が、その趣旨を女性たちに説明し、現在実施中の道路修復プロジェクトでは、世銀が目指す成果指標の通り「作業員の3割が女性」となっているかを、情報公開法を活用してユニオン評議会のオフィスに確認しよう、という運びとなった。   

 数日後、村の人々に数枚のリストが手渡された。道路修復を実施している業者を通じて、ユニオン評議会が入手した作業員のリストだ。見ると約2割少々しか女性がリストアップされていない。さらに、リストを眺めていた女性の一人がこんな声をあげた。
 「ありゃ、私の名前が入っている。何もやっていないのに!」

 業者からすれば、力が強い男性を出来るだけ多く雇いたい。また、地元の人々よりも低賃金で働いてくれる超貧困層等をどこか別の場所から連れてきて雇ったほうが安上がりだ。世銀は成果指標として女性の雇用を設定しているが、草の根では、こうした事情から必ずしも成果実現に向けてオン・トラックと(順調)とはいえないようだ。

 話はここで終わらない。実態を把握した女性たちは、ユニオン評議会議長との面会を申し入れた。世銀の成果指標と情報公開法を活用して得たデータを下に、議長に対して、必要な改善措置を業者が採るように伝えるためだ。議長は自分も実態を把握しきれていなかったことを認め、業者を呼んで実情を確認することを約束した。

 今後もこの村の住民は情報公開法を活用しつつ、自主的に、世銀のプロジェクトが「女性の雇用も生み出す、地域に役に立つインフラ整備」という初期の目的に向かって前進していくか、モニターを続けていくだろう。なぜなら、彼女たちこそ、このプロジェクトの最も重要なステークホルダー(利害関係者)なのだから。エンド・ユーザーが主役となる第三者評価の醍醐味はここにある。


 以上、4回に渡って、地方道路整備、サイクロン・シェルターの建設・修復、そして地方議会の強化といった現在進行中の3つの世銀プロジェクトに対して、Social Mapping、Citizen Report Card、及び情報公開法といった道具を使った世銀の第三者評価が、如何にして実施されるかを紹介してきた。草の根の市民の声とNGOの能力によって把握された様々な事実や学びが、プロジェクトの成果向上のためにしっかり活かされるか、今後、世銀及び政府側の覚悟が試される。その意味で、開発プロジェクトの成果を高めるための第三者評価が機能するためには、トップダウンのコミットメントとボトムアップの地道な取組みの双方が欠かせない。

 現在、世銀は全社体制でこうした取組みを後押しするべく、ぜーリック総裁のイニシアティブの下で、Global Partnership for Enhanced Social Accountability(社会的説明責任強化に向けたグローバル・パートナーシップ)というイニシアティブを開始した。背景には、「受益者などステークホルダーが公共サービス提供や資源管理の設計、監督、評価に関与することで開発成果向上が可能になると一層明らかになってきている」との問題意識がある。

 僕は今、こうした世銀がグローバルに掲げる問題意識を、試行錯誤を続けながら現場で実践に移す立場にある。成果(Result)向上の最前線で、マクロとミクロを往復しながら、開発効果の向上、汚職撲滅に向け、志を共にする世銀職員やNGOの仲間たちと、引き続き戦っていきたい(本シリーズ、終わり)。
バングラデシュと世銀の協働が織り成す物語 | コメント:(1) | トラックバック:(0) | 2012/03/10 03:40
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