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この国のセーフティ・ネットは誰が担うのか?(その7)

 バングラデシュ政府がはじめて本格的にCommunity Driven Developmentのアプローチを活用して最貧層へのソーシャル・セーフティネット及びコミュニティの小規模インフラの提供を実施したSocial Investment Program Project(通称Nuton Jibon(ベンガル語で新しい人生の意味))。僕が出会ったシャミーマ・ラトナさんは、2003年から2011年までの間、経済・社会指標で見て当時最も貧困が厳しかったバングラデシュ北部のジャマルプール県、ガイバンダ県の村々で実施されたこのプロジェクトによって人生を変えた一人だった。そして、このプロジェクトは、こうした成功物語だけでなく、効果的にCommunity Driven Developmentを実施していく上での、数多くの教訓も残した。

① 能力あるNGOをどのように選ぶのか?
 
 海外ドナーやバングラデシュ政府が実施してきた様々なセーフティ・ネットプログラムや雇用対策にアクセスできていない農村部の最貧層や脆弱層に届くプログラムを、コミュニティ主導で実施していくには、その地域で活動を続けてきたNGOとの協働が欠かせない。政府や世界銀行などの国際機関と比較すれば、NGOは草の根のコンテキストをよく理解し、また状況に応じて臨機応変に対応しやすい。最近、日本でも自治体からの委託を受けて様々な公共サービスを実施するNPOが増えている。

 他方で、NGOなら何でも良いと言うわけではない。規模が小さすぎる、立上げ後間もない等の理由でプロジェクト実施に必要な能力に乏しいNGOも多くいるだろう。また、資金管理がずさんだったり、特定の政党や政治家、さらには反社会的勢力と結びついている等の問題を抱えてるNGOもいるかもしれない。

  Community Meeting
~NGOが主催するコミュニティ・ミーティングに集まった女性たち。バングラデシュでは登録NGOは約4万といわれる。信頼に足る能力のあるNGOをパートナーとできるかが、プロジェクトの成功の最大のポイントの一つだ~

 通常、行政がNGOに委託をする場合には、プロジェクトの内容を記した「Call for Proposal」をウェブサイトや新聞等に掲載して提案を募り、寄せられた中から最も優れている(と思われる)提案をしたNGOを選抜する形式がとられる。その際、その国の法律に基づいて政府への登録をしているNGOか、定期的に財務報告を公表・提出しているか、当該分野や地域で十分な活動実績はあるか等のチェックはもちろんされる。しかし、それだけで十分な目利きが果たせるとは限らない。

 この点、本プロジェクトは契約締結前のスクリーニングに加え、「パフォーマンス・ベース(実績ベース)の支払契約」を採用することで、能力がある(と思われた)パートナーNGOが、実際にその期待に沿って仕事をするインセンティブを盛り込んでいる

 例えば、シャミーマさんが利用した、村の最貧層の女性たちに職業訓練の機会を提供した上で、その卒業生に、習得した技術を事業に転換していくためのSeed Capital(タネ銭)を付与するプログラムについて見ると、以下のような成果指標と目標値が設定されている。

 ◎ 成果指標1:職業訓練を受けた女性の数 
        ⇒ ターゲット:80%の女性が職業訓練プログラムを修了
 ◎ 成果指標2:職業訓練後、所得を生む仕事に就く、あるいは仕事を始めることのできた女性の数 
        ⇒ ターゲット:50%の女性が自ら収入を生み出す仕事を始める/仕事に就く
 
 このプロジェクトの実施部隊として選ばれたNGOには、上記ターゲットが達成できた時に初めて、プロジェクト実施に必要な資金が提供される。要は出来高払いだ。この手法は、以前このブログで紹介をした、辺境の村々にソーラー・パネルを設置するプロジェクトを販売・敷設するプロジェクトでも採用されている。パートナーシップを有効に機能させるには、ポジティブな緊張感を継続させるこうした仕組みをプロジェクト・デザインに盛り込むことが必要なのだろう。

② 対象となる人々をどのように選ぶのか

 立派なプロジェクトを机上で創り込んでも、それがターゲットとする人々のもとに届かなければ意味は無い。でも、それはとても難しい。制度を作る行政は、最貧層や脆弱層がどこに居るか知らない。そして、「制度を利用したければ、人は役所にまで来るだろう」という前提で、オフィスに座っている。利用者側も、彼らをターゲットとする制度が出来上がっているという情報に接する機会は少ない。結果、支援プログラムは、何時までたってもそれを必要としている層に届かない。どうしたらこのギャップを埋められるだろう。

    Bangladesh Village
 ~緑深いバングラデシュの村道を歩く男性。村の道は入り組んでいて、雨季には車やバイクで近づくことすら困難となる~

 この点、本プロジェクトは、まず対象者を絞り込むための詳細なインデックス(指標)をつくりあげた。例えば①資産の有無、②仕事の有無、③読み書きができるか否か、④性別、⑤既存の支援プログラムを受けているか、等、複数のチェック項目を点数表のような形で設定し、YES・NOで採点した結果、点数が7点以下の人を対象とするルールを作ったのだ。さらに、このインデックスに合致する対象者の特定をNGOに委ねることでこの問題を乗り越えようと試みた。

 しかし、経験したのは失敗だった。

 プロジェクト開始から3年が経過した段階で実施された中間評価では、支援プログラムの受益者に、本来は対象外の比較的裕福な家庭の女性や、あるいは男性までも含まれていることが判明。一方で、プログラムを利用している最貧層の数が想定よりも少ない、という事実も明らかになった。詳細に作りこんだプロジェクトだったが、的をはずしてしまっていた。NPOが村の有力者から情報を取って対象者を決めていたことが主たる原因だった。

 失敗を踏まえて導入されたのが「Participatory Identification of Poor(PIP:参加型の貧困層特定)」という手法だ。密なコミュニケーションによって人と人との結びつきが強いバングラデシュの農村部において、どの家庭がどの程度困窮しているか、最もよく知っているのは村に住む人々だ。PIPは村の女性たちに対象者の選定を委ねることで、プロジェクトがターゲットとする最貧層・脆弱層を見極めていくことに成功した。専門家が作りこんだ精緻な指標よりも、村人の口コミが勝っていたという訳だ。住民自らが公共サービスの受益者の特定に動くPIPの手法は、地域の絆の再構築やコミュニティや各家庭が抱える問題をその地域の人々が認識するきっかけにもなるだろう。(続く)
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バングラデシュと世銀の協働が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2013/02/06 17:40
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