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この国のセーフティ・ネットは誰が担うのか?(その4)

 朝霧に包まれたラッシャヒ県カリコルム村で僕らが訪れたのは、村の一角に居を構える図書館だった。動植物や地理についてまとめた色刷りのポスターが張り巡らされた壁に囲まれた教室のような空間に、朝早くから20名ほどの子供たちが集まって、読書をしている。大型のプロジェクターとデスク・トップ・パソコンも備え付けられており、子供たちは、生物や歴史を映像で楽しみながら学ぶことできる。教室の隣には図書館があり、様々なテーマに関する英語やベンガル語の本でいっぱいになった本棚がいくつも並んでいる。その数は約5,000冊。バングラデシュにやってきてから早1年半、数多くの村々で教育施設を目にしてきたが、これ程立派な施設は見たことが無い。

     Village Library

この図書館は、村の地主であるジャハンギール・アラム・シャーさんが私財をなげうってつくり、管理しているものだ。利用者は子供だけではない。子供の栄養に関する知識を深めたい村の母親、農作業の生産性を向上させるためのヒントを得たい農家、そして読み書きの力を身に付けたい大人たちなど、村の老若男女が日々活用している。ジャハンギールさんの本職はラッシャヒ大学の助教授。農業経済学を学生に教えつつ、授業の合間を縫って医学部付属病院の透析病棟での当直をボランティアとして引き受けている。ジャハンギールさんの好意に対して、医学部生や医師は、「カリコルム村で無料出張診療」を提供することで、“借り”を返している。図書館は、出張診療のサービスが提供される場にもなる。全て、村の人々の生活水準の向上を願うジャハンギールさんの無私の貢献によって実現しているものだ。

    village library 2

 図書館の維持管理は、そんなジャハンギールさんの熱意に打たれた村の人々のボランティアによって成り立っている。早朝あるいは午後、公立学校の授業の前後に、子供たちに英語や算数を教えている先生もボランティアだ。献身的な努力の継続で、人々に次々と伝染するボランティア精神の源となっているジャハンギール先生は、その同期について実に淡々と語ってくれた。

 「農業普及員も学校も医療も、政府の制度はあるけれど十分ではない。そして私の村にはニーズとポテンシャルがある。そして私には、そのニーズとポテンシャルと不十分な制度のギャップを埋めるリソースがある。だからやっているだけです。」

 「それに私一人でやっているんじゃない。皆が、それぞれ出来る範囲で、出来ることを一緒にやっているんです。

 そう語ってくれたところで、急にジャハンギール先生の表情がぱっと明るくなる。
 
 「そうそう、子供たちが学校での試験が上出来だったので、今日はペンをプレゼントすることになっているんです。是非、激励のメッセージとともに、子供たちにペンを渡してあげて下さい!」

 先生の掛け声で一列に整列する子供たち。「これからも一生懸命勉強頑張れ!」と声をかけながら一人ひとりにペンを渡していく。大人も子供も皆とてもいい笑顔だ。
  Village Library 3
  ~今年2年生になるタニアちゃん。後ろに立っているスーツ姿の男性がジャハンギール先生だ~


 ジャハンギール先生の図書館を後にした僕らが次に出会ったのは、「困ったときはお互い様」を持続的に成り立たせるセーフティ・ネットを自らの手で作り上げている女性たちだった。リーダーのジョシナさんはバングラデシュ最大のNGO、BRACでスタッフとして働きながら、マイクロ・ファイナンスのオペレーションについて学んだ。同時に、結構な金額がBRACの運営経費に費やされている事実にも気付く。

 「村の女性たちと一緒に、自分たちで、自分たちだけのマイクロ・クレジットの仕組みをつくることができたら、大きなNGOであれば運営経費に使われる資金も含めて、全て自分たちに還元できるのではないだろうか?」
  Village Microfinance
 ~仲間とともに自ら立ち上げたマイクロ・ファイナンス機関の帳簿を繰るジョシナさん~  
 
 2007年にスタートし、現在150人の女性たちがメンバーとなっているこの取組みは、毎月一人50タカの貯蓄を出し合ってつくった貯蓄のプールから、月利5%で資金を必要とするメンバーにお金を貸し出していく仕組みだ。2-3年に一度、会計を一旦全て締めて会員の女性たちに預金とあわせて、回収した金利分を配当してメンバーに全て還元する。会の運営は全て女性たちのボランティアで成り立っているため、運営費はかからない。運営方針や貸付の是非、解散の時期なども、全て会員の女性たちが議論を通じて決めていく。

 また、隣の村では、少数民族の女性たちが、各々定期的に家のお米を持ち寄り、家族の病気や怪我で、食費にも困る事態に陥った際に会員に融通する仕組みをつくっていた。

 両者とも仕組みはとてもシンプルだが、正に「村の女性たちの、女性たちによる、女性たちのための」手作りセーフティ・ネットの仕組みだ。



 ジャハンギールさん、ジョシマさん、そして村の人々は、こうした仕組みを創り上げ、そして持続していく上での課題や困難についても語ってくれたが、政府による公的なセーフティネットや公共サービスの不備に関する不満は、ただの一度も、誰の口からも発せられなかった。

 そんな村の人々の姿勢からは、「何かが足りないと不満を言っていても仕方が無い。自分たちが一人ひとり持っているリソースで、自分たちが出来ることをやっていこうじゃないか。インシャアラー」というメッセージが伝わってくるようだ。こうした人々の主体的な姿勢が、この国の社会資本を豊かにし、確かなセーフティ・ネットを創り上げているのだ。バングラデシュの村で出会ったこんな物語は、格差が拡大する中、既存の雇用・公的なセーフティネットの修復、再構築が急務となっている日本社会や、日本人一人ひとりのマインド・セットにも大きな示唆を与えるのではないだろうか。
    Village Scenary
 ~菜の花畑と緑の大地のコントラストが美しいバングラデシュの冬の農村風景。バングラデシュの農村は色々な意味で“豊か”だ~
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バングラデシュでの生活が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2013/01/28 02:26
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