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何故、バングラデシュで強い製薬産業が育ったのだろうか?(その1)

 今年もバングラデシュに霧の季節がやってきた。濃霧に包まれる朝の空気を、軽快なベルを響かせて破っていくリキシャ引きは、厚い毛糸の帽子とセーターで身を包み(しかし足元はサンダルのままだ)、底冷えのする夜に備えるために、雑貨屋の軒先には暖かい毛布が積まれるようになる。そして、霧が晴れる頃には本格的な冬がやってくる。ダッカでも朝夕は気温が10度前後まで下がる。

 季節の変わり目は風邪を引きやすい。しかし大きな心配は要らない。バングラデシュでは殆どどんな場所でも薬が手に入る。しかもその多くは低所得層にも手が届く価格で。例えば、風邪を引いたら飲めといわれる「ナパ」という錠剤がある。ナパは熱、咳、鼻水、頭痛等、風邪の諸症状向けのいわゆる総合感冒薬で、一粒5タカ(5円)。ひどい咳が止まらなければ喉の炎症を抑えるシロップが20タカ。不幸にして酷い下痢に悩まさせた場合には、脱水症状を抑えるための“ポカリスェット”が即席で作れる粉末「テイスティ・サライン」が一袋10タカ。その他にも各種のビタミン剤、痛み止め、抗生物質までが薬局で処方箋なしで手に入る。 
  
    
   Napa & Saline
 ~バングラデシュで超定番の風邪薬「ナパ」と、下痢の時には欠かせない「テイスティ・サライン」。僕も何度もお世話になっている~

 これは首都ダッカや地方の都市部に限った話では決してない。バングラデシュにやってきて早1年5ヶ月、仕事で、あるいは個人的に訪れた村(union)の数は100を超えた。どんな村でも市場には、茶屋、散髪屋、雑貨屋、八百屋などと並んで必ずといって良いほど薬局がある。薬局の店主は薬のことを良く知っている(ように振舞う)。薬を求めると、日に何回、食後に何粒、といった投薬量とともに、副作用等についても教えてくれる(真偽の程は分からない)。また、薬を売る前に、おもむろに(得意そうに)棚のから取り出してきた聴診器や血圧測定器で“患者”の様態をチェックしてくれる店主もいる。
   
 彼らは「薬剤師」を名乗っている。Certificateを見せてくれ、と頼むと「大学で薬学を勉強した」とか「3年前、どこそこの町で開かれたワーク・ショップに参加して終了証をもらった」とか、色々な答えが返ってくる。あんまり突っ込んでも得るものもないので、自称薬剤師に頂いた薬を素直に飲んで優れない体調を整えたことが、バングラデシュにやってきてから何度かあった。これがなかなか良く効くのだ。ちなみに、薬局で手に入る薬の箱に記されている様々な注意書きは殆ど全てベンガル語。そう、辺境の村でも安価な値段で手に入る様々な薬の殆どがMade in Bangladeshなのだ。

     local drug store 1
 ~ダッカから南へ300キロの地点にあるボルグナ地区、ガージョン・ブニア・バザールの薬局にて、顧客の体調をチェックする「薬剤師」のおじさん~

 発展途上国、特に低所得国では、国内で流通する薬はもっぱら輸入品となるため価格は高く、偏狭の村では殆ど手に入らない、というのが一般的なイメージだろう。何しろ薬の開発・量産は簡単ではない。新薬開発に必要な巨額の研究開発投資、高度で緻密なラインを持つ工場、それらを使いこなせる技術を持つ人材など、高付加価値の知識集約産業である製薬業を成り立たせるのは、一朝一夕では育たない要素が多い。縫製業のように廉価な賃金で一生懸命働いてくれる労働者が居ればそれが直ちに比較優位になるという分野ではないのだ。したがって、低所得国で地場製薬業を起こすのは至極困難であり、仮にスタートをしても、幼稚産業の段階で、既にグローバル市場を席巻しているノバルティス、ファイザー、ロシュ、グラクソスミス&クライン等、巨大な欧米企業に飲み込まれてしまう可能性は極めて高い。   

 しかし、この一般常識は一人当たりの国民所得が700ドルの低所得国であるバングラデシュには当てはまらない。現在バングラデシュ国内では240の製薬会社があり、それらの売上高は2007年の400億タカから2011年には900億タカと4年間でほぼ倍増している。その背景には過去3年で少なくとも約200億タカに上る設備投資がある。強力な地場製薬産業による旺盛な薬剤供給は、1億5千万人のバングラデシュ消費者が作り出す約11億ドルの市場の97%を満たしている(以上出展:Financial Express 10月25日付記事 「Pharma Industry: The Journey Ahead」)。 

 下記の円グラフはバングラデシュの製薬会社の国内市場シェアを示したものだ。1958年の創業以来製薬に特化して業界をリードしてきたSquare Pharmaを筆頭に、製薬以外にもメディア、縫製業、IT、不動産を広く手がけるコングロマリットBeximco(冒頭紹介したNAPAの製造会社でもある)、そして1999年に創業したばかりで首都近郊のサバール地区に最新の設備を擁する工場を構えるInceptaなど大手6社でシェアの半分を占めているものの、どの製薬会社も市場を支配する力を手にするには遠い。国内市場をめぐって数多くの地場製薬会社が激しい競争を展開していることが分かる。
 Pharmaceutical industry share

 こうした国内製薬会社が、約5,600のブランドを生産し、約1,500の卸売業者と約4万の小売業者(ライセンスを取得している社に限る)の販売網を使って、大河で分断され雨季には国土の3分の1が水没するバングラデシュの全国津々浦々にまで、医薬品を届けているのだ(数字出展:『Business Analysis of Pharmaceutical Firms in Bangladesh』MD. ANAMUL HABIB, MD. ZAHEDUL ALAM)

 それだけではない。Made in Bangladeshの薬はアフリカ、中東、そしてヨーロッパまでをも含む約80カ国に対して輸出されているのだ。輸出額は右肩上がりで、2012年度には5,000万ドル近くの外貨を稼いでいる。バングラデシュの製薬産業は国内の隅々にまで自ら作り出した製品を浸透させているだけでなく、ジュート、皮革、そしてニット・ウェア等の縫製業に続く一大輸出産業でもあるのだ(続く)。
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バングラデシュの経済・産業が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/12/16 15:38
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