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グラミン銀行 ~信頼を基盤とする金融は如何にして創られるのか?(その5)~

   グラミン銀行の代表的な商品「Basic Loan」の金利(20%及び借入れ金の5%の強制貯金)は、バングラデシュの規制当局が設定する上限金利はもちろん、他国のマイクロ・ファイナンスの業界の平均、さらにはバングラデシュ政府自身が提供する官制マイクロ・ファイナンスの金利をも下回る水準だ。なぜグラミンの金利は“安い”のか?それは、グラミン銀行がマイクロ・ファイナンス機関でないことに由来する。その意味を、下記の問と向き合いながら考えていきたい。
 
◇グラミン銀行には誰が資金を提供しているのか?


 グラミン銀行は「銀行」だ。マイクロ・ファイナンス機関ではない。双方共に小額のローンを貧困層に提供する点において共通しているが、前者が中央銀行が所管する「グラミン銀行法(Grameen Bank Ordinance)」によって設立された「銀行」である一方で、NGOが経営する一般のマイクロ・ファイナンス機関は、規制・監督機関であるMicroredit Regulatory Agencyが所管する法律、Microcredit Regulatory Agency Act 2006によって、提供できるビジネスの範囲等が決められている「貸金業」だ。そして、「銀行」と「貸金業」の間に見られる最も重要な違いの一つが、前者は借り手の女性達からはもちろん、それ以外の一般からも預金を受け入れることが出来る(グラミン銀行法19条a項)のに対し、その他NGOが経営する一般のマイクロファイナンス機関はそれが出来ない、という点だ。さらにグラミン銀行法の第21条二項は、グラミン銀行の債務には政府の保証がつくとしている。
(注)日本の貸金業は一切の預金受入が認められていませんが、バングラデシュのマイクロ・ファイナンス業は、メンバー(借り手)からの預金受入は上記法律により認められています。 

 言うまでも無く、金融機関自体の資金調達コストが金融機関が借り手に課す金利水準に及ぼす影響は極めて大きい。 政府保証のついた預金を、顧客である女性達からだけでなく(しかもその一部は強制預金)、広く一般から集めることが出来るという特徴は、一般のマイクロ・ファイナンス機関と比較して圧倒的に有利で安定した資金調達環境をグラミン銀行に与えることになる。過去20年のグラミン銀行の資金調達状況をあらわした以下のグラフは、この点を物語っている。
 
  Grameen Bank Funding 
     ~ グラミン銀行ウェブサイトに掲載されている「Historical Data Series」より、著者作成 ~

 受入れ預金総額を示す棒グラフは特に2000年以降急増し、またグラミン銀行の借り手以外からの預金の占める割合を示す赤の部分も増加傾向にある(2010年時点で受入預金総額の46%が借り手以外の一般からの預金)。また、注目すべきは貸付総額と比べた預金受入額の割合(いわゆる預貸率:黄緑色の折れ線グラフ)が2004年以降100%を超え、2010年時点で160%に達しているという事実だ。つまりグラミン銀行は、女性達に貸し付けているお金の1.5倍以上の資金を預金で集められているのだ。なお、貸付に回らずに「余った」資金については、国債等に投資されている。

 では、グラミン銀行に預金をすると、利息はいくらもらえるのだろうか?グラミン銀行本社でのプレゼンテーション資料によれば、いつでも引き出すことの出来る一般預金で8.5%、一定期間は引き出すことが出来ない定期預金で10.4%ということだ。日本の銀行に預けた預金から得られるスズメの涙の金利と比べると圧倒的な利率だが、思い出して欲しい。バングラデシュの中央銀行が設定する政策金利が7.75%であるということを。つまり、グラミン銀行は、民間金融機関が中央銀行とやり取りする際に適用される政策金利に1%程度上乗せしただけの金利でもって、大量の預金を調達できているということだ。 

 Discussion with Senior Management of Grameen Bank 
   ~ダッカ市ミルプール地区にそびえるグラミン銀行本社での幹部との意見交換に臨む官民協働ネットワークCrossover21 のBangladesh Study Tripのメンバー~

 この結果、グラミン銀行は2000年以降、一貫して黒字が続いており、2010年は7億5700万タカ(約7億5,700万円)の純利益を出している。グラミン銀行のBasic Loanの金利が他のマイクロ・クレジット期間と比較して安い水準にあるのは、グラミン銀行に対して資金を貸し付けているのが、借り手である女性達をはじめとする幅広い預金者であるという事情による。 その結果、少なくとも財務上は、グラミン銀行は国内外からの寄付などには一切頼らず、且つ純利益も継続して出すと言う自立的な経営を実現している。では、毎年の純利益はどのように処分されていくのだろうか?一部は内部留保として次年度以降の事業の基盤となるが、残りはグラミン銀行の所有者である株主に配当として配分されるのだ。では、グラミン銀行の所有者とは誰なのだろうか?

◇ グラミン銀行は誰が所有しているのか?

 グラミン銀行のミッションは貧困の撲滅と言う社会的なものだが、貸付事業を通じて利益を上げ、それを株主に配当として配分していると言う意味において、通常の株式会社と全く変わらない。仮に、株主のインセンティブが金銭的リターンの最大化であれば、例えば、金利の引上げやによる収益の増加や、収益につながりにくい奨学金プログラム等は廃止する、といった経営判断が下されてもおかしくない。

 しかし、これまで紹介してきたとおり、グラミンのBasic Loanの金利水準や返済方法は、借り手である女性達の立場に、相当程度配慮したものとなっている。それは、グラミン銀行の株式の97%が全国860万人の借り手女性達に、残りの3%は政府により保有されているためだ。グラミン銀行の女性達は借入れ金額の5%の強制預金プログラムへの参加が求められることは前回の記事で紹介したが、その預金の一部が、一株100タカの株式の購入に当てられるのだ。そして、2010年の株式配当は3%。つまり、借り手の女性達は30タカの配当を手にしている
 
 株主の権利は、当然のことながら、配当の受け取りだけではない。企業の所有者としてグラミン銀行の経営に影響を及ぼしていくことになる。具体的には、グラミン銀行の経営方針にかかる最高意思決定機関である理事会(Board)の12名のメンバーは、9名が借り手女性の代表、3名が政府代表で構成されているのだ。

  Grameen Board Members
   ~グラミン銀行本社のBoard Meeting Roomで理事会のメンバーである借り手代表の女性達と~

  グラミン銀行訪問に関してまとめている本連載記事の冒頭で2006年秋のノーベル平和賞受賞式について紹介した。即ち、ユヌス博士と共にグラミン銀行を代表して栄誉を受けたモサマト・タスリマ・ベグムさんは1992年にグラミン銀行から一匹のヤギを買うための約20ドルを借り、それを元手にビジネスを成功させ、ついに、グラミン銀行の経営を担う理事会メンバーの1人となったことを。彼女のような借り手代表が四分の三を占める理事会において、グラミン銀行の経営方針は決定されているのだ。
 

 なお、グラミン銀行設立当初、株主構成は政府6割、借り手4割であった。それが1986年の法改正で借り手が7割5部、政府が2割5部となり、借り手のボイスが劇的に高められ、さらに2006年の法改正で現在の借り手97%、政府3%という株主構成になったのだ。グラミン銀行の功績については、ユヌス博士のカリスマ性や、借り手女性の生活の変化巡る個別の成功物語に焦点が当てられやすいが、顧客本位のビジネスが継続的・自立的に提供できているとすれば、それは顧客の声をダイレクトに経営に反映させることのできるコーポレート・ガバナンスや安定的な資金調達を可能とする法律基盤があるからに他ならない。その意味において、グラミン銀行が様々な試行錯誤を経てもたらしてきた革新や社会貢献は、グラミンの職員、顧客である女性達、そしてユヌス博士をはじめとする経営陣の努力や創意工夫だけでなく、バングラデシュ議会・政府・中央銀行、さらにはそこで活動をしている人々を直接・間接に選んできたバングラデシュ国民の選択の結果といえるのではないだろうか
 
 様々な側面から観察すればするほど、様々な学びや気付きを提供してくれるグラミン銀行。次回の記事では、グラミン銀行の“失敗”とそこからの学び、そしてグラミンのモデルの背景にある基本的な経営思想についての学びを共有していきたい。(続く)
 

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バングラデシュのソーシャル・ビジネスが織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(2) | 2012/10/26 19:56
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   グラミン銀行の代表的な商品「Basic Loan」の金利(20%及び借入れ金の5%の強制貯金)
   グラミン銀行の代表的な商品「Basic Loan」の金利(20%及び借入れ金の5%の強制貯金)

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