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バングラデシュの田園風景と人々の暮らし

 8月31日は約1ヶ月間、日の入りから日没までの断食を貫徹したことを祝いあうラマダン明けの祭日、Eid(イード)だ。美しい衣装で着飾る人々、Eid Mubarak(イード・ムバラーク!:「断食明けましておめでとう!」といった感じの挨拶)と書かれた看板をぶら下げてシャッターを下ろす店やレストラン、普段つつましい給料で働いてくれているお手伝いやガードマンに振舞われるボーナス、帰省ラッシュで屋根の上まですし詰めのバスや列車、普段の喧騒が嘘のような静寂に包まれるダッカの街…バングラデシュはまるで日本のお正月のような雰囲気に包まれている。

 ラマダンが始まって以来、オフィス一階の食堂が休業していたため、ほぼ毎日、食堂横の簡素な売店が唯一販売するパサパサの「チキン・サンドイッチ」でランチを貫徹してきた僕も、8月31日(水)から週末を併せて今日(9月3日(土))までの4連休の恩恵に与った(バングラデシュは金曜日と土曜日が週末なのだ)。

 そして、恵みの4連休を活かして一泊二日で向かった先は、ダッカから約160キロ北東に向かった先にあるSrimangal(スリマンガル)という地方都市だ。

 ダッカ-スリマンガル・ルート

 160キロと言うと東京-静岡間とほぼ同じ程度の距離であるが、途中舗装されていない泥道を通らなければならなかったり、通過する街で渋滞に引っかかったりで、片道4-5時間の道程となる。日帰りでは行って帰ってくることしか出来ない。しかし、道中、暇を持て余すことはない。何しろ、片道一車線しかない道を、巨大なバスが、ノロノロと進むリキシャやCNGタクシー、あるいはトラックを、対向車線いっぱいにはみ出して猛スピードで追い抜いていくのだ。そう、ここでもルールは「声と図体がでかいものが先を行く権利がある」とのジャングル・ロードの掟だ。正面衝突のリスクを物ともせずに突進してくるバスを実にすれすれのタイミングでかわしてく、バングラデシュのドライバーの運転技術と胆力には脱帽するが、もっと別なところで勝負してもらいたいものだ。

 悪い話ばかりではない。喧騒の街、ダッカとは全く異なる美しい田園風景を楽しむことも出来る。

     心癒されるバングラデシュの田園風景

 青々とした空の下に広がる水田を見ていると、まるで日本の田舎をドライブしているような懐かしい気持ちにさせられる。他方、同じ車窓を10分も眺めていれば、風景が一変。広大な河に電信柱が並んでいる異様な風景が現れる。

     雨季の河川増水で水没した地域の様子

 上の写真の河は雨季にしか存在しない。同じ地点で乾季に写真を撮れば、全く異なる風景、一面の畑が広がっていると言う。中州の国、バングラデシュならではの風景だ。もちろん、こんな風に言っていられるのは、僕が車でこの場所を通り過ぎながら写真を撮るだけの人間だからであって、この地で暮らし、農作業をしていながら生きていかなければならない人間の苦労は計り知れない。

 なお、Srimangalに向かう道中の大半は、Dhaka-Sylhet(シレット)High Wayと呼ばれる日本の道路さながら高品質のHigh Way(High wayといっても、高架がある訳ではなく、単にSpeedをHighにしてぶっ飛ばせるwayというだけだが)が整備されており、快適且つスリリングなドライブが楽しめる。
 
 無謀なバスの運転に手に汗握り、車窓に広がる田園風景や水没した土地に目を奪われること4時間。Srimangalの街に着いた。

     Srimangalの街並み

 Srimangalは人口約2万4千。ムスリムが8割以上を占めるバングラデシュにしては珍しく、人口の半分がヒンドゥー教徒であり、また河川に分断された平地が続くバングラデシュにしては珍しく、小高い丘陵に並ぶ茶畑の美しさで名を馳せる地方都市だ。また、この街はバングラデシュの人々にとって観光地として知られているが、それは、Lawachara National Park(ラワチャラ国立公園)と名付けられた生態系豊かな森林の存在による。

 今回、僕らのガイド役を務めてくれた地元の大学生、shekhardy(シェクハディ)君の道案内により、Lawachara National Parkの森林の奥深くにあるKashia Punje(Punjeは村の意味)を訪問し、村の皆さんと交流する機会を得た。

     Lawachara Kashia村の様子

 23世帯、約150人が暮らすこの村の人々は大半がヒンドゥ教徒から改宗したクリスチャン。初等教育すら受けていない人口が40%、初等教育しか受けていない人口が20%とのこと。水道やガスはもちろん通っておらず、水は井戸水、日常の炊事等に必要な火は森から拾ってくる薪に頼っている。

 ところが、そんな村にも電気は通っている。しかし森の奥深くまで電線が敷かれている訳ではもちろんない。ではどうやって?村の高台に立って家々を眺めるとその答えが見える。

     村の家屋の屋根に設置されたソーラーパネル

 ソーラー・パネルが村の家々の屋根に設置されているのだ。親切にも僕らを自宅に招き入れて地元で取れたお茶を振舞ってくれた教師をしている女性、ラオチャランさんにお話を伺った。



(僕)「村の家々の屋根にソーラーパネルが付いてますが、いつ頃、どうやって取り付けられたのですか?」
(ラオチャランさん)「2010年の2月ぐらいだったと思います。グラミン・グループ(マイクロ・ファイナンスを手がけるバングラデシュのNGO)がどこかの国の支援を受けながら実施しているプロジェクトだと思います。ソーラーパネルのお陰で電気がくるようになりました。」
(僕)「設置の費用は支払われたのですか?」
(ラオチャランさん)「非常に高額です。一つあたり4万8千タカ(一タカは約一円)。とても一度では払えないので、最初に1万タカを支払い、その後年間11,000タカを数回に分けて払うことになっています。」
(僕)「ソーラーパネルのメンテナンスは誰がやるのでしょうか?壊れてしまった場合はどうするのでしょう?」
(ラオチャランさん)「今のところ壊れれてはいません。またあのソーラーパネルは20年保障だと言われました。」
(僕)「ということは、設置後20年間は、壊れてしまっても無料で取り替えてくれると言うことでしょうか!?それはスゴイ!」
(ラオチャランさん)「いえいえ、取り替えるときは自分たちがまた4万8千タカ払わなければならない。」
(僕)「え…、それは保障と言うのでしょうか?単に、品質がいいと言っているだけですね。」
(ラオチャランさん)「正直我々は色々良く分かっていないのです。ただ、4万8千タカはとても高い。ちなみに、あなたはバングラデシュで何をしているの?」
(僕)「世界銀行の職員として働いています。」
(ラオチャランさん)「あぁ、そうですか。世界銀行は色々良いプロジェクトをバングラデシュでやってくれていますよね。」
(僕)「ありがとうございます!」
(ラオチャランさん)「チッタゴンの少数民族のために色々支援プロジェクトをやっているようですね。でも、我々のところには別に何の支援もない。」
(僕)「はぁ…。」
(ラオチャランさん)「私は昨年開催されたバングラデシュ政府と中国政府共催の地域開発に関するフォーラムに参加するためにダッカに行きました。同時に開催された物産展で、私たちが作る布を売るためです。私たちの存在をもう少し認知してもらうために。」
(ラオチャランさん)「この村の人々は何に一番困っていますか?」
(村の人)「病気です。マラリアや下痢、腸チフス。水のせいで病気になる人が多い。仕事が余りないのも問題です。ここの村人の大半はBetal Leaf(日本語では「キンマ」という葉。やしの実に似たビンロウジュの実を包んで噛む嗜好品)の畑で働いていますが、非常に給料が安い。私は昔はTour Guideとして働いていましたが、「女性のガイドは要らない」と言われ、首になってしまいました。幸い、教師の職がその後見つかり、教師として働いていますが、夫を病気で失ったため、仕事がなかったら今頃家族がどうなっていたか分からない…」



 森林管理員の仕事をしているラオチャランさんの息子さんが、僕がお世話になっている世銀の同僚のITスペシャリスト、リオと古くからの友人であることが判明し、さらに話が盛り上がり、ちょっとだけお邪魔するだけの予定が、30分以上、長居してしまった。ガイドのシェクハディ君の話では、この辺りの茶畑やBetal Leaf畑で働く人々は自分の畑を持っている訳ではなく、企業が所有する畑で働いていると言う(要は小作農)。一日葉を摘んで得ることの出来る給料は50タカ(50円)。学校や病院などにかかる費用は企業側が負担してくれると言うが、一日50タカ(月1,500タカ)で家族を養っていけるだけの食費などを賄うのは相当厳しい。ちなみに、ダッカのスラムに暮らすリキシャ・ワラ(リキシャの運転手)は一日平均400タカを稼ぐと言われている。

 ダッカから160キロ離れたSrimangalと言う街。そこからさらに8キロ程離れたLawachara Forestの奥深くにあるKashia村。村の家々はダッカのスラムと比較すると圧倒的に清潔で、森からの風が鳥たちのさえずりが心地よい。単に訪問しただけでは、都市に無い、のどかな暮らしに「所得は低くとも農村の暮らしは豊かではないか?」との結論に飛びつきたくなってしまう。しかし、のどかで自然豊かな村で暮らす人々を取り巻く現実には、感染症や真っ当な給料を稼ぐことの出来る職の不足等、都市のスラムとは異質の厳しさがあることを、村の人々との対話を通じて、改めて知ることになった。



 ラオチャランさんの自宅を後にした僕らは村の学校に向かった。クリスチャンのコミュニティであるため、Eidの祭日とは関係なく、小学校3年生の英語の授業が行われていた。

    村の小学校3年生の子供たちと
 
 3年生は全部で11人。教える先生は未だ19歳だと言う。ここでも、招かれざる突然の客である僕らを笑顔で歓迎してくれる。写真を撮って見せると子供たちは大騒ぎ。こちらも片言のベンガル語で自己紹介。「学校は好き?」と聞くと「大好き!!」と皆即答。先生の目の前だから、という模範解答をしたのでは、あのはじける様な笑顔はつくれまい。

 子供たちが広げていた英語の問題集を見せてもらう。

    小学校3年生向けの英語の教科書

 広げたページにはこんな問題が。

 下記の語句のペアと関係が同じペアを(a)-(e)の中から選びなさい。
 (問33)Odometer : Distance
(a) microscope : size (b) decibel : loudness
(c) orchestra : instrument (d) computer : data (e) scale : weight

 さて、正解はどれだろう。いきなり、Odometerの意味が分からなかった自分は、小学校3年生向けの問題と言われるとショックがでかい。負け惜しみを言わせてもらうと、バングラデシュの教育が「考える力」「応用する力」よりも「丸暗記」にばかり力を入れている、との指摘の正しさを垣間見た瞬間であった。例えば、小学校の算数では「1+3=4」という数式の暗唱の繰り返しによる丸暗記をやらせるため、「2+2=?」と問われた時に答えられない生徒が多い、と言う話を、バングラデシュで長年教育に取り組んでいる日本人の若者から聞いたことを思い出した。

 ちなみに正解は(e)。Odometer(走行距離計←僕もこんな単語は知らない)とDistanceと同じ関係であるのは、scale(体重計)とweight(体重)。

 次回の記事では、Srimangalの街で訪問した公立・私立病院の様子と医師との対話を紹介したい。

  村の水洗い場兼男性用シャワーコーナー
 (Kashia村の様子。くみ上げ式井戸の横にある水洗い場。男性陣のシャワーコーナーでもある)
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バングラデシュでの生活が織り成す物語 | コメント:(2) | トラックバック:(0) | 2011/09/03 11:47
コメント:
No title
奮闘、頑張ってください。期待しております!
遅々として前進しております・・・
 Koichi Oさん。激励のコメントを頂き感謝しております。赴任して早2ヵ月半が経ち、大分慣れてはきましたが、まだProductive Lifeとは程遠い空回り状態です…何とかしっかり貢献していけるよう、足を踏ん張り気を引き締めていきたいと思います。

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