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グラミン銀行 ~信頼を基盤とする金融は如何にして創られるのか?(その3)~

◇グラミン銀行は顧客に如何なるサービスを提供しているのか?

 グラミン銀行の借り手女性たちが口をそろえて僕らに語った成功物語が“やらせ”ではなく、また、案内された「借り手センター」が外部宣伝用の“優良センター”でもないとしたら、いったい、成功の背景には何があるのか。そもそも、彼らは成功をどのように定義しているのだろうか。如何なるサービスをどのような方法で提供しているのか。リスクをどのように認識し、それをどう管理しているのか。  

           Grameen Branch IV
 ~ タンガイル県ゴライ・ユニオンのグラミン銀行の支店を訪問するCrossoverのメンバー ~          

 問題意識を沸騰させながらCrossover Bangladesh Study Tripのメンバーはグラミン銀行の支店の門をくぐった。バングラデシュのほぼ全ての地域に展開する約2,500のグラミン銀行の支店は、それぞれ平均55箇所のセンターを所管している。一つのセンターが12の「5人組」で構成されていることを考えると、一つの支店は平均約3,300人の顧客と向き合っていることになる。 

             Grameen Branch II
   ~申請した融資の承認を待つグラミン銀行の顧客の女性達~

 鉄筋一階建ての支店の中では、机に向かって黙々と電卓をたたいているグラミン銀行職員を、質素なサリーで身を包んだ数人の女性たち囲んでいる。融資の承認を待っているのだという。既に貸し出した資金については、グラミンの職員が村々を回りながら回収していくが、借り入れに際しては、女性たちが支店に赴く必要がある。この点はごく普通の金融機関と同じだ。しかし、そこで提供させる金融商品の内容は、様々なリスクや不確実性の下にある農村の女性たちの状況に対応したデザインとなるよう工夫を凝らしたものであることを、僕らは、職員との意見交換を通じて知ることになった。以下、グラミン銀行の最も標準的なサービスである「Basic Loan」について、その特徴を紹介したい。

◎ 担保なし、保証人なし、契約書なし
 グラミン銀行がその設置法(Grameen Bank Ordinance)において、担保となる土地や資産を持たない層に顧客が限定されいること、及び5人組が連帯保証の役割を果たすものではなく、借入れ・返済共にあくまで個人ベースでなされることは前回の記事で紹介したが、もう一つの大きな特徴は、顧客とグラミン銀行との間には、融資に当たって契約書が交わされないという点だ。双方が合意した借入れ金額とその条件、返済状況については、「借り手センター」で出会った女性たちが手にしていたグリーン・シートに記載されていくが、双方の署名などは無く、あくまでも備忘録に過ぎない。

  Grammen Branch III
  ~顧客の女性達一人ひとりがもっている借入れ履歴・返済状況を記したグリーン・シート~

 複数の支店を統括するエリア・マネージャーのラディブさんはこう語る。
 「記載内容に不履行などがあった際、グラミン銀行は、顧客を裁判所に引っ張っていくようなことはしません。問題解決の方法はあくまでも双方の話し合い。そのベースにあるのは、書類ではなく対話を通じた相互の信頼なのです。」

 バングラデシュの識字率が5割少々であることを考えると、契約書の内容を理解できる人は、グラミンの顧客層ではごく僅かだろう。また、たとえ理解出来たとして、いざ訴訟となった時、彼女らに弁護士を雇う余裕があるだろうか?こう考えると、契約書を交わすという形式的な行為により、借り手の権利や財産が実質的には不当に侵されるリスクは高い。双方の約束事をシンプルなメモにし、密な対話に基づく信頼でそれを守っていくという方法のほうが、顧客にとって納得感が強く、従って、その内容が履行される確率を高めることができるのかもしれない。

◎ 返済スケジュールは顧客一人ひとりの状況に応じたテーラー・メイド
 Basic Loanは初回借入れ1万タカ(約1万円)で毎週の返済が求められるが、返済期間及び週毎の返済額については、職員と借り手女性の話し合を通じた借入れ時の合意に基づいて、相当柔軟に設定できる形になっている。例えば返済期間は3ヶ月から3年までの幅のなかで自由に設定でき(平均返済期間は44週間)、また、毎週の返済額は定額である必要は無い。これは、グラミンの顧客である貧困層が手がける小規模なビジネスのキャッシュ・フローが、牛の売買であれ米の脱穀であれ、季節等により大きく変動する傾向が強いという事情に応えるものだろう。なお、借入れに当たって合意した返済内容で1年間毎週確実に返済した顧客は、毎年25%ずつ借入れ上限が引き上げられる。

◎ 3%の保険料で借り手が死亡した場合は借金全額免除+葬儀代支給
 借入額の3%を保険料として支払った顧客は、不慮の事故や病気で本人(女性)及びその夫がなくなった場合、残された借金は全額免除となり、また1,500タカの葬儀代も支給される。本人がコントロールできないリスクが不幸にして現実のものとなっても、残された子供や親族に借金が圧し掛からないようにすることで、マイクロ・ファイナンスが貧困を再生産する要因にならないよう、配慮がされていると言えるだろう。

  Grameen Branch V
  ~ 支店の財務状況等について丁寧に説明してくれるグラミン銀行の職員の皆さん ~

◎ 借り手の子供への奨学金の提供
 借り手の子供が大学へと通う費用を補助するためのプログラムも用意されている。各支店で特に成績の良い子供16名(うち半分は女子、残りの半分は男子と女子から成績の良い順に適用)を選び奨学金を提供するこのプログラムにより、これまで約15万人の子供達が、高等教育への進学を手にしたと言う。これは、借り手の母親達が子供の教育に力を入れる上での大きなインセンティブとなるだろう。
  
◎ 職員のモチベーションの源泉となる「10の指標」と「五つ星」

 「Basic Loan」が持つ上記の特徴はいずれも、グラミン銀行の職員が、顧客の生活水準を持続的に向上させるというモチベーションを持って、積極的な対話を試みるか否かにより、相当程度結果が違うものとなるだろう。例えば職員や支店の成績が「融資量」や「回収率」、あるいは「儲け」のみで判断されれば(無論、これらは金融機関としては無視できない大切な指標だが)、交わされる「対話」の内容が、不必要に長期の返済期間を顧客に提案し金利を余分に稼ぐ、過剰借入れを顧客に奨励する、あるいは、暴言によって資金回収を図る、といったものとなり、ひいては、かつて日本の消費者金融で問題になったような事態に陥りかねない。

 その点、グラミン銀行が設定している「10の指標」は興味深い。全うな家屋、清潔なトイレ、娘/息子の小学校への就学、十分な衣服、一日三度の食事といった項目が並ぶこの指標は、各支店が、顧客の状況を毎年チェックする際に用いるものであり、「顧客が貧困から脱却したか」を判断するためのツールとして用いられている。言い換えれば「10の指標」はグラミン銀行の成功の定義なのだ。

 「10の指標」は職員や支店のパフォーマンスを評価し、相互の切磋琢磨を引き出すことにも貢献しているようだ。ここで、「成績のよい」支店や職員に賞として与えられる「五つ星」を見てみよう。

 ☆ グリーン・スター:融資の回収率が100%の職員・支店

 ☆ ブルー・スター:利益を出した支店
 ☆ バイオレット・スター:融資量を上回る預金を集めた支店
 ☆ ブラウン・スター:借り手女性の子供が全員小学校に通っている/修了した支店
 ☆ レッド・スター:顧客全員が「10の指標」をクリアした支店

 金融機関として事業を継続するために必要な財務指標と、顧客の生活水準を持続的に向上させるための社会指標とがバランスよく盛り込まれたものとなっている。「契約書・保証人・担保なし」、「テーラーメードの返済スケジュールと実績に応じた融資上限の引上げ」といったグラミン銀行のローンは、「10の指標」「五つ星」といったインセンティブ・メカニズムと合わさっているからこそ、顧客女性の貧困からの脱却という社会的ミッションと、金融機関としての財務の健全性の維持の両立に貢献するのだろう。

 次回は、マイクロ・ファイナンスを巡り常に論争の的となっている金利水準について紹介、議論をしていく。(続く)
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バングラデシュのソーシャル・ビジネスが織り成す物語 | コメント:(1) | トラックバック:(0) | 2012/10/23 02:35
コメント:
その1でも触れている、ユヌス氏に対しての意見が別れる部分、そこらへんの背景も知りたく思います。

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