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グラミン銀行 ~信頼を基盤とする金融は如何にして創られるのか?(その1)~

 いまやソーシャル・ビジネスの代名詞ともいえるグラミン銀行。創設者のムハンマド・ユヌス博士とグラミン銀行が2006年にノーベル平和賞を受賞して以来、小額のローンを5人組の女性に無担保で貸し付けるマイクロ・ファイナンスのモデルは、貧困削減や女性の地位向上に資するツールとして世界中の注目を集め、バングラデシュのブランディングにも貢献してきた。
   Grameen Bank1
 ~グラミン銀行本店の一階ロビーに設けられた「Nobel Gallery」に展示されている2006年秋のノーベル平和賞受賞式の写真。ユヌス博士と共にグラミン銀行を代表して栄誉を受けているのは、モサマト・タスリマ・ベグムさん。彼女は1992年にグラミン銀行から一匹のヤギを買うための約20ドルを借り、それを元手にビジネスを成功させ、ついに、グラミン銀行の経営を担う取締役の1人となったのだ。~

 他方、お金を貸し付けるだけでは顧客である貧しい女性の持続的な生活水準の向上に結びつかないのではないか、20%前後に設定された金利は高すぎるのではないか、などの議論も巻き起こっている。インドのアンドラ・プラデーシュ州で発生したマイクロ・ファイナンスの多重債務と借り手農家の自殺問題に端を発する関連規制の強化、あるいは、グラミン銀行とバングラデシュ政府側の確執による2011年春のユヌス博士のグラミン銀行総裁(Managing Director)解任騒動といった出来事が、マイクロ・ファイナンスへの懐疑的な見方を増やしているのも確かだ。

 世界中の賞賛と論争の的になっているグラミン銀行のビジネス・モデルや、その背景にある哲学をより深く知りたい!2泊3日のマヒン村でのホーム・ステイからダッカに戻ったCrossover21のBangladesh Study Tripのメンバーは、こんな想いをもって、ダッカのミルプール地区にあるグラミン銀行の本社での幹部との意見交換、支店での現場ローン・オフィサーとの議論、そして「センター」と呼ばれる借り手の女性達のミーティングの場への訪問に臨んだのだった。

 今回、我々を引率してくれたのはグラミン銀行International Program Departmentのマネージャーであるモーシェッドさん。グラミン銀行勤務暦約20年の彼は、ミーティング中はもちろん、車での移動時間も含め、一日中、殆ど絶えることの無かった僕らからの様々な質問に、まっすぐと、そしてクリアに答えてくれた。 以下、数回の記事に分け、モーシェッドさんとのやり取りを中心に得られたStudy Tripでの学び、及びグラミン銀行のウェブサイト等を通じて公開されている情報を元に、
  •  誰がグラミン銀行の顧客なのか?
  •     グラミン銀行は顧客にどのようなサービスを提供しているのか?
  •  誰がグラミン銀行に資金を提供しているのか?
  •  誰がグラミン銀行を所有しているのか?
  •  グラミン銀行のビジネス・モデルは、資金面での持続可能性と社会的ミッション追求を持続的に両立できているのか?
  •  グラミン銀行のビジネス・モデルの背景にある哲学とは何か?

といった問を解きほぐしていきながら、「グラミン銀行~信頼を基盤とする金融は如何にして成り立つのか~」というテーマと向き合っていきたい。

◇ 誰がグラミン銀行の顧客なのか? 
  
 グラミン銀行のビジネス・モデルの原点、それは、1976年に当時チッタゴン大学教授だったユヌス博士が、ジョブラ(Jobra)という村で、高利貸からの借金取立てに負われ、貧困の連鎖から抜けることの出来ない状態にあった女性達に、自らのポケットマネーで20ドル程度のお金を貸し付けた結果、彼女達の生活水準が大きく改善し、また、貸したお金が博士の手元に戻ってきた、という印象的なストーリーである事は良く知られている。その後数年間、ユヌス博士は彼の研究室で学ぶ学生と共にこうした取組みを続けながら、より広範囲でのマイクロ・クレジット展開を模索していたが、その際に障壁となったのが、無担保融資を認めていなかった当時の銀行法だった。そこで、ユヌス博士は、政府の計画委員会の委員を務めていた際の人脈を活用して、バングラデシュ農村部の貧困層の生活水準改善を目的とする小額の無担保融資を実施するスキームを合法化するための新法制定を、当時の中央銀行総裁に働きかける。ユヌス博士の提案に共感した中央銀行は新法の策定に着手、国会議員の賛同も得て成立したGrameen Bank Ordinance(グラミン銀行法)」に基づいて正式にグラミン銀行が発足したのは1983年のことだった。 

 発足当時の顧客数は5万8千人。発足から約30年を経た2012年現在、グラミン銀行の顧客数は約150倍以上となる860万人に上っている。では、その顧客は一体どのような人々なのだろうか?グラミン銀行をはじめとするマイクロ・ファイナンスの主たる顧客が女性であることは、既に多くの人々が知るところだが、それが当初からの姿だったという訳ではない。下のグラフが示すとおり、発足当初は顧客の半分以上が男性であった。しかし、その後女性の割合は一貫して 伸び続け、発足から10年後の1993年には9割を突破している。この変化の背景にはどのような考えがあったのだろうか。
   Grameen bank members  
 この点に関してモーシェッドさんはこんな印象的なストーリーを共有してくれた。
 
 「理由の一つ目は、女性と比較して、男性は規律がつけ難いのです(not disciplined)。5人でグループをつくろうというとき、あるいは、一定数のグループが集まって「借り手センター」を運営しようというとき、男達は得てして『俺がチーフになる』という輩が多すぎて議論がまとまらない。言い争いに熱を上げているかと思えば、タバコを吸いぷいっと外に出ていってしまう。マイクロ・クレジットを効果的に継続展開する上で、こうした傾向は良いこととは言えません。『グループ全体が上手く機能するにはどうしたらよいか』という発想での言動が、女性のほうに傾向として多く見られたのです。」

 「二つ目の理由は、我々が顧客の生活状況について明らかにするために実施した調査の結果から得た示唆によります。例えば、『日々一番気にしていることは何か?』という質問。男性の主たる答えが『(外での)仕事の状況』である一方、女性の殆どは『子供のこと、家庭のこと』という回答。『日中の時間を何に使っているか』という質問に対しては、男性は『5-6時間ほどの外での仕事、残りは茶店で仲間とおしゃべり』という風である一方で、女性は『日の出から日没まで、一日12時間近く水汲み、子供の面倒、炊事・洗濯などに汗をかく』といった回答でした。他方で、『資産をどのくらい持っているのか』という質問については、牛、土地、家屋等の大きなものから始まり、農機具やカーテンといった消耗品の類まで、何がしかの資産の所有権を持っている、と回答した女性は殆ど居なかったのです。この調査の結論を一言で言えば、「Women work hard work for their family, but no assets」 という感じでしょう。そして、これには、女性の家庭内でのハード・ワークが目に見えるキャッシュを生まない、という事情も影響していたのです。」

 「我々が女性に焦点を当てた理由はそこにあります。つまり、女性に小額ローンという形のキャッシュにアクセスする力を与え、それが、彼女達自信の手で何がしかの事業を始める力に転換されれば、例えば、牛を買って牛乳を売るビジネスでも良いでしょう、そうすれば、女性達は自らの資産とそこから生み出されるキャッシュ、そして、家庭内での発言権を得ることが出来ます。こうした高められた女性達のPowerは何に使われるか。それは、彼女らが日々一番気にしていること、つまり、家庭と子供です。これは、例えば各家庭が得る所得の向上といった経済指標だけでなく、乳幼児への十分な栄養提供、女子の就学率の向上、早期婚の防止、合理的な家族計画の実施、あるいは性感染症の予防といった各種社会指標の改善にも大きく貢献しうる。我々の顧客の殆どが女性である理由はここにあります。

 モーシェッドさんの説明に大きく頷くCrossoverの女性陣、うつむき加減の男性陣・・・ 

 なお、女性へのフォーカスが大きな開発効果を生むことについては、世界銀行の最大の知的プロダクツ「World Development Report」の2012年版「Gender Equality and Development」が世界に向けて発信した「ジェンダーの平等を目指すことは正しいだけでなく経済合理的である(Gender Equality: the Right and Smart Thing to Do )」とのメッセージとも重なる。上記レポートは、このメッセージを例えば以下のような統計により裏付けている。

・女性の農民が男性と同等の扱いを受けることで、メイズ(トウモロコシ)の収量が、マラウイで11~16%、ガーナで17%増大する。
・ブルキナファソでは、肥料や労働などの農業インプットへの女性のアクセス向上、つまりこうした資源の配分を男性から女性に移すだけで、追加的な資源を投入することなく、世帯当たりの農業生産高が全体でおよそ6%向上した。
・食糧農業機関(FAO)の推定によると、女性の農民が男性と同等に資源へアクセスできれば、途上国における農業生産高は2.5~4%も増大する。
・特定の職種やセクターから女性を締め出してきた障壁を撤廃すれば、多くの国々で男女の労働生産性の差が3分の1から2分の1ほど縮小し、労働者1人当たりの生産量が3~25%改善される。

 既に、このブログでも何度か言及してきたが、バングラデシュは女性の地位向上による社会指標の改善のフロント・ランナーだ。例えば、女子の中学校就学率が1991年の30%から2005年には56%に向上、女性の労働市場参加率は倍増、そして、出生率は1971年の約7人から2008人には約2人にまで低下する等の成果がWorld Development Reportでも紹介されている。こうした成果の裏には、政府や開発パートナーによる各種のプロジェクトだけでなく、グラミン銀行をはじめとするマイクロ・ファイナンスの力も大きかったのかもしれない。

 モーシェッドさんの案内で、僕らはダッカから北西に約3時間ほどのドライブを経てタンガイル県ゴライ・ユニオンのジョイエルパーラ村にあるグラミン銀行のセンターへと向かった。センターとは、借り手の女性達5名でつくられた12のグループ、つまり60名の女性達が集まって毎週一度ミーティングを行う場所だ。ミーティングでは、各グループの借入れ・返済状況の確認や、借りたお金で女性達がビジネスを実施するうえでのベスト・プラクティスの共有などがなされる。なお、グラミン銀行は顧客と従業員の双方を合わせて、「グラミン・ファミリー」と呼ぶそうだが、その全体像を下に図示した。
       Grameen Familiy
    
  センターの入り口から中を伺うと大勢の女性達が座っている。「別に君達が来るから特別に集まってもらった訳ではない。毎週やっているミーティングにちょっとお邪魔させてもらうだけだよ。」と言うモーシェッドさんに手招きされて中へと入るCrossoverの一行。モーシェッドさんに伴われた僕らが入ると、センターのチーフのアグリーマさんの号令で、女性達が全員いっせいに起立し、敬礼をし、そして着席をした!まるで軍隊のような一斉動作に面食らう僕らに「これもいつものこと。効果的なマイクロ・ファイナンスには規律(discipline)が必要ということでしたよね。毎回ミーティングの最初と最後にこれをやるのは、グラミン・ファミリーのしきたりなのだよ。」とモーシェッドさん。

 ちなみにセンター・チーフは12のグループのチーフの中から代表者一名が女性達の手によって選ばれる。彼女は毎回のミーティングの議事進行に加え、グラミン銀行が主催するテーマ別の起業向けセミナーに出席し、そこでの学びをチームの皆に共有する役割も果たしているそうだ。さて、グラミン銀行の借りて手である目の前の女性達は、グラミン銀行から一体いくらを借り、それを何に使い、そして、どのように生活を変えていったのだろうか?借り手の女性達と僕達との対話が始まった(続く)。
 
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バングラデシュのソーシャル・ビジネスが織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/10/14 00:55
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