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バングラデシュの経済は大丈夫なのか?(その3)

 「エグロ ディム コト?(タマゴ、幾らですか?)」
 「エクタ ノイ タカ」(一つ9タカ(約9円)だよ)

 「アプナール モネ アチェ プライ エク ボチョール アゲ エキ ディム コト ホエチェ?(一年前くらいは、同じタマゴ、幾らぐらいだったか覚えていますか?)
 「モネ ホイ チョイ タカ ホエチェ(6タカくらいだったかな)」
   野菜市場    

 ここはダッカ南部を流れるブリコンガ河を渡った先に広がるカリガンジ・バザールの一角。縫製工場で働く女性や船舶修復現場で汗を流す男たちなど、バングラデシュの庶民が日々の買い物で利用する市場だ。向き合うのは、僕のたどたどしいベンガル語の質問に気さくに答えてくれる八百屋のオヤジ。目の前にはツルリとしたタマゴが、色鮮やかな野菜たちに囲まれて並んでいる。
  
 バングラデシュの一般家庭や地方のホテルでの朝食と言えば、タマゴ焼きが必ずと言っていいほど振舞われる。
    breakfast

しかし、その値段は意外に高い。一パック分(12個)を買えば約110タカ(110円)。昨年と比べて5割も値上がりし、今や日本のスーパーのバーゲン価格と殆ど変わらない値段。しかし、例えば勤続20年程度の公立小学校の先生の給料は約8,000タカだ。もちろん昨年と比較して5割増えるている訳はない。

 市場のオヤジとのやり取りは続く。中国から輸入したガーリックは昨年1キロ50タカだったものが、今は90タカ。一キロ12タカだったジャガイモは20タカ、などなど。


 場所は変わって我が家から程近いグルシャン2交差点。舞い上がる粉塵とクラクションの音が交差する。汗だくになりながら向き合う相手はCNG(CNG:天然ガスで動くオート・リキシャ)の運転手のおっさんだ。

 「エカンテケ カウランバザール ポルジョント デルショ タカ?ビシャッシ コッテパリナ!シャダロノット プライ エクショ タカ ホイ ナキ!?」(ここからカウラン・バザールまで150タカだって?信じられない!いつも大体100タカでしょ!)
 「ナー、ナー、フューエル プライス オネク ベレジャッチ」(ダメダメ、燃料代がスゴクあがっているんだから。)
  
 ベンガル語で言い合っていると、興味本位で集まってくるベンガル人の人だかりがすぐにできる。しかし、運転手は相変わらず取り付く島の無い様子。最後は、  
 「アミ アプアールジョンノ チャラレ、CNGバラ コム ホベ?。バイ、ピチョネ ボシュン!(僕が代わりに運転したら安くなる?オジさん、後ろに座って!」
 と捨て身の“ハイジャック作戦”で食い下がるも値段は変わらず。仕方なく言い値の150タカで矛を収めることに・・・こんな感じで、外国人価格を吹っかけられるのは仕方が無いとしても、CNGの値段があがる一方なのも確かなのだ。

  CNG

 ところで、市場や交差点の一角で返って来るこうした答えは新聞の一面を飾る不吉なヘッドラインとも重なる。そう、あらゆる物の値段が上がっているのだ。庶民の給料の伸びをはるかに上回る勢いで

 バングラデシュの経済に過去20年近く見られなかった幾つモノ「異変」がここ1年足らずで発生している。例えば二桁を超えるインフレがそれだ。上記で紹介した食料品を含む消費者物価指数(CPI)を見ると、足元若干下落したものの対前年同月比で10%近い伸びを示している。しかし、食料品やエネルギーを除いたベースでCPIの上昇率を見ると状況はより一層深刻であり、足元14%にも達している。バングラデシュは、過去10年平均6%程度の経済成長を続けてきたが、インフレ率が10%を超えることは殆ど無かった。では、最近になって、バングラデシュ経済の基盤を揺るがす二桁のインフレが発生している背景には何があるのか。

 そこに第二、第三の「異変」の存在が浮かび上がる。それは、エネルギー不足による輸送コスト・資材コスト等の高騰、そして、バングラデシュの通貨(タカ)の減価による輸入品価格の高騰だ。

 例えばタマゴの値段が上がっているのは、鳥インフルエンザの発生による一部家禽の処分の影響に加え、タマゴを市場まで運ぶための輸送費、卵を産むニワトリの飼料、飼料を育てるために必要な水をポンプで獲くみ上げるための燃料代、これらが上昇していることが背景にある。

 過去10年、うなぎ上りだった需要を背景に急成長を遂げてきたバングラデシュの不動産業もしかり。価格の上昇が止まらない一方で、業績がここに来て対前年比25%減という厳しい状況に陥っているのは、マンション需要が減少したからでは決してなく、資源・エネルギー価格の高騰によるコスト増や、マンション建設に必要な資金を銀行から借り入れる際の金利の上昇分を、価格に転嫁せざるを得なくなった結果、主たる買い手の購買能力を上回るほどにまでマンション価格が上がってしまったことによる。

 値段が昨年比二倍にも跳ね上がった中国産のガーリックの背景には、輸送費の増大に加え、第3の異変、つまり通貨タカの下落が影を落とす。下記のグラフが示すとおり、2011年1月時点で1ドル71タカ程度だった名目為替レートは今年に入って1ドル83タカ程度と約15%程度減価しているのだ。

為替レートの推移

 これでは、他の条件が何も変わらなくても輸入品の値段は15%程度割高となってしまう。なお、バングラデシュの通貨が過去1年間で急速に下落したのは、縫製品などの輸出や中東を中心とする海外出稼ぎ労働者からの送金で得られる外貨よりも、原油や石炭、あるいは産業機械等の輸入の支払いのために海外に出て行ってしまう外貨のほうが多い状態、つまり経常収支の赤字が続いているためだ。ちなみに、バングラデシュが経常収支が赤字に陥ったのも、過去10年間で初めてのことだ。

   経常収支
 
 なお、輸出の伸び悩みの背景には、バングラデシュのお得意様である欧州各国が、ギリシャに端を発する債務危機により景気後退に陥っていることが挙げられる。何しろ、バングラデシュの輸出の8割を占めるReady Made Garment(既製服)は、人々の財布の紐がしまったときに真っ先に締め出される品の一つなのだから。そして、エネルギーの輸入が激増する背景は、前回までの記事で紹介したとおり。


 このように、タマゴ、ガーリック、オート・リキシャの運賃、不動産の価格など、様々な製品・サービスの価格が上昇し、全体として二桁を超えるインフレが発生している背景には、需要の増(所謂ディマンド・プル・インフレ)よりも、①エネルギー不足、②エネルギー補助金の垂れ流しによる財政の悪化と金利の上昇、③タカの減価、等による製造コストの増(コスト・プッシュ・インフレ)要因が強く働いている

 メキシコやトルコ等と並びBRICに続く急成長が見込まれる「NEXT11」としてバングラデシュの名前が挙げられたのが2005年。バングラデシュはその前後5年で、確かに順調な経済成長を遂げた。巨大サイクロンの被害に見舞われ、国家非常事態宣言が出される程の政治動乱を経験し、そして世界金融危機やアラブの春等の厳しい外部環境の中にあってもなお、成長を続けた。これは、バングラデシュの実に力強い、そして底堅い民間セクターの存在の証だ。

 しかし、これからはどうだろう。

 エネルギー不足、インフラ不足、これを賄おうとする結果拡大する政府の財政赤字の悪化と金利の上昇、そしてインフレと為替の下落…これらは、民間企業の努力だけでは、解消され難いマクロの課題だ。放置すれば、力強い民間セクターの潜在力を奪い、労働者が手にすべき所得を減らし、人々の生活の糧を蝕む。外国からの投資も入らないだろう。独立40年を経た今日、新・新興国バングラデシュは、こうした困難なマクロ課題に直面している。

 そして、これらの課題を解決できるのは、政府以外にはない。しかし、そこにあるのは、世界最悪レベルの汚職と非効率で知られる政府だ。ここに、バングラデシュにおける現在の最大の課題が政府のガバナンス(統治能力)やキャパシティ(問題解決能力)の強化であると信じる理由がある。(本シリーズ終わり)
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バングラデシュの経済・産業が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/05/30 02:41
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