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8月15日は喪に服すべきか、国民総出でお祝いをすべきか?

 今年もせみの鳴き声の深まりとともに終戦記念日を迎えた。と言っても自分はダッカに居るからせみの声の代わりに、間断なく鳴り響くクラクションの音を聞かされているのだけれど。
 
 ところで、今朝のダッカのジャングル・ロードは、いつになく車の数、種類ともに少なく、僕はスリルもフラストレーションも感じることなく世銀事務所に到着した。アシスタントのDipaに、一日の滑り出しが実に快調であったことを告げると、「あら、それは休日だからでしょ」と至極説得力のある解答を頂く。「では、今日は何を祝う休日なのだろう?」そんな素朴な疑問に答えてくれた彼女との会話の中で、僕は8月15日はバングラデシュにとって色々な意味で不幸な一日であることを知ったのだった。

       Bangabandhu(バングラデシュの友)

 写真の人物は、Sheikh Mujibur Rahman(シェイク・ムジブル・ラーマン)。8月15日は、Bangabandhu(ボンゴ・ボンドゥ(ベンガル語で「バングラデシュの友」の意味)という愛称で親しまれ、半年にわたる熾烈な内戦の末、1971年12月にパキスタンから独立を勝ち取ったバングラデシュ独立の父であるラーマン初代首相の命日なのだ。ボンゴ・ボンドゥはバングラデシュの現与党「アワミ連合」の党首であり現首相、Shiekh Hasina(シェイク・ハシナ)首相の父上でもある。ちなみに、ハシナ首相は運が強いことで知られている。過去、数度にわたる暗殺計画をその強運で切り抜けてきたからだ。その最初の暗殺計画が1975年8月15日なのだ。

 36年前の今日、ダッカ中心部に位置する首相官邸に一団の軍人が戦車とともに乗り込み、ボンゴ・ボンドゥとその妻、3人の息子たち、警備員やお手伝い等、官邸に居合わせた全員を惨殺したのだ。ハシナ現首相は、たまたま妹と共に西ドイツに滞在中であったために、凄惨な暗殺劇を逃れることができた。

       Sheikh Hasina現首相

 8月15日はそんな非業の死を遂げたバングラデシュ独立の父であり、また現首相の父上でもあるボンゴ・ボンドゥを追悼する日なのだ。

 ところが、2001年から2008年までの間、8月15日は喪に服す日ではなく「国民総出でお祝いをする日」だったそうな。8月15日が日本人にとっては戦没者を追悼する終戦記念日である一方、韓国人にとっては日本の植民地支配からの解放を祝う「光復節」であるといった風に、国民がその記憶と共に抱く物語の相違は世界中にありそうなものだが、バングラデシュという同じ国でこうした“ねじれ”が生じているのは何故か?2001年から2008年まではバングラデシュは別な国民国家だったとでもいうのか?

 8月15日を「お祝いの日」としたのはKhaleda Zia(カレダ・ジア)。彼女は2001年から2008年まで首相を務めており、現在は野党第一党のBNP(Bangladesh National Party)の党首である。バングラデシュが二代続けて女性首相を輩出していることには新鮮な驚きを感じるが、8月15日との関係でより驚くべきは、ジア首相が就任直後に
 「8月15日は“実は”私の誕生日なのです。なので国民皆で祝いましょう」
というメッセージを送ったことだろう。

      Khaleda Zia 前首相
 
 二大政党がNegative Campaignを繰り広げるのは古今東西ありふれた光景かもしれないが、何も独立の父の命日を自分の誕生日にしてしまわなくても宜しいのではないでしょうか…と誰しも首をかしげるのではないか。

 しかし、この8月15日を巡る「ネジレ」は、バングラデシュの開発の成果を奪う根深い政治の確執の氷山の一角なのだ。

 1975年のボンゴ・ボンドゥ暗殺は、ボンゴ・ボンドゥとともにバングラデシュを独立に導いた軍の英雄Ziaur Rahman(ジアウル・ラーマン)陸軍参謀総長が計画したものと言われている。そして、ボンゴ・ボンドゥ亡き後、二代目首相となったジアウル・ラーマンは、実は前述した前首相、現野党第一党BNPの党首であるカレダ・ジアの夫なのだ。

            Ziaur Rahman

 しかし、二代目首相となったジアウル・ラーマン自身も1981年に反対勢力であるアワミ連合(つまり、ボンゴ・ボンドゥとその娘、シェイク・ハシナ首相を支持するグループ)の一派の手により暗殺されてしまう。こうしてみると、バングラデシュの二大政党である「ハシナ女史率いる現与党アワミ連合」と、「ジア女史率いる現野党BNP」との間の争いが、政策的な違いを超えた、一族の命運を掛けた血で血を洗う争いであることがわかる。

 例えば両党共に、下野すると、時の与党を批判するために、しばしば、支持者を動員して「ホッタール」と呼ばれるゼネストを決行する。ゼネストと言っても、単に公共交通機関や公共機関がストップするだけではない。竹やりや火炎瓶で武装したデモ隊と警官隊が衝突しけが人が続出、死者も出る他、火事場泥棒よろしく、略奪や破壊行為も発生する。ダッカの経済活動は中断を強いられ、国際機関の職員や外国人は外出をすることすら難しくなる。バングラデシュへの経済的な損失は計り知れない。

 また、2004年8月には、当時野党だったアワミ連合の政治集会に手投げ弾が複数投げ込まれ、アワミ連合の幹部を含む24人が死亡した他、大勢のけが人を出すテロ行為があったが、なんとその首謀者は、警察や軍の幹部、及び当時与党だったBNPの幹部だったと言うから、ただ事ではない(政権主導のこのテロ行為はハシナ女史をターゲットとしたものだったが、この時も彼女は無傷で難を逃れた。全く強運の持ち主である)。

 ちなみに、8月15日を突然自分の誕生日にしてしまうジア前首相に呆れた国民も多かろうが、同じようなことはアワミ連合が政権を取っていた2001年以前にも起こっている。以下の写真は、国会議事堂に程近い場所にある二代目首相ジアウル・ラーマンを追悼する公園だ。

     二代目首相ジアウル・ラーマンを追悼する公園

  写真手前に見える立派な橋を渡った先にジアウル・ラーマンが眠る墓があるのだが、実はこの橋、公園が設立された当初は墓を囲むお堀に浮かぶ木製の橋だった。ところが、政権をとったアワミ連合が、政敵(つまりカレダ・ジア女史)が「夫の墓参りを出来ない様に」つり橋を撤去してしまったのだ。その間、ジアウル・ラーマンの墓は文字通り“陸の孤島状態”だったそうだ。その後、めでたく政権の座に返り咲いたカレダ・ジア率いるBNPは、真っ先に橋を修復し、今度は「簡単には撤去できないように」コンクリートの立派な橋を掛けたのだと言う。

 「8月15日は実は私のお誕生日だったの!」という子供じみたプロパガンダは、専ら、夫の墓参りへの道を撤去されたことへの腹いせだったのだろう、と言うのが、苦笑気味にダッカ市民が語るエピソードだ。

いずれにしても、それぞれ父親と夫を暗殺された二人の女性が率いる二大政党間の確執は、時に「ホッタール」という暴力的なゼネストとして、時に一貫性のない教育や都市開発政策として、またある時には目に余るネポティズム(縁故主義)や汚職として、様々に形を変えてバングラデシュの経済・社会開発に大きな影を落としている。かつてレーガン大統領は、「Government is not a solution to our problme. Government is the problem」と述べたが、その台詞がそっくりそのまま当てはまる国がバングラデシュだ。

 そして、日本や世銀を含むバングラデシュの開発のパートナーにとってのジレンマは、あらゆる意味でCapacityの弱い政府を通じて(政府に資金を渡して)支援を実施すべきか、あるいは、政府は横に置いておいて、自らの手で支援を実施するべきか、という問いだ。
 
 前者を選択すれば、円滑なプロジェクトの実施が期待できないばかりか、各国が拠出した貴重な納税者の資金を原資とする開発資金が、誰かさんのポケットに入るリスクが高まる。他方、だからと言って、後者の方法ばかりが採られれば、プロジェクト自体はうまく進捗するかもしれないが、何時まで経ってもバングラデシュ政府のCapacityは向上せず、自国が抱える問題に対する政府のowershipも高まらないだろう。バングラデシュの未来は最後はバングラデシュ人が構築していく他はなく、また、多大なproblemを抱える政府が改善されなければ、NGOや企業による現場の努力が水泡に帰すリスクは高まることを考えれば、後者の方法を採り続けるのも得策とはいえない。

 こうしたジレンマの中で、前者の方法、即ちGovernment Systemを通じて援助を実施しようとする世銀が直面する最大の課題とは、政府と着かず離れずの関係を保ちつつ、如何にしてバングラデシュ政府のOwership, Capacity, Integrity, 即ちGovernanceを向上させるか、ということになろう。

 8月15日というバングラデシュ政治の「ねじれ」を反映した休日は、流れが何時になくスムーズなダッカの街路とは裏腹に、スムーズには進まないバングラデシュの開発の現実を考えさせられるエピソードに満ちたものなのだ。
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バングラデシュでの生活が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2011/08/15 22:44
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