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バングラデシュが未来を切り拓くには何が必要だろうか? ~技術立国を目指して走り続ける若者たちの物語(その2)~

 広々としたイスラム工科大学のキャンパスに響き渡る鋭いエンジン音と若い歓声。100名を超えるベンガル人学生の視線の先にあるのは、「1リットルのガソリンで、どこまで走っていけるか」をテーマに、チームで創り上げた「エコラン・カー」だ。

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今年秋に開催予定の全国大会に向けた「試行ラン」の第一走者となったボリシャル職業訓練校の学生は、細身のエコラン・カーを巧みに操りカーブを切った。その後をチームの仲間が歓声を上げながら追いかけていく。エコラン大会の火付け役であり学生たちのコーチ役でもある青年海外協力隊の大河原俊弥さんは腕組みをしながら厳しい視線でエコラン・カーを見つめる

 第一走者が無事スタート地点まで戻ってきた。昨年の第一回大会の教訓が活きたのだろうか、途中故障することも無く見事に走り終えた。素晴らしい!続いてラッシャヒ工科大学、ダッカ工科大学と試行ランは続く。しかし、走行途中でエンジンの調子がおかしくなり停止してしまう車両。スピードが出すぎてカーブを曲がり切れず、クラッシュしてしまう車両等トラブルが続出。唯一の女子チームであるチッタゴン工科大学の車両は走り出すことも出来ない。必死にエンジン調整をするチーム・メンバー。何とかしたい。何とかしなきゃ!眉間の皺は深まり、額には汗が滲む。

 本番さながらの緊張感の中での試行ランだからこそ発生する様々なトラブル。歓声と苦悶のうなり声が交差する。

 試行ラン開始から一時間。意を決した表情で女子チームの一人がヘルメットをかぶり、狭いコックピットに華奢な体をもぐり込ませた。ハンドルを握りアクセルを踏み込む。

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暫くの沈黙の後、突如車両は発進。彼女はバランスを崩しながらも必死でハンドルをさばく。大声を上げながら走る仲間たちが後に続く。会場は拍手に包まれた。イスラム工科大学のキャンパスを周回して無事スタート地点に戻ってきた女子学生。やけに大きく見えるヘルメットから開放された彼女の表情は安堵と喜びに満ちていた。
 
 しかし、大河原さんの仕事は終わらない。試行ランを終えたチームを一つ一つ回り、車両の構造やハンドルの操作性、重量等、様々な視点から、チームを指導していく。

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その表情は厳しく指摘事項は容赦ない。しかし、学生たちも真剣な表情で大河原さんの指摘に耳を傾け、率直な質問をぶつける。まるで自らの製品に誇りを持ち、決して妥協をしない職人が、若い工員を叱咤激励する町工場の風景のようだ。日本の経済成長の基盤を作ってきた数多くの中小企業の町工場では、きっとこういう本気の指導と挑戦が受け継がれてきたのだろう。


 午後3;00。キャンパスに響き渡っていた歓声は、次第に柔らかくなっていく日差しのなかで、少しずつ静寂に取って代わられていく。ようやく一息を付いてコーラで喉を癒す大河原さんをつかまえて、エコランに掛ける想いやその先にあるビジョンについて語ってもらった。

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 「バングラデシュが将来を切り拓いて行く上では何が必要か。それは決められたことを決められたとおりにやって満足する状況から抜け出し、自分たちで創意工夫を繰り返しながら、新しいモノを作り出していく力だ。学生達にはエコランを通じて、失敗から学び、直面した壁を自ら乗り越えていく力をつけていって欲しい。そしてその過程を大いに楽しんで欲しい。」

 縫製業を中心に近年目覚しい経済成長を遂げるバングラデシュ。しかし、例えば繊維製品を作り上げるのに必要なミシンは全て輸入頼み。MADE IN BANGLADESHを唄う電化製品やバイクを製造・販売するWALTONという会社はあるものの、部品は全て外国製。WALTONの提供できる付加価値は、組立てと販売、アフターケアに留まっている。バングラデシュが世界に提供できる価値が「安価な労働力」だけでは、何時までたってもこの国の人々は、付加価値ある何かを自分たちの手で作ることは出来ない。多くの労働者は、このブログでも紹介した牛革加工や船舶解体、レンガ工場、あるいは出稼ぎ先の中東地域の工事現場と言った、3K職種に甘んじ続けることになる

 しかし、この状態から脱却するための資産を、バングラデシュは持っているのだ。それは大勢の若者たちだ。バングラデシュの若者たちが、柔軟な発想力と失敗を恐れない精神を持ってものづくりにトライする機会、即ちエコランは、この国の技術力を高める基盤となるのだ。
  
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 大河原さんのビジョンは技術に留まらない。
 「エコランは技術を身に付けるためだけの機会ではない。エコラン全国大会が実現し、さらに、バングラデシュの毎年の恒例行事として、全国各地の職業訓練校や技術大学校が競い合う国民的イベントとなれば、それぞれの地元の人々も地元代表を懸命に応援するでしょう。まさに、甲子園を目指す高校球児と彼らに声援を送る地元のつながりと同じです。それを通じて、皆で共通の目標に向かう力、そしてフェアプレーの精神がバングラデシュに定着していく。これはこの国の「汚職」を無くしていく上で、大きな力となるはずです。」

 世銀がプロジェクトを実施していくうえで、必ず直面する巨大な、しかし目に見えない壁が公共機関の「Weak Institution」。「Institution」とは日本語に訳しにくい言葉だ。辞書を引くと「機関」「制度」「慣例」といった字句が並ぶが、僕は「組織力」だと捉えている。即ち、単にフローチャートとしての「組織」やその組織を動かすための「ルール・慣例」、あるいは十分な人員や設備といた物理的な事柄だけでなく、組織のメンバーが共有するミッションやゴール、メンバーを目標に向けてプロアクティブに歩ませる動機付けや相互学習、あるいはメンバー間の連帯感や共感、即ち仲間意識がコアとなる概念だと考えている。

 そして、これらがバングラデシュの特に政府部門では著しく欠けているのだ。エコランというグループ・ワークを通じて、こうした「Institution(組織力)」を高める人財がきっと育っていくだろう。それは、高度な技術を持続的に生み出していく上でも不可欠な要素だ。

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 最後に「フェアプレーの精神」。贈収賄や横領、あるいは多くの政府職員あるいはその家族が私企業経営に関わり、公の資源を我田引水する利益相反等、あらゆるタイプの汚職が、この国には蔓延っている。それは、多くの開発プロジェクトの成果を遠ざけるばかりか、「正直者が馬鹿を見る」風潮として社会に根を張り、納税意識を低め、援助頼みの状況からの脱却を阻む

 エコ・ランへの参加を通じて、そしてエコランに参加する学生たちにエールを送ることを通じて、この国の人々が、フェアプレーの大切さ、楽しさ、爽やかさに集団として強い気付きを得れば、システムとして定着してしまった汚職文化を、自ら変えていこうという波が生まれるかもしれない


 インタビュー終了後、最後に残っていたチームの元に大河原さんは掛け戻っていった。

 向き合うのは、目の前にある車両、そして若者達。しかし、彼の目指す北極星は、その先にある。バングラデシュのこれからの国創りに必要な目には見えない三つの大切なモノだ。

 「僕はいつかはいなくなる。僕無しで、ベンガル人の若者の手で、エコランが継続し拡大していくことができるか。それが成功の定義です。」

 そう、北極星に向かって、運転席に座り、勇気を持ってアクセルを踏み込み、故障も乗り越えて進んでいくべきは、他ならぬベンガル人の若者たちなのだ。エコ・ランは、そんな志を持ったベンガル人の若者たちの、若者たちによる、若者たちのための物語なのだ。(終わり)
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バングラデシュ人と日本人の協働が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/03/18 02:52
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