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開発プロジェクトの成果向上のためには何が必要だろうか?(その4)

 バングラデシュでは情報公開法(Right to Information Act)が2009年3月に議会で可決・成立しているが、これも、開発プロジェクトの成果を向上させ得る有力なツールだ。

 バングラデシュの西部、インド国境に近いシャトキラ(Shatkila)地区では、市民による政府のガバナンス向上をミッションに活動を続けるNGO、Agrogoti(アグロゴティ:ベンガル語で『前進』の意味)が、世銀の第三者評価プロジェクトを情報公開法を使って実施している。対象となるプロジェクトは、住民から選出された村議会、Union Parishad(ユニオン評議会)の強化を目指すLocal Government Support Projectだ。

 現在、バングラデシュには、地域住民が選挙で選出する村議会(ユニオン評議会)は存在するものの、実態は村の顔役たちが集まって、あーだ、こーだと議論をしているだけで、そこで決めた内容を実施することは極めて難しい。何故なら、ユニオン評議会の議員が利用可能な人員は評議会議長の秘書一人、そして利用可能な財源は、村人から徴収する微々たる税金のみというのが実態だからだ。つまり、バングラデシュの村では、住民代表が議論・決定した事項を、実行に移すための人員と予算を持つ「地方自治体(町役場や村役場)」が存在しないということだ。

 そして、各種の行政サービスは、各ユニオンにある中央省庁の出先機関が、中央からの指令に基づき実施している。これでは、地域住民のニーズに基づく社会サービスや小規模なインフラ整備の、きめ細かな実施は期待できない。汚職も起こりやすくなるだろう。

      Union Chairmanのオフィス
 ~ シャトキラ(Shatkila)地区のKhalishkhali Union Parishad(カリシカリ・ユニオン評議会)の建物。議長のオフィスとミーティング用スペース、そして秘書の執務室が入っている~

 こうした現状を変えるために、JICAが先行実施していたプロジェクトから得られた知見も借りて、世銀が全国的に実施しているのが、Local Government Support Projectなのだ。具体的には、ユニオン評議会に対し、住民からのニーズを反映したプロジェクトを実施する財源を与えるとともに、資金が真っ当に使われているか、ユニオン評議会がその説明責任を果たすための監査プロセスを導入する。

 世銀は、このProjectの成果指標のひとつとして「対象地域の女性の雇用がどの程度伸びたか」を設定している。そして、今回の第三者評価プロジェクトは、地元のNGO、Agrogotiの先導で、地域住民が情報公開法を活用して、上記女性の雇用に関する指標が実現できているかどうかをモニターし、最終的に世銀が実施する自主評価の結果とどう違うかを確認していくのだ。


子供たちが歓声をあげながらクリケットを楽しんでいる小学校の校庭の隅で、多くの女性と若干の男性たちが、椅子を並べて議論をしている。世銀のLocal Government Support Projectで提供された資金を使って、ユニオン評議会のイニシアティブで始めた地元の道路の修復事業がテーマのようだ。

     Social Mapping - Shelter 5

Agrogotiの担当者から、「世銀の成果指標によれば、このプロジェクト実施により地元の女性の雇用が20%から30%に改善することが目指されている」旨が紹介される。コミュニティのメンバーは、まず、何故道路のプロジェクトで女性において女性の雇用が重要なのか、という点から議論を始まる。

「女性が働いて家計を助けたければ、旦那と農作業をやればいいんじゃないのか?」
「いや、農作業は女性にとっては早朝から晩までの重労働。それに、すぐに現金が入ってくる訳ではないし…」
「田んぼの真ん中でトイレに行きたくなった時のこと、考えたことある?男は適当に用を足せばいいけれど、女性はそういう訳にはいかないのよ。」
「道路の修復もレンガを砕いたり、運んだりしなければならないけれど、農作業よりは随分楽。家からも近いかから、小さい子供の面倒を見ながら仕事を続け易い。」
 
 率直且つ実感のこもった対話が交わされる。そして、情報公開法に詳しい男性の一人が、その趣旨を女性たちに説明し、現在実施中の道路修復プロジェクトでは、世銀が目指す成果指標の通り「作業員の3割が女性」となっているかを、情報公開法を活用してユニオン評議会のオフィスに確認しよう、という運びとなった。   

 数日後、村の人々に数枚のリストが手渡された。道路修復を実施している業者を通じて、ユニオン評議会が入手した作業員のリストだ。見ると約2割少々しか女性がリストアップされていない。さらに、リストを眺めていた女性の一人がこんな声をあげた。
 「ありゃ、私の名前が入っている。何もやっていないのに!」

 業者からすれば、力が強い男性を出来るだけ多く雇いたい。また、地元の人々よりも低賃金で働いてくれる超貧困層等をどこか別の場所から連れてきて雇ったほうが安上がりだ。世銀は成果指標として女性の雇用を設定しているが、草の根では、こうした事情から必ずしも成果実現に向けてオン・トラックと(順調)とはいえないようだ。

 話はここで終わらない。実態を把握した女性たちは、ユニオン評議会議長との面会を申し入れた。世銀の成果指標と情報公開法を活用して得たデータを下に、議長に対して、必要な改善措置を業者が採るように伝えるためだ。議長は自分も実態を把握しきれていなかったことを認め、業者を呼んで実情を確認することを約束した。

 今後もこの村の住民は情報公開法を活用しつつ、自主的に、世銀のプロジェクトが「女性の雇用も生み出す、地域に役に立つインフラ整備」という初期の目的に向かって前進していくか、モニターを続けていくだろう。なぜなら、彼女たちこそ、このプロジェクトの最も重要なステークホルダー(利害関係者)なのだから。エンド・ユーザーが主役となる第三者評価の醍醐味はここにある。


 以上、4回に渡って、地方道路整備、サイクロン・シェルターの建設・修復、そして地方議会の強化といった現在進行中の3つの世銀プロジェクトに対して、Social Mapping、Citizen Report Card、及び情報公開法といった道具を使った世銀の第三者評価が、如何にして実施されるかを紹介してきた。草の根の市民の声とNGOの能力によって把握された様々な事実や学びが、プロジェクトの成果向上のためにしっかり活かされるか、今後、世銀及び政府側の覚悟が試される。その意味で、開発プロジェクトの成果を高めるための第三者評価が機能するためには、トップダウンのコミットメントとボトムアップの地道な取組みの双方が欠かせない。

 現在、世銀は全社体制でこうした取組みを後押しするべく、ぜーリック総裁のイニシアティブの下で、Global Partnership for Enhanced Social Accountability(社会的説明責任強化に向けたグローバル・パートナーシップ)というイニシアティブを開始した。背景には、「受益者などステークホルダーが公共サービス提供や資源管理の設計、監督、評価に関与することで開発成果向上が可能になると一層明らかになってきている」との問題意識がある。

 僕は今、こうした世銀がグローバルに掲げる問題意識を、試行錯誤を続けながら現場で実践に移す立場にある。成果(Result)向上の最前線で、マクロとミクロを往復しながら、開発効果の向上、汚職撲滅に向け、志を共にする世銀職員やNGOの仲間たちと、引き続き戦っていきたい(本シリーズ、終わり)。
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バングラデシュと世銀の協働が織り成す物語 | コメント:(1) | トラックバック:(0) | 2012/03/10 03:40
コメント:
No title
池田さん、ひさびさにここにきて一気に読みました。Resultsについては、コーポレート方針と最前線の実行との間に、何層かのギャップを埋める余地がまだまだあると感じています。一緒に頑張ろう。

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