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何故世界中の船がバングラデシュに流れ着くのだろうか・・・(その2)

      ダッカ~Ship dock yardの風景①~

 小型商船からタンカーまで、世界の海を航海した船がバングラデシュにたどり着く背景は、供給サイド、つまり船舶解体・修復サービスを提供するバングラデシュ側と、需要サイド、つまり使い古した船舶の処理を求める、主として先進国の船会社や船主側の二つの側面から説明出来る。

需要サイドの背景については、バングラデシュで進展する都市化に伴う旺盛な建築需要が挙げられる。先月の記事「この街はどこに向かって伸びていくのだろうか~ダッカの不動産業を巡る物語」でまとめたとおり、急増する都市人口を背景に、ダッカの街は北と上空に向かって伸びている。旺盛な建築需要に応えるためには年間500万トン(2008年現在)と推定される鉄筋や鋼板が必要となるが、この約半分が、廃船をばらした結果手に入る部材やくず鉄から賄われていることは前回の記事でも述べた。船舶解体・修復を引き受けることで雇用と外貨が手に入るばかりか、喉から手が出るほど欲しい鉄材が“無料で”手に入るわけであるから、バングラデシュにとっては一石三鳥という訳だ。

    ダッカ~Ship dock yardの風景⑥~
  ~Ship dock yardの近隣に並ぶ町工場。廃材を再利用するべく旋盤工がせわしなく働いている~
 
    ダッカ~Ship dock yardの風景⑦~
  ~廃船となった船から調達したと思われる日本製のコンパス~
    
 一方で需要サイドの事情はどうだろうか。まず頭に浮かぶのは、縫製業同様、中国の3分の1程度と言われる人件費の安さだろう。ダッカのShip Dock Yardで働く人々に月の稼ぎを尋ねたところ、作業の内容や仕事の多さにもよるが、概ね1万5千タカから2万タカ(1万5千円から2万円程度)という回答が多かった。船舶解体・修復業といえば、いわゆる3K(クサイ・キタナイ・キケン)職種と言われ、例えば船底への落下事故や船舶解体に伴い発生するPCBやアスベストよる健康被害にも直接晒される。

    ダッカ~Ship dock yardの風景⑤~
      ~中古船の中にもぐりこんで修復作業に従事する労働者たち~

 このような職業に一月2万円弱でコツコツと取り組んでくれるバングラデシュの人々に、世界の船会社、ひいては、その物流サービスを活用している各国の消費者は依存していることになる。「世界の船の墓場」が終戦直後の日本から、韓国、中国、トルコ、インド、そしてバングラデシュへと変遷してきているのも、「3K作業」を安い人件費で引き受けてくれる場所を求める需要サイドのニーズと合致していると言えるかもしれない。

     ダッカ~Ship dock yardの風景②~
     ~頭に鉄くずをつけながら中古船から錆を取り除く作業に淡々と取り組む若いバングラデシュ労働者。彼の先月の賃金は1万2千タカだった~

中古船が犇く現場と隣り合わせの町工場でふと、粉塵まみれになりながら船のプロペラ工場で作業をする男の子と出会った。今年9歳というこの男の子は「1週間この工場で作業をすると100タカもらえる」とつぶやいていた。両親はどこに?と尋ねると、船の修復現場のほうを指差す。「学校には行かないの?」との質問が口から出掛ったが、僕の心がストップをかけた…
  
    ダッカ~Ship dock yardの風景⑧~

 また、船舶解体・修復業といえば、それに従事する労働者への健康被害だけでなく、作業に伴い不可避的に発生するカドミウムや亜鉛、水銀等による水質汚濁や土壌汚染等の環境への悪影響と隣り合わせだが、これらに対する規制が世界各国と比較して相対的に弱いのがバングラデシュなのだ。正確に言えば、それらを規制する法制度はあるものの、規制を実施する体制が弱いため、実効力を伴っていないのが現状だ。規制が実効力を伴わないために、船舶解体・修復を請け負う業者も周囲の環境や労働者の健康・安全を守るために必要な投資をするインセンティブを持たない。結果、バングラデシュの船舶解体・修復業は安い人件費と相俟って、環境面での規制の弱さによって、顧客を惹きつける「価格競争力」を持つことになるのだ。「牛革と引き換えにどれ程を失うのだろうか? ~ハザリバーグという街の物語~」で指摘したダッカの牛革加工クラスターで見られるのと同様の問題がここでも発生している。
   
 こうした問題の脅威をさらに高めているのが気候変動の影響だ。即ちチッタゴンの船舶解体現場では、気候変動の影響によって、その頻度や規模が大きくなっている高潮やサイクロンの襲来、及び海岸線の浸食により、長い海岸線に大量に積み上げられた有害廃棄物が周囲の海に流れ出る危険が高まっている。山積みされた水銀やカドミウムがサイクロン等の襲来によってベンガル湾に大量に流出するようなことがあれば、その被害はバングラデシュに留まらない。

 世界最大の船舶修復・解体業の担い手となるのと引き換えに、バングラデシュがその国土と人々に掛けている負荷は途方もない。この国は、Animal Spiritに満ちた実業家と勤勉な人々の努力により過去10年、堅調な経済成長を遂げてきている。しかし、電力や道路といったハード・インフラの未整備に加え、環境や人々の安全といった目に見えない公共財を創り・維持する政府の規制の枠組みが機能しないままでは、人々の勤労はQuality of Lifeの低下、という形で報われることになってしまう。一部の超裕福層と公金で私服を肥やす輩を除いては…
 
 青空の下で間断なく響き渡る金属がぶつかり合う音を聞きながら、この国が今後持続的に発展していくには、ハード・ソフトのインフラを実施するための政府の能力強化と、規制の実効力向上のための官民協働の枠組みが必要だ、こんな認識を改めて深めた穏やかな土曜日の昼だった。

   ダッカ~Ship dock yardの風景③~
      ~船舶の枠組みに切り取られたダッカの冬の青空~
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バングラデシュの経済・産業が織り成す物語 | コメント:(1) | トラックバック:(0) | 2012/02/22 03:30
コメント:
市場に任せるか管理するか
お元気ですか?廃船の話、楽しく読ませて頂きました。

リサイクル業界が面白いのは、ただひたすら価格コンシャスであるがゆえに、市場機能が徹底的に機能して、「需要」を満たしていくことです。バングラが船を「結果的に緩い規制で集めている」のは、仰る通り雇用・外貨・原料の3つを得られるからですね。環境規制等で安全を取りに行った瞬間に、3つセットで別の地域に移動していくことも明白です。機能している(数少ない)産業の全体コストを押し上げ、国際競争力を削ぐ決断をできる「主体」はよほどの胆力があります。もちろん、その「主体」にとって医療費や政治コスト等、別のコストの方が高くなってしまえば、自動的に決断をするでしょうが。

世界全体でもしリサイクルの安全基準が共通化した場合どうなるでしょうか。「基準」ではありませんが、「心理」が共通化して行き場がなくなっているのが核のゴミや原発そのものです。「体制」は経済インセンティブによって処理先を探します。設置先の安全基準は、近年問題が発生した時の現象を見る限り、「理由はさておき結果的に守られていません」。つまり、構造はバングラと何も変わりませんよね。

実際の処理が着々と進む分だけ、市場に完全に任せている船の方がよほど先進的とも言えるのかもしれないのです。

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