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この街はどこに向かって伸びていくのだろうか?~ダッカの不動産業を巡る物語~

 日々変化する街、ダッカ。農村からの人口流入と外国人の増加により、ダッカの人口は1990年の653万人から2010年には1,516万人へと、この20年で約3倍に増加。2020年には2,200万から2,500万人まで膨張し、世界最大の人口を擁する都市となることが見込まれている(出典:World Bank)。
       ダッカの人口の推移

 ダッカは北へ、そして上空へと伸びていく。即ち、街の南はブリコンガ川でふさがれているため、新興住宅地や工業地帯等は北へ北へと伸びる。そして、都心部の利用可能な土地は限られているため、続々と建設される高層ビルが上へ上へと伸びる。

       ダッカに続々と建設される近代的な高層ビル
         ~ ダッカに続々と建設される近代的な高層ビル ~
 
 今日も竹で編んだ不安定な足場の上で、土方の男たちが、サンダルをつっかけながら、ジーンズ・Tシャツというラフな姿で、そして素手で、建築資材と格闘している。建築途上の建物のてっぺんから細長い鉄骨の束が空に向かって背伸びをしているのが見える。そして、上層階が工事中にも関わらず、内装が完了した下の階から、新しいテナントが入居してくる。我が家のすぐ上が工事中でもなんのその。ベンガル人はとても経済合理的なようだ。

       建築途上の高層マンション
   ~世銀オフィスの目の前で建築中の高層マンション。上層階は未だ工事中だが、工事が完了した階のベランダには洗濯物が干されている~

 我がマンションがある外国人居住区バリダラ地区も、つい7-8年前は空き地が多く、一軒家の3階に上れば、はるかダッカ郊外まで見渡せたそうだ。今では、7階建て、8階建ての高級高層アパートが犇いており3階からでは二軒先も見通せない。もちろん不動産や土地の価格も上へ上へと伸びるダッカの成長と併せてうなぎのぼりで、同じく7-8年前は一月せいぜい8万タカ(万円)も出せば十分に借りることの出来たバリダラ地区の家族向けマンションの家賃は、現在は安くても15万タカと、2倍以上に跳ね上がっている。バングラデシュの不動産業は、まさに活況を呈する新興国バングラデシュの今を象徴するかのよう。需要が飽和しきっている日本から見ればうらやましい限りだ・・・

      街のそこかしこで見かける「To-Let」の看板
   ~ 街のそこかしこで見かける「To-Let(賃貸用マンション)」の看板 ~

 しかし、1月2日付けのFinancial Express紙は、「Sluggish Growth in real estate sector(低迷する不動産業界)」という予想に反する見出しで、バングラデシュの不動産業界の不振を紙面の半分以上を割いて伝えている。驚いたことに、2011年のダッカの不動産業の業績は、売り上げベースで対前年3割減、成約件数ベースで半減という惨憺たる状況であり、2012年も同様かそれ以上に厳しい年になると予想されている。昨年末に業界(Real Estate and Housing Association of Bangladesh)が実施した一大マンション・フェアでは、マンション価格の15%ディスカウントに加え、「新規テナントには、冷蔵庫をプレゼント!」「駐車区画は無料で分譲!」といった、出血大サービスで臨んだものの、殆ど売れなかったとのこと。無鉄砲で伸び盛りの思春期真っ盛りといえるダッカで、何故このようなことが起っているのだろうか。

 原因はシンプルに、マンションの価格が高すぎること。最近購買力をつけてきた中産階級はもちろん、富裕層でも二の足を踏むという。価格高騰の背景には、セメントや鉄骨等の資材価格の上昇、タカ安による輸入資材の上昇、高い税金(マンションを購入すると資産税2%、印紙税3%、登録税2.5%、ダッカ市民税2%と合計9.5%の税金が発生)、そして最近、銀行からの借入れ金利が上昇していることなどが挙げられているが、決定的な要因は電力不足だ。

 驚くべきことに、2010年8月から一年半以上に亘り、バングラデシュ政府は新築のマンションや高層ビルへの電気・ガスの供給を禁止するという措置を実施している。当初は「当座の緊急措置」ということで始まったが、延長に延長を重ね、解消のめどは経っていない。如何に外装が立派な高層マンションでも、電気もガスも来なければ、生活することもビジネスの拠点とすることもできない。では、どうするか。ガスについては、テナントが自らガスボンベを購入してキッチン脇に据付け当座をしのぐ。電気については、自家発電設備(ジェネレーター)の設置によって、いわばビル自体を発電所にして凌ぐことが求められる。無論、関連の設備投資や燃料代等のコストは、ビルの所有者とテナントが負担することになる。巨大なコストだ。

 バングラデシュ政府は、新築の高層ビル・マンションの屋上に太陽光パネルの設置を義務付ける法律も併せて実施してる。「持続可能な発展」を旗印にした環境に優しい政策といいたいのだろうが、要は「発電所で沸かせる電気が足りないから民間で何とかせよ」というだけの話。当然、パネル設置を促す補助金などは支給されない。Financial Express紙のコラムも、太陽光パネル設置義務付けの即時撤回の主張を展開していた。

 これでは、バングラデシュの堅調な経済成長の下で購買力をつけ、ニーズを抱える人々が不動産の購入に二の足、三の足を踏むのも全く不思議ではない。不動産業界の売上げが対前年で三割減という、新興国らしからぬ寒々とした業績の裏には、民間部門の旺盛な投資や消費の伸びに基礎インフラの整備が全く追いつかないという、あらゆるセクターに影を落とす問題が横たわっているのだ。

 実際、バングラデシュのピーク時の電力需要が全国で約6,500メガワットに対し、実質の総供給力は約4,000メガワット程度に止まっている。2,000メガワット以上の電力不足を前に、計画停電は日常茶飯事。我が家も夏場は一日に4-5回、それぞれ1時間程度停電している。しかし、ダッカの状況はバングラデシュ全体の水準と比較すれば遥かに恵まれているのだ。というのも、限られた電力はダッカに優先的に配分され、総共有量の約半分がダッカで消費されるからだ。地方の電力不足は遥かに深刻であり、青年海外協力隊員としてバングラデシュの田舎で活躍する友人たちの話では、夏場は一日に6回程度、それぞれ約2時間停電するという。これでは、かろうじて電線につながっていても、電気が来ない時間帯のほうが長いということになる。そして、バングラデシュには、こうした実に頼りない電力供給にすらアクセスできず、電気無しの生活を送っている人々が約8,000万人(全人口の55%)も存在するのだ

 「新築マンションへの電力供給禁止」という正気の沙汰とは思えないバングラデシュ政府のお達しも、この国のっぴきならない電力不足を考えれば、その必要性を認めざるを得ない。政府は世界銀行のローンや円借款を活用して発電所の新規建設や太陽光パネルの普及に取り組んではいるものの、日に日に増大する需要に追いつくのは絶望的だ。発電に必要な天然ガスは今は自前で調達できるものの、枯渇は時間の問題といわれる。そして、化石燃料の輸入はこの国の財政そして国際収支を圧迫する。大規模な風力や太陽光発電も、世界一の人口過密国で、まとまった土地を見つけるのは至極困難だろう。

 八方塞がりに見えるこうした状況の中、2011年2月に発表され、同年11月2日に正式な調印がされたのが、2基の原子力発電所建設計画だ。建築予定地は、僕が昨年訪問したラッシャヒのそば、ガンジス川(ポッタ川)沿いの街、ロップール(Rooppur)。2012年に着工して5年で完成するとされており、その発電能力はそれぞれ約1,000MW。これが完成すればバングラデシュの電力不足は、相当程度改善されるだろう…

 ちなみにこの原発プロジェクト、その計画、建築、運営、維持補修、核燃料廃棄物の処理まで、ロシアの全面的な関与の下で実施される。要は丸投げということですね。バングラデシュは日本の4分の1程度の小さな国。そこに1億5,000万人の人々が暮らしている。重大な事故が起これば、国民や国土が計り知れないダメージを長期に亘って蒙る原発という選択肢だが、そこにバングラデシュ政府や人々のオーナーシップは見られない。しかし、そこまでしなければ(あるいは、そこまでしても)何とかならない、電力不足という現実がある。

 人口と所得の増加を背景に、上へ上へと伸びようとするメガ・シティ、ダッカ。そして、その成長に重くのしかかる電力不足、インフラ未整備という現実。この街はこれからどこに向かって伸びていくのか。答えは未だ見えない。
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バングラデシュの経済・産業が織り成す物語 | コメント:(3) | トラックバック:(0) | 2012/01/09 02:35
コメント:
はじめまして
今、バングラデシュの不動産投資に興味があり、池田さんのブログにたどり着きました。

良い話ばかりではないのですね。参考になりました。

できれば原発は日本の二の舞にはなってもらいたくないので、太陽光にシフトしてほしいのですが、むずかしそうですね。
コメントありがとうございます
荻窪ケンさんへ
 ブログをご覧頂き、コメントを頂き有難うございました。こちらの記事は一年以上前の情報ですが、状況は悪化しています。また、原発の話は前に進んでいないようです。最近は政情不安で経済活動が落ち込んでおり、電力需要は以前よりも逼迫していませんが、これはもちろん、いいこととは言えません。引き続きこちらの状況、発信してまいりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
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