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子供たちが戻ってきた小さな教室は、どのように創られたのだろうか?(その2)

 貧困ゆえに初等教育からDrop-outせざるを得なかった子供たちにターゲットを絞り、
① 年間800タカ~970タカ(一タカ=1円)の「教育手当て」を出席率などを条件に支給することで、子供を学校に通わせる上での、親にとっての機会費用を引き下げ、
② 母親やコミュニティの代表者等で構成されるCenter for Management Committee(CMC)が地域の実情に合わせた柔軟な学校運営の主体となる、
といった革新的な手法を組み合わせた、バングラデシュ政府-草の根NGO-コミュニティ-世界銀行の協働によるReaching out of School Children(ROSC)プロジェクト。

   Ananda Schoolの生徒たちと先生
     (Mymensingh県Trishal郡のAnanda Schoolに通う25人の生徒と先生)


 ROSCプロジェクトの仕込みの段階からプロジェクト開始後6年を経た現在まで、Project Managerとして一貫して関わってきたバングラデシュ初等大衆教育省(Ministry of Primary and Mass Education)のAtaul Haque氏は、ROSCプロジェクトは「Learning by Doing」の連続であり、確かな成果を収めてきた一方で、多くの失敗があり、そして未だ発展途上であることを率直に認めつつ、熱のこもった口調で困難な課題について以下のように説明してくれた。

 「このプロジェクトの成功のために、草の根のNGOとの連携は不可欠であったが、同時に、最も困難なハードルの一つだった。なぜ、NGOとの連携が不可欠か?理由は簡単だ。政府に必要な情報が無いからだ。例えば、「初等教育からドロップ・アウトした子供をターゲットに学校を作ろう」と思いついても、実際そうした子供たちがどこにいるのか、政府には知る術が無い。どこにAnanda Schoolを作れば、最も効率よく、ドロップ・アウトした子供たちにアクセスできるのかが、政府には判断できない。従って、これまで、極貧層や障碍児など、正規の教育制度にアクセスできていなかった層に教育を提供してきたローカルのNGOをパートナーとするのは本プロジェクトが成功する上での必須条件だった。」

 「しかし、政府-NPOの協働事例はこれまでバングラデシュにおいて存在しなかったことから、当初、NGO側の警戒感は無視できない程高かった。これまで自分たちが取り組んできた領域に、政府が世銀の資金をもって“荒らしに”やってくるんじゃないかって、そんな雰囲気だった。また、Upazila(郡)で働く現場の政府職員にとっても、「何故政府のリソースをNGOに与えて彼らのCapacity強化を我々がやらなければならないんだ」という反発が強かった。その両者が、このプロジェクトの主役は、政府でも、NGOでもなく、CMCを構成するコミュニティであるという理解を共有するには、多くの対話が必要だった

 「Education Service Provider(ESP)と呼ばれる我々のパートナーNGOを選ぶに当たり、「当該コミュニティで5年以上の活動歴があり、教育サービスの提供分野で3年以上の実績がある」との基準を設定したこともあり、プロジェクトが回り始めると、草の根のNGOは確かにパワフルだった。彼らは、drop-outした子供たちがある程度の人数固まっている村のコミュニティをしっかり見極めた。そして、ROSCプロジェクトの目的や内容について、コミュニティのメンバーと共有するための集会を開き、巧みに村の人々を巻き込んでいく。さらに、読み書きも出来ず、まして学校運営のノウハウなど持たない、しかし、子供の将来に強い関心を持つ母親たちが、学校運営の主体であるCMCのメンバーとしての役割を果たせるよう、しっかりガイドしていっていった。」

 「しかし、次第にこうした草の根NGO自体が問題の発生源となっていったのだ。一般に、バングラデシュで長年草の根で活動してきたNGOはコミュニティの政治家や地域の有力者とのつながりが強い。ROSCプロジェクトに関わる草の根NGOが、その政治的な影響力を次第に悪用するようになったのだ。例えば、本来母親たちが主体となるべきCMCの運営を、草の根NGOが牛耳る(dominate)ようになってきたのだ「ガイドする」ことと「牛耳る」ことを隔てる壁はとても薄いが、例えば、母親たちが疑問に思ったことを口に出せなくなる雰囲気がCMCで発生しているとすれば、それはそのCMCが薄い壁の悪しき側の方に行ってしまった一つの証拠だ。これにより、Ananda Schoolの先生が実力ベースではなく、NGOの背後にいる有力政治家の知り合いや親戚が選ばれるようになる。あるいは、「Ananada School向けの補助金が子供の数に応じて支払われる」、とのルールを悪用して、実際は公立学校に通っている子供を、Ananda Schoolに通っていると見せかけて虚偽申請をし、余分にとった補助金の一部を、NGOがAnanda Schoolの運営以外の、自らの活動資金に充当している、という事態も発生した。

 「近隣の公立小学校の先生や、郡議会の女性議員、あるいは我々の地域事務所であるUpazila(郡)事務所の教育担当官をCMCのメンバーにしたのは、こうした不透明な政治力を排除するためでもあったのだが、いかんせん、彼らは本業が忙しく、月1回のCMCの出席率も低調だった。残るは文字も読めない5人の母親と若い女性の先生、そして、経験・実績・政治力を持った草の根NGOの職員。振り返ってみれば、パワーバランスが不健全な方向に崩れてしまい易い仕組みだったといえるかも知れない。」

 プロジェクト・マネージャーが語るこの困難は、「地域の声の反映」や「貧困層のEmpowrement」といったお決まりのフレーズで美化され易いcommunity-Based Developmentが陥り易い罠を如実に語っている。つまり、どこの世界でも政府は汚職や非効率の温床として批判の的となっているが、このことが直ちに、草の根NGOが政府よりもクリーンで、賢く、そして受益者のために行動しているということを意味するものではないということだ。永田町やワシントンD.C、あるいはダッカの議会が権謀術数や利権と無縁でないのと同じように、草の根にも矢張り政治や利権はある。「草の根のプロジェクトだからコミュニティの監視の目が行き届く」という公式は、そこに、ResourceやAuthorityが平衡する複数の主体のcheck & BalanceとAccountabilityのメカニズムが組み込まれて初めて成り立つものであることを、ROSCプロジェクトの初期の困難は教えてくれている。

 こうした問題を解決するために、ROSCプロジェクトは開始5年を経た2009年より二つの改革を実施した。第一は、Ananda Schoolの教員選抜に、草の根NGOの政治的影響が及ばないよう、郡の教育委員会の管理の下、より透明性の高い試験と面接を導入したこと。第二は、既存のCMCのメンバーから草の根NGOを外すとともに、今後新設するAnanda SchoolのCMCについては、立上げ当初は草の根NGOをメンバーとして迎え、その力を借りるが、その任期を2年と設定したことだ。

 これにより、草の根NGOが持つ政治力やノウハウが悪い形でAnanda Schoolの運営に影響を及ぼし始める前に、その関与を断ち切ると同時に、CNCのメンバーとなった母親や先生に対して、2年以内にNGOの職員の手ほどきなしでしっかりと学校を運営できるように、そのノウハウを学んでいくインセンティブが盛り込まれることとなった。

 この改革の意義を、訪問したAnanda Schoolで2007年から子供たちを教えている20代前半の女性教師は、自らの経験から次のように語ってくれた。

 「以前は、何でもNGOの職員がやってくれました。彼らはやりすぎていた、とも言えるし、私が彼らに頼りすぎていた、とも言えるかもしれない。今では、CNCの事務局的な機能は私が殆ど担っています。生徒の出席管理、ミーティングの議題設定、議事録作成、生徒たちの学力や学校の状況についての、私の先生(教員のトレーナー)への報告・連絡等、やることは沢山あります。でも、自分が教えている学校と子供たちのために必要なことを、自分で考えて実行できる範囲がすごく広がりました。」
 
    Ananda Schoolの先生たちとの対話
  (Mymensingh県、Trishal郡のAnanda Schoolで教壇に立つ教員たちからのヒアリング。全員が若い女性だ)
 
 現在、バングラデシュの60の郡(Upazila)で計2万2千のAnanda Schoolが設置されていることは前回の記事で紹介したが、教壇に立つ教員の殆どは子供たちと同じように貧しい村出身の20代の女性達だ。25人から35人の子供たちの授業を受け持つとともに、学校運営の意思決定主体であるCNCの事務局機能も果たすことで、こうした女性たちはAnanda Schoolで受け持っている子供たちの卒業を見届けた後も、新しいAnanda Schoolや草の根NGOでの職に、少なくとも以前よりは就きやすくなるだろう。ROSCプロジェクトが持つ、女性の雇用創出とEmpowermentの側面も見逃せない。

 そうは言っても、彼女らの待遇改善は切実な課題のひとつ。「今、一番気にしていることは?」との僕の質問に対して、集まった20人近い女性教員たちからは、「給料が一月1,200タカから1,500タカにあがると聞いたが(一タカ=1円)、いつから実施されるのか」、「今の子供たちが卒業した後、私たちの仕事はどうなるのか?((Anahda Schoolは一学年しかないので、子供たちの卒業とともに基本的には閉鎖となる)」という疑問が口をそろえて飛び出した。
 


 このように、必要な支援を最貧層に直接届けるには、様々な主体を、その比較優位を考えながら巻き込んでいくとともに、プロジェクトを実施していく過程で実情に合わせたFine Tuningが欠かせない。世界銀行で本プロジェクトを担当しているTask Teamはバングラデシュ政府側のカウンターパートである初等大衆教育省の担当官とともに、4半期に一度、現場に足を運んで現状を確認し、問題点と解決策、そして解決策実施のスケジュールを政府やNGO等のステークホルダーと検討・協議したうえでaide memoire(覚書)という形でまとめ、政府側と共有した上で、その後に続くモニタリング実施の基礎としている。問題解決の手法を考える上で大きな武器となるのが、世銀のスタッフが、世界中で実施している、類似のプロジェクトの成功例・失敗例の集積だ。もちろん、ROSCプロジェクトにおける様々な試行錯誤も、この後に続く開発プロジェクトをより効果的なものとしていくための、コヤシとなるのだ(続く)
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バングラデシュと世銀の協働が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2011/10/10 03:36
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