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子供たちが戻ってきた小さな教室は、どのように創られたのだろうか?(その1)

            美しい田園風景

 バングラデシュの農村は美しい。突き抜けるような青空に太陽がくっきりと見える。明るい陽光の下には、青々とした水田が広がる。ダッカを支配するクラクションの代わりに耳に届くのは、のんびりとした牛の鳴き声や裸で走り回る子供たちの歓声。そして池で魚を獲る男たちの威勢のいい掛け声。ダッカでは泥まみれのヤギや、棒でぶたれてばかりの犬たちもここでは幸せそうだ。

          魚を採る男たち

 そんな穏やかな田園風景に不釣合いな巨大な四輪駆動が左右にその巨体を揺らしながら現れる。車体の横にプリントされた地球儀のロゴとWorld Bankの文字には水溜りの泥が容赦なく降りかかる。昼寝をしていた牛たちや裸で跳ね回っていた子供たちもビックリして突然現れた見慣れない文明の利器を見つめる。

          村の子供たち

 ここは、ダッカから北へ約100キロ、Mymenshingh(マイメイシン)という地区(District)の南に位置するTrishalという郡(Upazila)にある村だ。維持補修がまともにされていないことで有名な、ダッカ-マイメイシン間の幹線道路を3時間程突き進み、さらに全く舗装されていないぬかるんだ道を揺られること約1時間でようやくたどり着いたこの村には、貧困を理由に、小学校からドロップ・アウトしてしまった子供たちが再び教育機会を享受できる場所、Ananda School(Anandaはベンガル語で「喜び」の意味)がある。Ananda Schoolはバングラデシュの初等大衆教育省(Ministry of Primary and Mass Education)と教育関連のNGO、そして子供に再び教育の機会を与えたい、と願う村の親たちとの協働、そして世銀のノウハウと資金が創り上げた場所だ。この日、僕は、現在自分が担当しているプロジェクトの一環として、そんな場所を訪問し、人々と対話する機会に恵まれたのだった。



 バングラデシュ政府と人々の努力、そしてDevelopment Partners(各国の援助機関や世銀・国連のような国際機関)からの支援により、バングラデシュにおける初等教育(1年生~5年生)の就学率は1991年の64%から2010年現在90%を超えるまでに向上した。しかし、うち約半分の子供たちが小学校を卒業することなく学校をdrop-outしてしまっているという受け入れ難い現実もそこにある。学業よりも農漁業や村の小さな小売商等で生計を立てる両親の仕事の手伝いを優先せざるを得ないこと、即ち貧困がその主な理由だ。確かに、一クラス平均66人もの子供たちがひしめく教室、しばしば姿を現さない先生、そして、教科書や電気、図書館など必要な設備もまともに整っていないような公立小学校は、家族が生き抜くために額に汗して働いている親の目には、「家で仕事を手伝えばそれなりの戦力になる子供を敢えて送り出す意義が見出せない場所」と映るのも、無理無からぬことかもしれない。幼い弟妹の面倒を見る、家事を手伝う、薪を広い、水を汲みに行く、田んぼや畑をともに耕す、収穫物を市場まで運ぶ…10歳前後の子供たちが出来る仕事は確かに幅広い。そして、実際、この国に来てから僅か2ヶ月の僕ですら、農村でもダッカでも、途方も無い数の「働く子供たち」を日々目にしてきた。

 しかし、子供たちが教育の機会から遠ざかれば遠ざかるほど、貧困の連鎖は続く。基礎教育から疎外された子供の、人生において享受できる選択肢の数は限られ、大きく花開いたかもしれない可能性は蕾のまま終わる。自らの生業の生産性を上げる術を会得することも覚束ず、人生を歩む上で直面する様々なリスクを、自分の力でコントロールできる範囲を広げることもできない。こうした人々の数が減らなければ、その国は様々な外的・内的なリスクに脆弱であり、そして経済や社会の力強い発展も期待できないだろう。

 バングラデシュ政府も、2015年までに初等教育からのdrop-out rateをゼロにするという目標を掲げてはいる。しかし、たとえ、初等教育にかかるあらゆる費用を可能な限り低め、教員の数と質を高め、学校の設備を充実させたとしても、厳しい貧困にあえぐ農村の人々にとって、子供たちを学校に送る上で発生する「機会費用」の問題は、容易には解決できない

 どうしたら、貧困ゆえに初等教育からドロップ・アウトをしてしまった子供たちを再び学びの場に呼び戻すことが出来るだろうか?そんな場所はどうやったら創ることが出来るだろうか、そして、子供たちを自らの人生をリードし、国創りの主体となる人財へと育てるには、どうしたらよいだろうか、こんな疑問と、試行錯誤を繰り返しながら向き合い、確かな成果と大いなる教訓を残してきたのが、バングラデシュ政府-草の根のNPO-コミュニティの人々-世界銀行という4者が協働する「Reaching out-of-school Chirdren Project(通称ROSC Project)だ」。

 2005年にスタートしたROSC Projectは、極度の貧困ゆえに小学校をドロップ・アウトしてしまった、あるいはそもそも小学校に通うことすら出来なかった子供たちが再び教育の機会を手に出来る場所、つまりAnanda Schoolを村々に創り、そこに通う子供たちが、初等教育修了試験をパスし、Formal Secondary Education(公式な中等教育)へと歩みを進める力を身つけていくことを目的としている。2005年のプロジェクト開始から6年を経た今、特にDrop-out Rateが高い60の郡(Upazila)に2万2千のAnanda Schoolが創られ、約74万1千人の子供たちが初等教育のSecond Chanceを得ている。その内約90%の子供が初等教育修了試験をパスし、約50%の子供が、晴れて公立の中学校へと進学している。さらにAnanda Schoolの生徒のうち121人が、修了試験の成績が極めて優秀であったことから、国からの奨学金を得て中学に進学しているのだ

         Ananda Schoolの入り口
    (Trishal郡の村にあるAnanda Schoolの入り口。トタンと木だけで作られた言わば“掘っ立て小屋”だ)

  こうした数字の持つ意味は、その子供たちが置かれている境遇に想いを馳せなければ、正しく理解することは出来ない。子供たちの家庭があえぐ貧困については既に触れたが、自宅から学校に向かうために彼らが日々歩まなければならない道なき道(実際、雨季には多くの道が水没し危険を冒して小さな木船で通学することになる)や「女子に教育は必要ない」という文化的・宗教的な既成概念等、特に農村において、子供たちを教育機会から遠ざけている壁は、想像以上に高いからだ。そして、彼らの受ける初等教育修了試験は、例えば、ダッカの大金持ちの子供たちが冷房の完備された立派な小学校で受けるものと、変わらないのだから。

 こんな成果をもたらしているROSC Projectが創るAnanda Schoolは例えば以下の点で、公式な小学校とは異なる。
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 ○ 一クラスは最低25人から最大で35人。一つのAnanda Schoolでは一学年だけで構成される(教室は一つ、先生も一人)
 ○ 学校の運営(例えば学校の場所、授業時間帯、必要な設備の購入、カリキュラムの決定や子供たちの成績の評価等)は、Ananda Schoolに通う子供の母親(5人)、Ananda Schoolの先生(1人)、Upazila(郡)の教育担当官(初等大衆教育省のお役人;1人)、郡議会の女性議員(1人)、近隣の公立学校の先生(1人)、Ananda Schoolの先生への研修を実施する大手NGOの職員(1人)、Ananda Schoolに必要な教育設備を届ける草の根NGOの職員(1人)の計11人で構成されるCenter Management Committee(CMC)において決定される。なお、CMCの議長は5人の母親のうち一人から選ばれる。
 ○ Ananda Schoolに通う子供たちには、1年生~3年生までは毎年800タカ、4年生~5年生までは毎年970タカ(一タカ=約1円)の教育手当て(Education Allowance)が支給される。教育手当ては半年に一回支給されるが、支給には、少なくとも75%以上の出席率と、担当の先生による学力評価でSatisfactory(十分)を得ることが条件とされる。
 ○ Ananda Schoolには子供の数に応じて年間約2万5千~3万タカの補助金が支払われる。補助金は先生の給料(月給1,200タカ)、学校の設備や教科書等の購入に充てられる。補助金の使い道はCMCによって決定される。
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 注目すべきは教育手当てにより貧困層の子供が学校に通うための機会費用を減らしていること(親が子供を学校に通わせるインセンティブを与えていること)、そして、学校の運営の決定主体として、母親やコミュニティの代表(郡議会の議員)等が関わることにより、学校が通う者のニーズに即して運営されるように仕込まれている点だろう。これにより、例えばその村が農作物の収穫で特に忙しい時期のみ、学校開始時刻を遅らせる等、家庭のニーズに合わせたフレキシブルな運営が可能になる他、学校がまともに運営されているか(例えば先生がしっかり来ているか、支給された補助金が誰かのポケットに入っていないか)について、日常的にコミュニティの目が行き届く仕組みとなっている。

 このように紹介していくと、ROSC Projectが順風満帆の成功事例のように見えるが、その実態は、正にLearnig by Doing、試行錯誤の連続であった。次回は、実際にこのプロジェクトの仕込みと運営に当たっているあらゆるステーク・ホルダー…Ministry of Primary and Mass Educationのプロジェクト担当課長から、Ananda Schoolの先生、CMCのメンバーとなっている母親、現場でプロジェクトに関わっているUpozila Education Officer、そしてAnanda Schoolで学ぶ子供たちまで…との対話を通じて見えてきた、このプロジェクトの真の意義と乗り越えてきた様々な課題、そして将来に向けた展望について、紹介していきたい(続く)。
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バングラデシュと世銀の協働が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2011/10/07 20:51
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