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何故、チュニジアの野菜売りが抗議の焼身自殺をすると、バングラデシュの子供たちが学校に通えなくなるのか?②

 故郷から遠く離れた中東での出稼ぎ労働により、農村に残してきた家族の生活を支えるとともに、母国の健全な対外マクロ経済ポジションの基盤を創ってきたバングラデシュの父や兄たち。「アラブの春」の騒乱の中で行き場を失い明日をも知れぬ身となった彼らに故郷に戻る術を与え当座の困難を乗り切るための、バングラデシュ政府-国際移民機関(IOM:International Organization of Migration)、そして世界銀行の協働プロジェクトが始動したのは、リビアでの内戦開始後約4ヶ月後の今年6月だ。

 リビアの国境付近のキャンプで釘付けとなってしまっていた約3万7,000人バングラデシュの出稼ぎ労働者を対象に、バングラデシュに帰国するための旅費と帰国後の当座の生活資金(一人5万タカ(約5万円))を支給するために合計で4,000万ドル(約32億円)が用意され、ラジオや新聞、そして出稼ぎ労働者の携帯電話にテキスト・メッセージ形式で支援策がアナウンスされた。

 旅費や生活資金の受け渡し、及びそれに必要な各種証明手続きのための施設がダッカ市内に開設されたのが今年の6月。不正受給を防ぐために、申請者はリビアで出稼ぎ労働をしていたことを示す何らかの証明書の持参が求められる。手続きが終われば3日後には対象者の銀行講座に約5万円が振り込まれる。5万タカという金額は、5人家族が少なくとも半年間はバングラデシュの基準で見れば不自由なく暮らしていくことの出来る金額だろう。

              申請所の様子
 (ダッカ市内のミルプール地区に開設された申請所。開設以来毎日500人近い人々が訪れている(写真出典:World Bank)
 


 当地の新聞Financial Expressは、9月15日時点で、このプログラムの対象となる約37,000人の出稼ぎ労働者のうち約20,000人が旅費と生活資金の受け取りを終え、10月までにはほぼ全ての対象者が受け取りを終える見込みであると報じている。「危機」が発生するとそれに名を借りたバラマキ的な政策が実施されるのは先進国・途上国を問わず世の常だが、今回のケースでは、世銀が提供した資金が、確実に、危機の影響を受けた特定の層に、ある程度迅速に届いている格好だ。

 もちろん、利用者からの改善や制度拡大を求める声もメディアに掲載されている。例えば、政府はダッカにしか申請手続き施設を設けなかったが、ダッカに友人や親類がいない出稼ぎ労働者にとっては、これは当然不満の種だ。より一層重要な問題は、この支援策が当座の困難を乗り切ることを目的としたものであるため、対象者のその後の職探しにまでは手が回らない点だ。

 繰り返しになるが、国内に家族を養っていけるだけの仕事があるのならば、彼らは敢えてリスクをとって遠く中東・北アフリカにまで出稼ぎに行きはしない。現地の作業現場で怪我をする、犯罪に巻き込まれる、といったリスクだけではない。例えば、VISAの発行や現地の住居探し、送金手段の確立等をサポートする国内NGOや企業の中には悪徳業者も見られ、資金を払った挙句まともなサポートが得られない(例えば発給されたVISAが就労VISAではなく観光VISAであり、現地に行って暫くしてから窮地に陥る例など)といった事例など、トラブルを挙げればキリがない。

 国内でまともな職が見つからないからこそ出稼ぎと言う道を選んだ彼らが当座の生活資金として5万タカを得たところで、その資金が尽きた後はどうなるのだろうか?例えば、IOMが支援対象者に対して実施した事後アンケートによる約8割が海外での出稼ぎ機会を探している、との回答が得られている。

 そう言えば、多くの出稼ぎ労働者は出国に当たり多額の借金をしているのだ。当座の資金を使い果たす前に、借金を返しながら家族を養っていけるだけの職を早急に見つけなければならない。こうした状況を政策的に支援するには、危機対応とは別な、例えば職業斡旋や借金の低利融資への借り換え支援等のより腰をすえた策が求められる。 

 こうしたニーズに対して世銀は、BRAC(Bangladesh Rural Advancement Committee)というNGOと連携して支援を開始している。ちなみにBRACはNGOといってもバングラデシュ国内や他の南アジア諸国、さらにはアフリカでマイクロファイナンス、銀行、大学、情報通信業、縫製業、小売業等を展開する一大コングロマリットであり、最大の法人税の納税主体であり、そして職員数10万人以上を擁する世界最大の規模を誇る巨大な組織だ。

 なお、危機の先にある生活が安定したものとなるよう、帰国した出稼ぎ労働者に職業訓練や就職斡旋を提供し、さらに起業を目指す者には小規模のローンを提供する世銀-BRACの連携プロジェクトを資金面で支えるのが、日本が世界銀行に設置している日本社会開発基金(JSDF:Japan Social Development Fund)だ。 
 
 JSDFは単に金を出すだけ器ではない。世銀職員が、世銀の組織としての弱点を補強しつつ効果的な支援を考えるための、インセンティブを与えるのものだ。世銀の支援はたいてい相手国政府を通じて実施されるため、面的で大規模な変化を齎しうるものの、フレキシブルできめ細かい支援には向かず、また真に支援を必要としている貧困層やマイノリティには届きにくい、という難点もある。こうした弱点を補うために、世銀が、①政府のシステムを通さずに困っている層に直接支援の手が届くようなプロジェクトを、②NGO等と連携しつつ、③世銀スタッフが培った知見を活かした革新的で持続的な効果が見込まれる方法で、支援するときに限り、お金を使うことを許されるのが、JSDFだ。逆に言うと、世銀スタッフに上記①-③を考え実行に移すためのツールを与えているものだともいえる。バングラデシュ最大のNGO、BRACを実施主体として使い、危機影響をまともに受けた農村出身の出稼ぎ労働者をターゲットに、当座の危機対応と併せ技で、且つ、支援の対象となる一人ひとりが自ら問題解決の担い手となれるようempowerする形で支援を実施するこのプロジェクトは、JSDFを活用した一つの好例だ。



 「私たちは皆、一生顔を見ることも無く、その言語も解さず、その名を聞いても分からないような人々の判断や行動に大きく影響を受けており、そうした人々もまた、私たちの影響を大きく受けている」

 「アラブの春」は中東・北アフリカ全域に広がり、マーケットを揺るがし、そしてその影響はバングラデシュにまで及んだ。迅速な支援は必要だが「危機対応」に名を借りて、乾いた砂に水をまくようなバラマキをやっているような余裕は、国際機関にも先進国にも無い。こんな時代だからこそ、「観察される問題はどのようにフェーズ分けができるか」、「如何にして各アクターの比較優位を活かした連携が可能か」、そして「支援の対象者が同時に問題解決の主体となり得るにはどのような解決策が必要か」といった疑問を走りながら考え、実行に移し、そしてfine tuning(微修正)していくことが求められる。

 やれやれ。
 誰にとっても、楽な時代ではない。しかし問題を機会と捉える人たちにとっては、何ともexcitingな時代ではないか。
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バングラデシュと世銀の協働が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2011/09/26 02:41
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