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バングラデシュの混乱と政情不安はどこまで深まるのだろうか?(その3)

 バングラデシュで今年2月以降の激増したホルタル(暴動を伴うデモ)を実施しているのは、年末の選挙で政権与党への返り咲きを狙う野党第一党のBNP(バングラデシュ国民主義党)だけではない。それぞれの正義を掲げる複数のグループが、その生死をかけて展開しているという意味で、「毎度お馴染み」のホルタルとは質的にも量的にも異なる、より深刻な衝突が発生しているのだ。 

2.「正義」をめぐる 分断


 あらゆる戦争の背景には、対峙する双方が掲げる正義がある。

 42年前、バングラデシュはパキスタンからの独立を果たした。9ヶ月にわたる戦闘で約300万人もの同胞を失うという途方もない犠牲を伴いながら手にした独立だった。独立に当たって作られた憲法には、バングラデシュ人としての一体性(Nationalisim)、民主主義(Democracy)、そして政治と宗教の分離(Securalism)といった、独立戦争を戦う上での精神的支柱となった正義が、バングラデシュという国民国家の精神として謡われた。独立戦争を戦い抜いたフリーダム・ファイターは英雄となり、国のあちこちにその像が建てられた。

 一方、独立戦争に際して、ムスリムの連帯重視という別な正義を掲げていたグループが、当時東パキスタンだったバングラデシュの領土内に存在した。「イスラム共和国」としての一体性を重視していた、例えば「ジャマティ・イスラム(Bangladesh Jamaat e Islami:イスラム協会)」といったグループは、バングラデシュのパキスタンからの独立に反対し、「インドの回し者である分離主義者」を駆逐すべくパキスタン軍に加担した。彼らは1971年12月16日までは官軍だったが、パキスタンの敗北により「ラザカー(裏切り者)」の汚名を着る賊軍となった。

 独立戦争から42年を経た今、当時ぶつかり合った二つの正義が再び表面化し、バングラデシュの社会に亀裂を走らせている。「戦犯問題」という名のパンドラの箱が開いたためだ。 
 
若手のブロガー/オンライン・アクティビストの呼びかけに共感した数万人の市民がダッカの目抜き通りであるシャハバグ(Shahbag)広場に集い、「戦犯」への死刑を求めている「シャハバグ・ムーブメント」の経緯と背景、及びシャハバグ・ムーブメントや戦犯裁判に反対するジャマティ・イスラム党やその支持者の実相については、以下の記事を参照下さい。
 
  国民国家は何によって結びつき、何によって引き裂かれるのか?(その1)
  
国民国家は何によって結びつき、何によって引き裂かれるのか?(その2)
  
国民国家は何によって結びつき、何によって引き裂かれるのか?(その3)
  
国民国家は何によって結びつき、何によって引き裂かれるのか?(その4)

  
国民国家は何によって結びつき、何によって引き裂かれるのか?(その5)

   
  「戦犯裁判」という名のパンドラの箱を大きく開けたのは、与党アワミリーグが2008年末の前回総選挙の際に掲げた「マニフェスト(政権公約)」であること、その背後に、「正義」の実現とあわせて、長年のライバルBNP(Bangladesh Nationalist Party)の連立政権パートナーだったジャマティ・イスラム党の弱体化を通じた「票」の確保という政治的動機が見え隠れしていることは、以前の記事で触れた。しかし、戦犯への法の裁きを求める勢力は、政権与党アワミ・リーグがこうした政治的動きを採るずっと以前から、バングラデシュの市民社会の間に存在していたのだ。

 ここで、戦犯全員の処刑とジャマティ・イスラム党の解党を求めて2月5日よりシャハバグ広場を基点に全国各地で展開してるGonojagaran Mancha (ゴノ・ジャガラン・マンチャ:“市民覚醒のためのステージ”)」と名付けられたムーブメントが、どのような勢力によって火が付けられ、牽引されているかについて、僕の観察を書きたい。

 Shahbagh10
 ~ 戦犯への死刑判決を求める一般市民や学生たちで埋め尽くされたダッカのシャハバグ・広場 ~

 結論から言うと、バングラデシュの独立以来、最も巨大且つ、非暴力を貫いているという意味でユニークなムーブメントは、個別に活動をしているブロガーや学生らの個人プレーがもたらした自然発生的なものでも、既存の大政党が政治的意図を持って仕掛けたものでもなく、長い歴史を持つ組織化された複数の市民社会のグループが、満を持して仕掛けたものだ。

 たとえば、シャハバグ・ムーブメントで中心的役割を担っている 市民社会のグループの一つに、「Ekattorer Ghatak Dalal Nirmul Committee(エカトレール・ガタック・ダラル・ニルムール委員会)」がある。長々としたカタカナだけでは一体どのような委員会なのか皆目見当がつかないが、日本語に訳すると 、その名前自体が強烈なメッセージであることが明らかになる。

 すなわち、「71年の殺戮協力者を根絶する会」-71年は独立戦争を、殺戮協力者とはパキスタン軍に協力したラザカー(戦犯)を指すことは言うまでもない。

 戦犯の処刑と、ジャマティ・イスラム党の解散を求めるこの団体の設立は1992年1月までさかのぼる。この年、戦犯の象徴的存在であり、戦後しばらくパキスタンに亡命していたGolam Azam(ゴラム・アザム)が、バングラデシュ・ジャマティ・イスラム党の党首に就任したのだ。上記「エカトレール・ガタック・ダラル・ニルムール委員会」は、戦犯として裁かれるべき人物が政党の党首に堂々と就任し、バングラデシュの政治に返り咲いたことに強い反発を覚えた作家、大学教授、芸術家、ジャーナリスト、学生、そしてかつてのフリーダム・ファイターらが立ち上げた市民団体なのだ。以来彼らは、時々の政府・与党に対して、戦犯裁判の開設を要求し、「政府が戦犯を裁かないのであれば私設の市民裁判所を立ち上げて正義を下す」との主張を20年以上続けてきた。

 ちなみに、この委員会のリーダーはJahanara Imam(ジャハナラ・イマム)という女性だ。ジャーナリストであり作家であり、二人の息子の母親でもあったジャハナラは数々の著作を残したが、中でも、その長男Rumiを独立戦争で失った悲しみとバングラデシュ独立への想いを、その卓越した筆致でつづった日記「Ekatturer Dingul (エカトレール・ディングル:“71年の日々”) 」は、“バングラデシュのアンネの日記”と評され、多くのバングラデシュ人の心を強く揺さぶる名作だという。"Shaheed Janani"(ショヒド・ジャナニ:殉教者の母).と呼ばれ国民から慕われてきたジャハナラは1994年に亡くなったが、今でも戦犯処刑とジャマティ・イスラム党の解党を求める市民運動の精神的支柱であり、シャハバグ広場には彼女の巨大な肖像画が掲げられている。

 Jahanara Imam
 ~シャハバグ広場に掲げられた“殉教者の母” Jahanara Imamの巨大な肖像画の前で、独立戦争におけるフリーダム・ファイターズの合言葉「ジョーイ・バングラ!!(バングラデシュに勝利を!!)」を絶叫する若者~

 このように、「エカトレール・ガタック・ダラム・ニルムール」委員会や、フリーダム・ファイターズのOB会組織といった市民社会のグループは、バングラデシュ独立時の憲法に刻まれた精神、即ち、バングラデシュ人としての一体性(Nationalisim)、民主主義(Democracy)、そして政治と宗教の分離(Securalism)を体現するバングラデシュの実現に強い思い入れを持ち、数十年にわたり戦犯の処刑という「正義」を求め続けてきた。2月5日以降に本格化したシャハバグ・ムーブメントを主導しているのは、こうした筋金入りで強固なつながりを持った勢力なのだ。

 2月中旬には火付け役の一人だったブロガーのAhmed Rajib Haidar(アハマド・ラジブ・ハイダー)が、ジャマティ・イスラム党の学生支持母体であるジャマティ・シビールのメンバー数人により惨殺されたことは以前の記事で触れた。この他にも、シャハバグ・ムーブメントのリーダーであるDr. Imran Sarkar(イムラン・ショルカー)に対しては、その命を狙う様々な脅迫が飛び交っている。

 彼らの活動はまさに命懸けなのだ。にもかかわらず、このムーブメントの勢いは衰えない。ダッカのシャハバグ広場だけでなく全国の主要都市を行脚し、「正義」の実現とジャマティ・イスラムによる暴力に屈しないよう、国民に呼びかけ続けている。こうした経緯を見ればシャハバグ・ムーブメントが一過性の底の薄いものではなく、強力な精神的・思想的支柱を持った命懸けのムーブメントであることがわかる。

 一方で、ジャマティ・イスラムとその学生支持団体、ジャマティ・シビール側は、当然のことながら、あらゆる手段を使って、徹底抗戦をすることになる。自分が心酔する宗教指導者の命、そして自分が所属する団体そのものの命運がかかってるのだから、彼らが実施するホルタルは、暇をもてあました若者を日当で動員しているBNP主導のホルタルとは、当然のことながら迫力がちがう。政治的なデモや衝突により一ヶ月で100名を超える死者が出るのは、バングラデシュの歴史で初めてのことだが、これは激しさを増すジャマティ・イスラム党とシビールの攻撃を前に警察側にも死者や重傷者が出ているために、治安維持部隊が実弾を使って応戦していることによる。

  clash
  ~警官隊・機動隊との激しい衝突を繰り返すジャマティ・イスラム党の学生組織ジャマティ・シビールの活動家~

 また、ホルタルの連発は、戦犯裁判を遅らせる意図もある。被告側の弁護団が「治安上の問題があるので、法廷まで出向くことが出来ない」とごねて法廷に姿を現さなければ、裁判を前に進めることが出来ないからだ。彼らにとっては、「ホルタルをやりすぎると国全体に途方もない経済的ロスをもたらす」とか、「有権者を呆れさせて選挙で負けるかもしれない」といった計算は働かない。なぜなら、ホルタルの実施は自らの命を守る合理的で強力な手段であるからだ。 ちなみに、現在裁判にかけられている戦犯は11人名(うち9人がジャマティ・イスラム党の幹部、2人がBNPの幹部)おり、まだ判決は三人しか出ていない(しかも、うち2人は上告している)。こうした背景を知れば、「ホルタル等の騒擾事件が、今後増えることがあっても減る可能性は殆どない」との予測は極めて確度の高いものと言わざるを得ないだろう。

   ghulam azam
 ~戦犯の一人としてダッカの国際犯罪法廷に出廷しているジャマティ・イスラム党の元党首、Ghulam Azam。本日(4月17日)の段階で審理はすべて終了し、あとは判決を待つのみとなっている。戦犯問題の象徴的な存在である一方、ジャマティ・イスラム党にとっては偉大なリーダーであるこの人物に死刑判決が下れば、大規模且つ深刻な暴動が発生するのは避けられない…(写真出展:Daily Star)~

 そして、より根本的な正義に関する問題は、戦犯裁判の正統性をめぐる議論だ。

 そもそもジャマティ・イスラム党は「ムスリムの連帯維持」という正義を掲げて「バングラデシュのパキスタンからの分離独立に反対する」という政治的立場をとり、その当然の帰結として、パキスタン軍に加勢した。パキスタン軍による非人道的蛮行は許されるものではないが、パキスタンを支持したというだけで、野党の指導者のみを「戦犯」のレッテルを貼って次々と捕らえて裁判にかけ、厳罰を求める”世論’に迎合して客観的な証拠や公平で開かれた審議も不十分なまま死刑判決を下すとは、政治的動機に基づいた人権侵害に他ならないのではないか?さらに、リーダーに対する不当な死刑判決の撤回を求めて立ち上がった若者に対して、実弾を浴びせかけて大勢の命を奪うとは、 現政権与党と、それに扇動されたシャハバグ・ムーブメントのほうこそ、非人道的な極悪非道なのではないか?

 ジャマティ・イスラム党とその学生支持団体であるジャマティ・シビールのこんな主張も、頭から否定するのは難しい。

 こうした主義主張と計算の下で暴動を繰り返すジャマティ・イスラム党に対して、野党第一党のBNPは積極的な支持を表明するとともに、シャハバグ・ムーブメントについては、「与党アワミ・リーグが陰で操る政治的な陰謀」として切って捨てている。これはどのような動機によるものだろうか?前回の記事で紹介したとおり、BNPにとって重要なのは年末に予定されている総選挙で「票」を確保するための「中立的な選挙管理内閣」の設置だ。これを、例えば軍の介入によって実現するには、国が出来るだけ荒れ、政権与党の国家統治能力に国内外の人々が疑問符を投げかけるような状態が作り出されることが望ましい。また、もともと都市部の産業界のエリートや軍関係者によって独立戦争後に作られたBNPは、アワミリーグと比べれば地方の組織票が弱い。農村部に張り巡らされたジャマティ・イスラムの強固な組織力と豊かな資金力は、BNPの比較劣位を補う強力な武器となりうる。

 つまり、シャハバグ・ムーブメントとジャマティ・イスラム党との「正義」をめぐる断絶の背後には、既存の二大政党が「票」を得るための政治的な思惑が交錯しているのだ。これが、問題の解決をさらに遠のかせている構造的背景となっている。

 そして、今月に入りジャマティ・イスラムと関係があると見られる、別の巨大な勢力がその存在感を増している。そのグループの名はHifazat-e-Islam(ヒファジャット・イスラム)-バングラデシュ第二の都市チッタゴンに拠点をおき、シャリア(イスラム法)による社会統治を理想とする宗教団体だ。ヒファジャット・イスラムの登場により、バングラデシュの混乱は新たな段階に入ったように見える。それはバングラデシュという国民国家を、「票」、「正義」をめぐる争いよりもさらに深くて厄介な、アイデンティティをめぐる分断へと導いていくのだ。(続く)
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バングラデシュでの生活が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2013/04/17 18:33
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