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バングラデシュの混乱と政情不安はどこまで深まるのだろうか?(その1)

 4月8日月曜日、時刻は午後5時半を少し回った頃だった。

 ダッカの繁華街、グルシャン1交差点から南へ5分ほど歩いたところにあるIFC(International Finance Corporation:世銀グループの民間企業向け投融資部門)のオフィスは閑散としており、僕がたたくラップトップのキーボードの音を除けば静寂が支配していた。 ホルタル(暴動を伴う政治デモ)が実施される日は、安全確保のため、世銀や国連職員に対しては、自宅勤務が奨励される。しかし、自宅のネット環境は弱く内部システムにアクセスするのに膨大な時間の浪費を強いられるほか、会議室やビデオ会議システムもないため、あまり仕事にならない。こうした中、セカンド・オフィスとして最近多くの世銀職員が利用しているのが、外国人や富裕層の居住区であり大使館街であるグルシャン地区にあるIFCのオフィスなのだ。階下にはDFID(英国政府の援助機関)のオフィスがあり、JICAのオフィスへも歩いて3分程度。ここならホルタルの日でも、鉄パイプや火炎瓶、手製爆弾で武装したデモ隊と遭遇することなく自宅から通え、集中して仕事が出来る。美味しいエスプレッソやサンドイッチが手に入るお気に入りのカフェもすぐそばだ。僕は最近IFCのオフィスに入り浸っていた。
 
 ふっ、とオフィスの明かりが消えた。「あれ、停電かな?」と思ってスクリーンから顔を上げた瞬間だった。

 ドン!!
 
 腹の底を持ち上げられるような音がしたかと思うと、目の前の窓から黒煙が昇るのが見え、続いて硝煙のにおいがオフィスの中にも立ち込めた。窓の外を見ると、IFCオフィスの数十メートル先、僕がいつもランチをするレストランのすぐ目の前で、一台の車が炎に包まれている。野次馬の叫び声、機動隊の駆け足、そして消防車のサイレンが聞こえる。もしも、ほんの5分前に「ちょっと気晴らしに」と、いつものあのレストランにコーヒーを買いに行っていたら・・・心臓の鼓動が高鳴るのが聞こえる。じっとりと汗をかいた手を握り締めながら、僕は炎上する乗用車を見下ろしていた。

 バングラデシュの政情不安、治安悪化に歯止めがかからない

 膨大なビジネス・チャンスが失われ、一般市民の生活はますます厳しくなり、そして多くの貴重な命が失われている。ダッカ商工会議所の試算によると、一日のホルタルによる経済損失は約160億タカ(約200億円)に上るという。子供たちが必死になって準備してきた中等教育終了試験も度々延期を強いられるなど、政情不安は教育現場にも大きな影響を与えている。ちなみに、ダッカ在住の自分が聞き飽きてしまった「ホルタル(Hartal)」という言葉に馴染みのない人が、ホルタル日にダッカをはじめとする主要都市の市街地で何が起こるのかを理解するには、僕の記述よりも、例えばこちら、4月1日付けのBBCニュースを見てもらったほうが早いだろう。

 ホルタルとは、シャット・ダウンを意味する。 もともと、ヒンドゥー語のHat(市場)とTal(閉鎖)が合わさって出来た言葉であり、市場の商人や店主が市場を閉鎖して客や取引先に抗議をする手法として、イギリスによる植民地支配の前から南アジアでは定着していた。

 しかし、今日のHartalは、「異議申し立て」という目的において数百年前のそれと変わらないものの、その規模と内容において大きく変質している。つまり、政党あるいは宗教団体が大掛かりなデモを実施するために街全体を「シャット・ダウン」するのだ。具体的には上記BBCの映像が映し出すとおり、移動中の車やバス、オートリキシャを見つければレンガや火炎瓶を投げつけて動けなくし、燃やしてしまう。線路の枕木をはずし、列車を脱線させる。停車中の列車を爆破する。幹線道路に丸太を大量に転がして物流網を遮断する。そして、こうした行為を止めに入る警官隊や機動隊等と衝突するなど、手段を選ばない。今年3月以降、ホルタルにより100名を超える死者が出ているが、これにはデモ隊だけでなく、応戦する警察や、巻き添えになった一般市民も含まれる。先日は、国連職員が乗る車がデモ隊と遭遇し石やレンガでの攻撃を受けた。国連職員や外交官の車はいわゆる「イエロー・プレート」がついているが、デモ隊にとって、そんなことはお構いなしだ。

 どうしても実施しなければならない重要なミーティングが不幸にしてホルタルと重なってしまった場合や、ホルタル日に空港から出国しなければならない場合には、救急車を使って移動を試みる人もいる。「急病人が乗っている(はずの)救急車なら、さすがのデモ隊も見逃してくれるだろう」という目論見での「救急車作戦」だが、最近はこれも危うい。3月末、民間銀行のビジネスマンが救急車で市の南部を移動していたところ、遭遇したデモ隊に止められチェックを受けた挙句、路上に引きずり出されて殴る蹴るの暴行を受けるという事件が発生。不幸なビジネスマンは、結局同じ救急車で病院に担ぎ込まれた。 
  
       Hartal pic    
  ~写真左上は、ダッカ中央駅での列車の爆破、右上は警官隊と衝突するデモ隊、右下はコミラ-ダッカ間の線路からの枕木除去により脱線した車両、左下はダッカ市内南部でホルタル参加者により火を放たれた一般車両~

 こういう状況だから、富裕層居住区・大使館街であるグルシャン、ボナニ、バリダラ地区を除けば、ダッカ市内を移動するには相当の覚悟が必要だ。そして、冒頭の出来事が象徴するとおり、最近はついに、この3地域も「聖域」とは呼べない状況となりつつある。
 
 では、ホルタルはどのくらいの頻度で実施されているのだろうか。昨年まではせいぜい月に2回程度だったが、3月に入ってからは激増。下記のカレンダーが示すとおり、3月は19営業日のうち、まともに働けたのは10日だけ。今週にいたっては、ウィークデーのうち4日がホルタルだ。来週(4月14日の週)も野党が既に水曜日と木曜日にホルタルを実施する旨、宣言している。
Bangladesh Calender 
 ちなみに、上記カレンダーの「Hartal」マークは、全国規模のホルタルが実施されている日のみに付されているに過ぎず、これに加え、チッタゴン、シレット、ボグラ、ラッシャヒといった地方の主要都市や管区のみを対象としたホルタルも実施されている(しかも発生する暴力の程度は、地方都市や農村のほうがむしろ高い)。つまり、3月以降、週末を除けば、バングラデシュでは落ち着いて仕事や生活をし、あるいは観光を楽しめる日は殆どないという事態に陥っている

 電力不足や渋滞は酷いけれど、人々の一体感が強く、安全・平和が売りだったバングラデシュが、どうして、このような事態に陥ってしまったのだろうか?バングラデシュに関わる人が皆揃って損をするように見えるホルタルは、なぜ繰り返し実施されるのか?今後展望は開けるのか?状況を打開にするには何が必要か?本シリーズでは、こうした疑問と出来る限り深く、多面的に向き合ってみたいと思う。

 細かい話に入る前に、まず強調したいことが三つ。

 第一に、バングラデシュの現在の混乱は、本年末に予定されている選挙に向けた既存2大政党間の権力闘争を超えた、複雑なテーマが多分に入り込んでいる、ということだ。従って、「今回の騒動は、5年に一度の選挙を前にした毎度お馴染みの騒ぎ」という見方は事の性質を十分に捉え切れていないと思う。 このことは、一連の騒動に現与党アワミ・リーグ、そして野党第一党のバングラデシュ民族主義党(Bangladesh Nationalist Party)という二大政党が率いる政治政党以外の、宗教界、及び市民社会それぞれに根を張っている複数の勢力が深く関わっていることからも明らかだ。

 また、「イスラム原理主義者による大規模デモ・暴動」というヘッドラインで報じる外国メディアを見かけるが、これも事態を正確に捉えていないだけでなく、「イスラム原理主義」という定義不明瞭な欧米の造語でムスリムを表現し、ムスリムに対するネガティブなステレオ・タイプを助長するという意味で、鵜呑みは厳に避けたい。例えば、暴動で衝突している 双方のグループに、イスラム教の教えを大切にしている人々は存在する。また、本ブログでは暴徒の攻撃を受けたヒンドゥー・コミュニティにスポット・ライトを当てているが、別なシーンで一方的な暴力を受けている人の中にはムスリムの人々も含まれるし、被害を受けた宗教的・民族的マイノリティを献身的に助けているムスリムも大勢いるのを僕は数限りなく耳で聞き、目で見ている。

 そして最後に、バングラデシュは今、独立以来最大の試練に直面しており、事態はさらに悪化する可能性が高い。しかし、この国がアフリカや中東、そして南アジアの一部の国々のような全面的な内戦やテロリズムの跋扈という事態に陥ることはないと思う

 何故最大の試練か--それは、現在起こっている暴動と背景にあるテーマが、過去バングラデシュが様々な試練を乗り越えるに当たって発揮した耐久力(Resilience)の源泉である、国民としての一体感や、コミュニティに息づく社会資本を傷つけるものであるからだ。

 では、なぜ国の崩壊につながるような事態は避けられると言えるのか---それは一連問題作り出し、またそれを解決しうるのは、他ならぬバングラデシュ人一人ひとりであり、その解決の方法は金でも軍事力でも外国の介入でもなく、彼ら同士の継続的な対話であるところ、バングラデシュ人が、その考え方、価値観、政治的利害の違いにもかかわらず、「言葉」を共有しているからだ。

 以上を3点を強調した上で、次回の記事では、多くのバングラデシュ人を暴力に走らせ、国家を分断させているイシューについて、「票」、「正義」、そして「アイデンティティ」の3点を軸に議論していきたいと思う。(続く)
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バングラデシュでの生活が織り成す物語 | コメント:(5) | トラックバック:(0) | 2013/04/09 18:57
コメント:
現地の治安
はじめまして。
4月末から1週間ほどバングラデシュを旅する予定ですが、ホルタルなどによる治安悪化を懸念しています。
実際のところ、どうでしょうか。
のんきに町並みを楽しめる状況ではないでしょうか。航空券をキャンセルしてでも旅行をやめたほうがいいでしょうか。
結局は自己責任ということでしょうが、参考になる情報があればお願いします。
No title
 けちべえさん、ご質問ありがとうございます。
 「実際のところ」は記事に書いたつもりなのですが、具体的な旅行日程や宿泊先、こちらでの訪問先によって、リスクは変わってきます。ご面倒でなければ、ikeike_youichirouあっとまーくhotmail.comまで、ご一報ください。個別に回答をさせていただきます。
バングラディッシュの女性
私が運営している日本女性向けのフェイスブックページには大卒のバングラディッシュ女性が多く参加しているのですが、一度、バングラディッシュの高学歴女性がどのような人生観、政治観を持っているかについての記事も書いてほしいと思います。
コメント有り難うございます
うらさんへ
 記事をお読み頂き有り難うございます。バングラデシュの高学歴女性の人生観、政治観ということですが、学歴が高く様々な情報に接しているがゆえに、一般化できない多様性を持っていると思いますし、学歴以外にも、家庭の教育や方針、宗教も大いに関係するものと思います。こういう話は、お仲間のバングラデシュ人女性に、一人ひとり、直接聞かれるのが一番よいと思います。
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