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新しい旅の始まり

 サウナのような湿気を含んだ生ぬるい空気が、ダッカの空港に降り立った僕を包む。4ヶ月前、世銀のダッカ事務所のディレクター(バングラデシュ担当局長)との面接を受けるべくここを訪れた際に歓迎してくれた大勢の蚊どもは姿を消している。厳しすぎる暑さは蚊が飛び回る力をも奪うと言う。

いったい何が自分をここに連れてきたのだろうか。

 入国審査を待つ長蛇の列を一瞥だにせず、入国者の情報を人差し指一本で緩慢にタイピングする審査官をぼんやりと見つめながら考える。財布に入ってる一枚の紅い10タカ紙幣。2007年の夏、インドのハイデラバードに拠点を置くマイクロファイナンス機関でインターンをした際にゲストハウスで寝食をともにしたバングラデシュの学生が「記念に」とくれたものだ。まさかこの皺くちゃの紙幣が、僕をここにつれて来たというのか…

 “Ask what you can do for your country”との「ケネディスクールからのメッセージ」を胸に、新緑のハーバード・ヤードで世界中に散っていく同級生たちと地球儀を空に放り投げた2008年6月のCommencment(旅立ちか)ら3年。

  ハーバード・ケネディスクール卒業式

 それ以来、100年に一度の世界金融危機、食料・一次産品価格の高騰と飢餓人口の増加、口蹄疫、ブタインフルエンザなどの感染症の伝播、ギリシャに端を発する欧州の債務危機とユーロの構造的欠陥の露呈、わが国戦後初めての政権交代と新しいガバナンス(統治)のあり方を模索する試行錯誤と七転八倒、そして3.11・・・世界、日本はあまりにも大きく変わった。

 地球儀を放り投げるという無礼を働いたばかりか、「世界を変えてみたくなる留学」なんて大風呂敷を自著のサブタイトルにしたバチがあったったのだろうか。この3年間、仕事において国内・国際経済・金融・政治の荒波に僕はダイレクトに揉まれ翻弄され続けた。しかし、溺れかかりながらも、意志を持って挑み、これまでの人生の3倍速で走り、そして新しい挑戦を続けてきたつもりだ。その延長線上に、バングラデシュに入国するための、この緩慢な列があるのだ。

 もちろんそんなのは僕の思い過ごしで、財布の中の古びた10タカ紙幣のイタズラ、つまりただの偶然かもしれないけれど。

 待ちに待った入国審査官との対面。費やされた時間と忍耐を想像だにしないのだろうか、僕のパスポートを一枚一枚繰りながら、「Oh You are Japanese! ニホンジン、コンニチハ」と満面の笑みで応じてくる。思わず笑顔で返してしまう自分が少し悔しい。

 どうでもいい。とにかく僕はバングラデシュという国に来た。
 
 可能性と挑戦に満ちた国、バングラデシュで、また、様々なセクターの専門家がひしめく世銀というプロフェッショナル集団の中で、僕はどんな変化をもたらすことができるだろうか。どんな変化が僕にもたらされるだろうか。そして、僕は何を日本に持ち帰ることが出来るだろうか。全ては、白地のキャンパスに絵を描くのような作業だ。前例、前任者、引継ぎ書も、なにも無い、新しい旅の始まり。

 そんな旅の記録が、このブログにつづられていく。右往左往し、転倒し、思うように歩んでいけない、そんな記録になるかもしれない。それでも、その確かな足跡を残していきたい。それが将来の自分へをリードしていくメッセージとなることを僕は知っているから。  


  >メグナ川に溶ける夕日
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はじめに | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2011/08/01 00:51
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