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バングラデシュはどのくらいビジネスがしやすいのだろうか?

 そんな疑問に答えるひとつの資料がある。途上国の企業に対して投融資や助言を提供する世銀グループの一部門、IFC(International Financial Corporation:国際金融公社)が年に一度公表するDoing Business指標がそれだ。

 2003年以来十年にわたり毎年公表されれているこの資料は、主として各国の地場中小企業にとって、その国がどの程度ビジネスが展開しやすい環境にあるかを、ある程度客観的に明らかにするために、先進国・途上国双方を含む世界各国(初版の2003年は113カ国)を共通の指標で比較してランク付けをしたものだ。比較に用いられる指標は、例えば、会社の立上げ(Starting a Business)、建築許可の取得(Dealing with Construction Permit)、輸出入(Trading Accross Boaders)等に要する行政手続きの数、必要書類の数、日数、そして金銭的コスト(公式の手数料で賄賂は除く)といった、各企業が商売をする上で具体的に直面する法規制や許認可手続き等、もっぱらミクロで、且つ客観的に比較可能なものだ。

 10月23日に公表された2013年度版Doing Businessは、日本やバングラデシュも含む世界185カ国を10の横断的指標で比較している。以下、今年度版のDoing Businessが、バングラデシュのビジネス環境をどのように評価しているか、眺めていきたい。

   doing business 2013 Bangladesh

 上の図がバングラデシュの成績表だ。10の指標の横にそれぞれの順位を記した。特に足を引っ張っているのが、やはり「Getting Electricity」。これは、地場の中小企業が各国の首都圏(バングラデシュであればダッカ)で新規に電力申請をし、実際に電力が供給されるまでに必要な①行政手続きの数、②日数、③金額(一人当たりの国民所得比で計算)で、各国を横断的に比較したものだ。このブログでも過去、バングラデシュの危機的な電力事情について何度か紹介してきたが、バングラデシュの電力アクセスは、今年のDoing Businessで185か国中最下位となってしまっている。何しろ、バングラデシュでは電力を得るために、9の行政手続きと、404日間(一年以上!!)、そして一人当たりの国民所得(2012年で770ドル)比で約5,000%(770×50=約3万8,500ドル!!)という、文字通り法外なコストがかかる

 もう一つ気になるのが、185か国中182番と世界最下位が手に届きそうな「Enforcing Contract(契約の執行)」。指標のタイトルだけ見ると、バングラデシュでは商業契約が世界で最も守られない国の一つに見えてしまうが、この指標が具体的に計っているのは、企業同士の契約の遵守状況ではない。ある二社間での商品売買契約においてトラブルが発生し(買い手が品質の不具合を理由に商品の購入代金を売り手に支払わないトラブルを想定)、そのトラブルが裁判所に持ち込まれて解決されるまでに発生する手続きの数、日数、そして金銭的コストを比較したものなのだ。指標を裏付ける個別の数字を見ると、バングラデシュでこうしたトラブルを裁判所で解決するには、41の行政手続きとトラブルの元となった商品の約6割に当たるコスト、そして1,442日!!!(約4年の歳月…)を要するという。

 足りない点ばかり上げているのも如何かと思うので、バングラデシュの得意科目にも光を当ててみたい。すると、「Protecting Investor」の指標で25位という好成績を収めている事に目が留まる。これは企業財務の開示、株主訴訟に関する法整備、インサイダー取引や相場操縦への罰則等、個人投資家保護に関する法制度の整備状況を指標化して国際比較をしたものだ。繰り返しになるが、Doing Business指標はOECD諸国(先進国)も含んだランキングなので、これは相当優秀といえるだろう。

 Doing Business指標は、上記10の各指標の順位を平均して総合順位も出している。今年バングラデシュは185か国中129位という成績だった。気になるのは、バングラデシュのDoing Businessの総合ランキングがここ数年下落基調にあることだ。

   Doing Business Bangladesh Trend

 経済活動が活発化する中、道路や電力をはじめとする各種ハード・インフラの整備が追いついていないことは、このブログでも度々指摘してきた。バングラデシュのDoing Businessランキングの低下の背景には、これに加え、政府による規制や行政手続きの執行力の弱さがあるだろう。仕事柄、財務省を中心にバングラデシュ政府のオフィスに出入りする機会は多いが、パソコンで仕事をしているのは、ごく少数の高官のみ。地方都市における出先機関はもちろん、ダッカの中央省庁でも山と詰まれた紙に囲まれて仕事をしている政府職員が目立つ。政府職員と名刺交換をすれば、そこに書かれているe-mail addressの末尾には、gmail.comや、yahoo.comとある。政府内のイントラ・ネットの整備はこれからで、様々な統計データの各省庁ウェブサイトへのアップも緒についたばかりだ。そして、中央省庁の数は50を超え、省内、省庁間の手続きに膨大な時間を要する。

 バングラデシュの公的部門については汚職の問題が指摘されることが多いが、それ以前に行政の足腰が弱い(上記Doing Businessの各指標の背景にある数字は、公式の手続きやコストであり賄賂などは含まれない)。民間企業の活動が熱を帯びれば帯びるほど、行政の処理能力とのギャップは広がり、結果バングラデシュのビジネス環境は悪化を続けることになる。

   SME in Dhaka
~ ダッカ市内の一角に軒を並べる零細企業の工場。厳しいビジネス環境にもかかわらず年率6%近いGDP成長率を過去10年間にわたって維持し続けている背景には、Animal SpiritとPatienceに満ちたバングラデシュの労働者や企業家の努力がある~


 ところで、飽和状態にある日本国内の消費市場から、新興国に向けてBOP(Base of Pyramid)ビジネスを展開すべし、との声が最近喧しい。バングラデシュをはじめ新興国への進出を検討する日本の企業や投資家にとってもDoing Businessは目に留まりやすい指標だろう。投資家向け説明会用の資料等で登板する機会も多い。

 しかし注意したいのは、Doing Businessは、各国の地場中小企業にとってのビジネスのし易さを比較したものであり、その国に対して投資を考える外国企業を念頭においたものではない、という点だ。バングラデシュについても、いくつかの日本企業も拠点を構えるExport Processing Zone(輸出加工区)での税制優遇や電力の優先供給等の投資優遇策があるが、これらはDoing Businessでは考慮されない。現地で一からベンチャー企業を立ち上げる、というならともかく、バングラデシュへの直接投資等を検討している日本の大手企業や金融機関にとってはDoing Businessは単なる参考以上のものにはならない。そもそも、こうしたランキングや統計と睨めっこをしながら、投資先を検討するのは休むに似たり。やはり、現地に飛んで、己にこびり付いた既存の価値観や思考のフレームワークから距離を置き、五感の全てを総動員しながら、人々がどのように時間とお金を使っているのか、現在流通しているモノやサービスはどこから来ているのか、目に見えない商慣行や生活習慣も含めて観察することなくして、前進はあり得ない。何と言っても、日本企業がその国を選ぶのではなく、その国の消費者が、数多ある国内外の企業の中から、日本企業のモノやサービスを選んでくれるかが問題なのだから。

 話を元に戻して、Doing Businessの目的は、海外直接投資を考える投資家や企業に、各国の投資参考情報を与えるというよりも、各国それぞれの規制当局が、地場中小企業がその潜在力を存分に発揮しつつ、社会に貢献できるような、SMARTな規制の策定・実施していくよう、切磋琢磨を促すことにある。ちなみに、ここでいうSMARTとは、
 - Streamlined(効率的で)
 - Meaningful (市場での取引に意味ある(ポジティブな)インパクトを与え)
 - Adaptable (経済・社会状況の変化に適応できる)
 - Relevant (解決しようとする社会問題に対して妥当な手段であり)
 - Transparent(誰にとってもクリアで、且つ内容を入手できる)
規制を指す。世界銀行のバングラデシュ国別援助戦略(Country Assitant Strategy)でも、民間企業による投資活発化に向けたビジネス環境整備は目指す目標のひとつとされ、その成果測定の指標として、Doing Businessのランキングが活用されている。このように、Doing Business指標は規制を受ける中小企業からの視点で、且つ国際的に比較可能な形で、各国の規制や行政手続きの現状や課題を示し、国際機関と政府、あるいは政府と民間企業との対話におけるたたき台としての役割を果たしている

 なお、Doing Business2013年版における日本の順位は24位、2008年時点の12位から大きく順位を落としている。逆に近年競争が激しい韓国は7位。同国は2008年には22位だった。Doing Businessは、バングラデシュをはじめとする新興国・途上国の現状を上から目線で眺めている先進国の政策担当者や企業人に対しても、とるべきアクションを発信しているのだ。
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バングラデシュの経済・産業が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/11/28 18:03
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