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グラミン銀行 ~信頼を基盤とする金融は如何にして創られるのか?(最終回)~

◇ グラミン銀行のビジネス・モデルの背景にある基本哲学とは何か?
 
 ダッカ市ミルプール地区にそびえるグラミン銀行本社ビルの会議室で行われた、Crossoverのメンバーとグラミン銀行幹部とのディスカッションの際、こんなやり取りがあった。

 「グラミン銀行が貸したお金で、女性たちが皆そろって牛を飼ってミルクを買う商売を始めたら、過当競争になって価格が下がり、思うように借り手の収入が伸びないのではないでしょうか?グラミン銀行の現場職員は、こうした事態が起こらないように、しっかり指導できるのでしょうか?」

 「そういうこともあるかもしれません。しかし、職員は女性たちを“指導”する立場にはないのです。そういう事が起これば、一部の借り手は、牛を育てるために必要な飼料を売る仕事をするかもしれない。あるいは、ミルクを集めて市場まで運搬する仕事をはじめるかもしれない。こうしたアイディアを、女性自らが、あるいは仲間との議論を通じて思いつき、実行に移していくことが大切なのです。グラミンの職員が手取り足取り教えるようなことはしません。私たちは、彼女たち自身が自らの、そしてお互いの先生であり、また学び手となるような仕組み、具体的にはセンターなどでの議論を促すだけです。」 

 Discussion with Grameen Bank Senior Management
 ~ Crossoverのメンバーから次々と出される質問や問題提起に答えるグラミン銀行幹部のラタンさん ~

 グラミン銀行やユヌス博士に対しては、主にバングラデシュ国内で「金を貸すだけで、借りたお金をどう使うかに関する指導が足りない」という批判が聞こえる。確かにグラミン銀行の職員は、貸出し時に資金の使途について確認はするものの、女性達が借りたお金で小規模ビジネスを成功させる方法やスキルに関する個別の指導はしてはいない。その代わり、「借り手センター」などの場で、ビジネスを上手く軌道に乗せている借り手の女性が、自らの経験や学びを他の女性たちと共有する機会を設ける、あるいは、各エリアで公衆衛生や教育、あるいは様々な小規模ビジネスの専門家を交えたテーマ別のワーク・ショップを開催し、そこに集ったセンター・チーフがそれぞれの学びをセンターに持ち帰り、共有するような仕組みを構築している。いずれにしても、グラミン銀行の職員自らが、手取り足取り教えるのではなく、借り手自らによる学びと自立を促すことにより、貸したお金が目的、即ち「10の指標」で定義されている貧困からの脱却に向けて使われるよう促しているのだ。

 もう一つ、今回の訪問で僕らが印象付けられたグラミン銀行の奇抜なサービスを紹介したい。それは「Struggling Members Loan」だ。直訳すると「困窮メンバー向けローン」だが、要は物乞いローンだ。現在8万2, 864人が利用しているこのローンには、5人組組成や「借り手センター」での週一回のミーティング出席をはじめとするグラミンのBasic Loan向けルールは一切適用されない。返済期間やスケジュールに関しての取り決めも無い。金利も無い。利用に当たって「乞食稼業を止める事」という条件も課されない。交わされる約束は唯一つ・・・「いつか返してください。」

 借りたお金で現状を脱却するべく、何か小さな仕事を始めるか、それとも乞食稼業を続けるのか、グラミン銀行は、こうした選択に介入せず個人の判断にゆだねる。しかし、重要なのは、元手となるお金が無ければ、仮に意思があったとしても、物乞いは物乞い稼業を続けるしか選択肢が無いということだ。グラミン銀行の「Struggling Members Loan」は、機会さえあれば現状を何とか変えようとStruggle(格闘する)メンバーに対して、きっかけを提供しているのだろう。

 以上のエピソード、及びこの連載を通じて紹介してきたグラミンの商品ラインアップやコーポレート・ガバナンスの構造から浮かび上がる、グラミン銀行の基本哲学とは何だろうか。それはおそらく、顧客の可能性への信頼と機会の提供による自立自助の精神の涵養、と言えるのではないだろうか。農村部の女性たちは、あるいは物乞いたちは、たとえ資産もキャッシュも無くても、自らの力で自らの生活や人生を変えていく潜在力がある。そうした人々の潜在力に火を灯すきっかけが、グラミン銀行によるCreditの提供なのだろう。 

  ここで、「Credit is a fundamental human right 」という、ユヌス博士が語った有名なフレーズを思い出す。「Credit」とは多義的な言葉だ。信頼、誇り、信念、名声・・・貸付という行為を通じて、グラミン・ファミリーのメンバー相互間では、こうした価値が醸成されていくのかもしれない。

 他方、「自立自助」の哲学を具体的なビジネス・モデルに反映させることで、「面倒見が悪い」、「結局は金貸し以上のことはやっていない」という批判が付きまとうことになる。例えば、バングラデシュ最大のNGOであるBRAC(Bangladesh Rural Advancement Committee)との比較でこの点を考えてみよう。1972年に創業したBRACは、マイクロ・クレジットの提供に加え、顧客のために井戸や水洗トイレを設置する、あるいは農業指導や医療保険サービスを提供している。資金の貸付だけでなく、資金の適切な使い方や生活環境の向上のために、職員自らが乗り出すBRACとグラミン銀行を比較すると、一見BRACのほうが、顧客志向の「やさしい」機関であると捉えたくなる。

 しかし、グラミン銀行は「手取り足取り」の領域にまでは踏み込まない。手取り足取り指導する、対価をもらうことなくモノやサービスを提供することで、自立自助の精神が損なわれることを懸念してのことだろうか。このあたりは正に哲学論争だ。ただ、顧客への「手取り足取り」の指導やサービスの無償提供をビジネス・モデルに組み込むことによって、その機関自身の「自立自助」経営が困難になる、という事実には注意する必要があるだろう。この点で特質すべきは、グラミン銀行が2004年以降、預貸率が100%を超えていること、及び2000年以降、一貫して経営黒字を出していることなどに見られるとおり、名実共に自立自助の経営を実現しているということだ。他方で、BRACは、バングラデシュ最大のNGOであり、国内外で極めて多くの実績を残しているには違いがないが、その活動を支える収入の内訳を見ると、マイクロファイナンスからの金利収入とほぼ同額の国内外からの寄付に拠っていることが分かる。
 (注:2011年度のBRACの総収入(341億タカ)に占める寄付収入は約3割、約100億タカ、同機関のマイクロ・クレジットの金利収入(118億タカ)に次ぐ第二の収益源となっています(出展:BRAC Statement of Income and Expenditure))

 ここでBRACとグラミンのどちらが優れているか、と言う議論をしているのではない。グラミン銀行を批判するのは簡単だし、実際、改善の余地がある部分も多くあるだろう。大切なのは、グラミンが顧客に対して自立自助を求めるのと同じように、グラミン銀行自身が、その経営において自立自助の精神を体現しているということであり、そうした経営方針は、農村部の女性たち自らが 、借り手として、預金者として、そして株主として影響を及ぼしていくことを通じて、構築されてきた、ということだ。

 今後もグラミン銀行は、様々な困難や批判と直面するかもしれない。しかし、グラミンが「バングラデシュ農村部の女性達の、女性達による、女性達のための金融機関」としての基本的性格、そして学びによる自己革新の文化を維持し続ければ、これからも、女性達の、そしてバングラデシュの持続的な成長の大きな力となっていくだろう。(本シリーズ終わり)
  Photo with Dr. Yunus 
  ~ ユヌス・バイ、バロアチェン?(ユヌスさん、元気ですか?)とベンガル語で語りかけると「オボッショイ・バロアチ(勿論元気だよ!)」と最高の笑顔で応じてくれたグラミン銀行創業者のユヌス博士と~
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バングラデシュのソーシャル・ビジネスが織り成す物語 | コメント:(3) | トラックバック:(1) | 2012/10/30 00:02

グラミン銀行 ~信頼を基盤とする金融は如何にして創られるのか?(その6)~


◇グラミン銀行は如何に失敗し、どう自己変革を遂げたのか??


 様々な学びや気付きを頂いた今回のグラミン銀行訪問だったが、もっとも印象付けられたのが、グラミン銀行創業以来最大の経営危機をもたらした1998年の大洪水と、その危機を機会と捉えて、グラミン銀行のビジネスモデルを職員全員の学びをもって革新していった物語だった。そう、グラミン銀行は1983年の相業以来約30年の歴史を持つが、2000年4月を持って「グラミンII」として生まれ変わっていたのだった。
________________________________________

 毎年雨季は洪水に見舞われるバングラデシュ。しかし、1998年の洪水はその規模において例外的だった。国土の約半分が屋根上まで10週間にわたり水没し、国全体に甚大な経済的・社会的な被害を与えたのだ。そして、当時既に200万人に上っていたグラミン銀行の借り手の女性たちと家族、その資産の多くも、大洪水の被害から逃れることは出来なかった。借りたお金で購入し自営業の元手としていた牛が洪水で流され、旦那が耕す農地も水没、さらに住処も洪水で失う・・・こんな状況にある家庭が国中に溢れる事態に陥ったのだ。

 危機を前に、グラミン銀行は、借り手の生活基盤立直しに必要な資金の追加融資や、既存ローンの返済スケジュールの緩和、あるいは一時停止などの救済措置を取った。しかし、事態は改善するどころか悪化の一途を辿る。ローンの回収率が落ち込む支店が続出、借り手同士の学びと規律を高めあうための「センター」に足を運ぶ女性達の人数も、少しずつ減っていった。

 「洪水がもたらした被害は凄まじかった。しかし、当時グラミン銀行が直面していた真の問題は、洪水による借り手の債務危機では実はなかったのです。借り手同士の間、及び借り手とグラミン銀行との間で少しずつ蓄積してきていた矛盾や不満が問題の根っこにあり、洪水はそれを表面化させるきっかけであったのです。」

 僕らを案内してくれたグラミン銀行勤務暦20年のベテラン、International Program Departmentでマネージャーを務めるモーシェッドさんは、こう当時を振り返る。 

        Grameen Bank Branch 
 ~グラミン銀行が経験してきた危機と変革について語るマネージャーのモーシェッドさん~

 グラミン銀行発足から2000年までの第一フェーズ、即ち「グラミンI」の期間、そのサービスは、モーシェッドさんの言葉を借りれば、「less flexible, more tension, much severer」(融通に欠け、緊張感が高く、よっぽど厳しい)ものだった。以下「5人組の機能」、「返済方法・返済困難時の対応」を例に、「グラミン1」と「グラミン2」の間に見られる違いに光を当ててみたい。

◎「5人組」が担う機能の変化
 グラミン銀行のビジネス・モデルの基本単位である「借り手女性の5人組」が果たす機能は、グラミン 1と2とで大きな違いが有る。現在、「5人組」は連帯保証のメカニズムではなく、相互の学びと緩やかな規律付けのためのツールであることは既に本連載の中で強調してきたが、グラミン Iのフェーズでは、借り手は「5人組」参加に当たり、他のメンバーの貸し倒れに備えて一定額を「Group Fund」に積み立てる必要があったのだ。

 この積立金は預金と違って個々人の都合に応じて引き出すことができなかったため、「Grameen Group “Tax”」と揶揄されて顧客の不満の種になっていたという。

 グラミン銀行をはじめとするマイクロ・ファイナンスの特徴である「5人組」については、「農村部に暮らす女性達の間に存在する目に見えないが強固なネットワークを担保として上手く機能させた」と評価する声をよく耳にするが、グラミン Iのフェーズのように、女性達のネットワークの間(より平たい言葉を使えば、ご近所さん同士の付き合い)に、相互保証のためのお金を具体的に介在させることで、それまでは存在していた大切な何かが失われる危険性は高い。それは、気兼ねないコミュニケーションを前提とした近所付き合いや、自立を前提とした上での相互扶助の精神だ。1990年後半のグラミン銀行には、「5人組」制度が持つ負の側面から生じていた暗い影がさしていたのだ。

◎ 返済方法・返済困難時の対応に関する変化

 現在、グラミン銀行の借り手は、職員と協議のうえ、返済期間や毎週の返済額について自由に決められること、そして借り手死亡時に家族に借金が残されないよう全額“チャラ”に出来る死亡保険制度があること、などを紹介してきたが、こうしたアレンジは、洪水発生以前のグラミン1のフェーズには存在しなかった。毎週のローン返済額は返済期間に応じて一律であったのだ。

 顧客が返済に窮した際の対応も大分違う。現在は、何らかの事情で当初合意した毎週の返済が困難になった顧客が発生した場合、グラミンの職員は彼女と個別に面談をし、返済可能な新しい返済スケジュールを決めていく。例えば毎週300タカで1年で返済するとしていた当初の返済スケジュールを、毎週100タカで3年で返済、といった具合に変更するのだ(変更後のローンはflexible loanと呼ばれる)。これにより、その顧客は返済期間の延長に伴うローン金利負担の増、そして、ローン借入上限引上げの当面の凍結、という二点の不利益をうけることになるが、引き続きグラミン・ファミリーの一員としてサービスを受け続けることが出来る。他方、グラミン1のフェーズでは、こうしたローンのリスケの仕組みは無く、返済が滞った顧客に対してグラミンの職員がやることといえば、「5人組」のメンバーのプレッシャーも利用して、ただただ返済を迫るのみ。そして一定期間を過ぎると「貸し倒れ」として処理し、事前徴収していた「Group Fund」の資金で損失を補填、そして顧客は、グラミン・ファミリーから除籍をされてしまっていたのだ。

 ここまで読んで頂ければ、何故モーシェドさんが大洪水以前のグラミン銀行のモデルを「less flexible, more tension, and much severer」と表現したかがお分かり頂けるだろう。こうした事情により、1990年代を通じて、「グラミンは便利だけれど冷たい、厳しい」というイメージが顧客やバングラデシュの農村社会に少しずつ染み込んでいた。モーシェッドさんはこうした事情を端的に説明してくれた。

「顧客とグラミン銀行との緊張感や不満の高まり、そして返済率の低下は、実は洪水以前からその兆候が見られていたのです。でも、当時は仕方の無いことだと思っていた。マイクロ・ファイナンスの概念自体が新しいものだったし、全職員が理解し、顧客に理解してもらい、そしてそれをスケール・アップしていくためには、モデルは出来るだけ単純、つまりone-size fits all(画一的)であったほうがよかった。大洪水が我々に与えてくれた最大の学びは、グラミンの融資モデルに顧客を当てはめるone-size fits allは機能しない。顧客の状況に我々の融資モデルを出来る限り併せていくtailor-madeが必要であるということだったのです。」

 こうした経緯を経て実現したグラミン1から2への変遷は、どんな効果をもたらしたのだろうか。この点を明らかにするために、本連載で既に取り上げた二つのグラフを改めてみてみよう。一つはグラミン銀行の顧客数、もう一つは資金調達に関するグラフだ。   Grameen bank members

  Grameen Bank Funding

 鋭い読者の皆さんは既にお気づきだったかもしれない。1990代は横ばいが続きだった顧客数や預金額が、ともに大きく上昇トレンドに転じるのは2002-3年ごろ、つまりグラミンIIのモデルが開発され、各支店で実行に移されて1-2年が経過してからなのだ。大洪水をきっかけとしたフェーズの転換が無ければ、グラミン銀行やユヌス博士のノーベル平和賞授与賞も無かったかもしれない。大洪水という外部からの危機発生を前に、ただ嘆くのではなく、むしろ、それを自己に内在する問題と向き合い変革を遂げる機会と捉えて集団の学びを促し、そして持続的成長を遂げるための新しい仕組みを作り上げていく…その一連のプロセスの指揮を執ってきたユヌス博士、そしてグラミン銀行の真価は、こうしたカルチャーを創り上げていったことにあるのではないだろうか。(続く)

 photo with Dr. Yunus
 ~グラミン銀行本店で、創業者のユヌス博士を囲むCrossover21のメンバー~
バングラデシュのソーシャル・ビジネスが織り成す物語 | コメント:(1) | トラックバック:(2) | 2012/10/28 04:56

グラミン銀行 ~信頼を基盤とする金融は如何にして創られるのか?(その5)~

   グラミン銀行の代表的な商品「Basic Loan」の金利(20%及び借入れ金の5%の強制貯金)は、バングラデシュの規制当局が設定する上限金利はもちろん、他国のマイクロ・ファイナンスの業界の平均、さらにはバングラデシュ政府自身が提供する官制マイクロ・ファイナンスの金利をも下回る水準だ。なぜグラミンの金利は“安い”のか?それは、グラミン銀行がマイクロ・ファイナンス機関でないことに由来する。その意味を、下記の問と向き合いながら考えていきたい。
 
◇グラミン銀行には誰が資金を提供しているのか?


 グラミン銀行は「銀行」だ。マイクロ・ファイナンス機関ではない。双方共に小額のローンを貧困層に提供する点において共通しているが、前者が中央銀行が所管する「グラミン銀行法(Grameen Bank Ordinance)」によって設立された「銀行」である一方で、NGOが経営する一般のマイクロ・ファイナンス機関は、規制・監督機関であるMicroredit Regulatory Agencyが所管する法律、Microcredit Regulatory Agency Act 2006によって、提供できるビジネスの範囲等が決められている「貸金業」だ。そして、「銀行」と「貸金業」の間に見られる最も重要な違いの一つが、前者は借り手の女性達からはもちろん、それ以外の一般からも預金を受け入れることが出来る(グラミン銀行法19条a項)のに対し、その他NGOが経営する一般のマイクロファイナンス機関はそれが出来ない、という点だ。さらにグラミン銀行法の第21条二項は、グラミン銀行の債務には政府の保証がつくとしている。
(注)日本の貸金業は一切の預金受入が認められていませんが、バングラデシュのマイクロ・ファイナンス業は、メンバー(借り手)からの預金受入は上記法律により認められています。 

 言うまでも無く、金融機関自体の資金調達コストが金融機関が借り手に課す金利水準に及ぼす影響は極めて大きい。 政府保証のついた預金を、顧客である女性達からだけでなく(しかもその一部は強制預金)、広く一般から集めることが出来るという特徴は、一般のマイクロ・ファイナンス機関と比較して圧倒的に有利で安定した資金調達環境をグラミン銀行に与えることになる。過去20年のグラミン銀行の資金調達状況をあらわした以下のグラフは、この点を物語っている。
 
  Grameen Bank Funding 
     ~ グラミン銀行ウェブサイトに掲載されている「Historical Data Series」より、著者作成 ~

 受入れ預金総額を示す棒グラフは特に2000年以降急増し、またグラミン銀行の借り手以外からの預金の占める割合を示す赤の部分も増加傾向にある(2010年時点で受入預金総額の46%が借り手以外の一般からの預金)。また、注目すべきは貸付総額と比べた預金受入額の割合(いわゆる預貸率:黄緑色の折れ線グラフ)が2004年以降100%を超え、2010年時点で160%に達しているという事実だ。つまりグラミン銀行は、女性達に貸し付けているお金の1.5倍以上の資金を預金で集められているのだ。なお、貸付に回らずに「余った」資金については、国債等に投資されている。

 では、グラミン銀行に預金をすると、利息はいくらもらえるのだろうか?グラミン銀行本社でのプレゼンテーション資料によれば、いつでも引き出すことの出来る一般預金で8.5%、一定期間は引き出すことが出来ない定期預金で10.4%ということだ。日本の銀行に預けた預金から得られるスズメの涙の金利と比べると圧倒的な利率だが、思い出して欲しい。バングラデシュの中央銀行が設定する政策金利が7.75%であるということを。つまり、グラミン銀行は、民間金融機関が中央銀行とやり取りする際に適用される政策金利に1%程度上乗せしただけの金利でもって、大量の預金を調達できているということだ。 

 Discussion with Senior Management of Grameen Bank 
   ~ダッカ市ミルプール地区にそびえるグラミン銀行本社での幹部との意見交換に臨む官民協働ネットワークCrossover21 のBangladesh Study Tripのメンバー~

 この結果、グラミン銀行は2000年以降、一貫して黒字が続いており、2010年は7億5700万タカ(約7億5,700万円)の純利益を出している。グラミン銀行のBasic Loanの金利が他のマイクロ・クレジット期間と比較して安い水準にあるのは、グラミン銀行に対して資金を貸し付けているのが、借り手である女性達をはじめとする幅広い預金者であるという事情による。 その結果、少なくとも財務上は、グラミン銀行は国内外からの寄付などには一切頼らず、且つ純利益も継続して出すと言う自立的な経営を実現している。では、毎年の純利益はどのように処分されていくのだろうか?一部は内部留保として次年度以降の事業の基盤となるが、残りはグラミン銀行の所有者である株主に配当として配分されるのだ。では、グラミン銀行の所有者とは誰なのだろうか?

◇ グラミン銀行は誰が所有しているのか?

 グラミン銀行のミッションは貧困の撲滅と言う社会的なものだが、貸付事業を通じて利益を上げ、それを株主に配当として配分していると言う意味において、通常の株式会社と全く変わらない。仮に、株主のインセンティブが金銭的リターンの最大化であれば、例えば、金利の引上げやによる収益の増加や、収益につながりにくい奨学金プログラム等は廃止する、といった経営判断が下されてもおかしくない。

 しかし、これまで紹介してきたとおり、グラミンのBasic Loanの金利水準や返済方法は、借り手である女性達の立場に、相当程度配慮したものとなっている。それは、グラミン銀行の株式の97%が全国860万人の借り手女性達に、残りの3%は政府により保有されているためだ。グラミン銀行の女性達は借入れ金額の5%の強制預金プログラムへの参加が求められることは前回の記事で紹介したが、その預金の一部が、一株100タカの株式の購入に当てられるのだ。そして、2010年の株式配当は3%。つまり、借り手の女性達は30タカの配当を手にしている
 
 株主の権利は、当然のことながら、配当の受け取りだけではない。企業の所有者としてグラミン銀行の経営に影響を及ぼしていくことになる。具体的には、グラミン銀行の経営方針にかかる最高意思決定機関である理事会(Board)の12名のメンバーは、9名が借り手女性の代表、3名が政府代表で構成されているのだ。

  Grameen Board Members
   ~グラミン銀行本社のBoard Meeting Roomで理事会のメンバーである借り手代表の女性達と~

  グラミン銀行訪問に関してまとめている本連載記事の冒頭で2006年秋のノーベル平和賞受賞式について紹介した。即ち、ユヌス博士と共にグラミン銀行を代表して栄誉を受けたモサマト・タスリマ・ベグムさんは1992年にグラミン銀行から一匹のヤギを買うための約20ドルを借り、それを元手にビジネスを成功させ、ついに、グラミン銀行の経営を担う理事会メンバーの1人となったことを。彼女のような借り手代表が四分の三を占める理事会において、グラミン銀行の経営方針は決定されているのだ。
 

 なお、グラミン銀行設立当初、株主構成は政府6割、借り手4割であった。それが1986年の法改正で借り手が7割5部、政府が2割5部となり、借り手のボイスが劇的に高められ、さらに2006年の法改正で現在の借り手97%、政府3%という株主構成になったのだ。グラミン銀行の功績については、ユヌス博士のカリスマ性や、借り手女性の生活の変化巡る個別の成功物語に焦点が当てられやすいが、顧客本位のビジネスが継続的・自立的に提供できているとすれば、それは顧客の声をダイレクトに経営に反映させることのできるコーポレート・ガバナンスや安定的な資金調達を可能とする法律基盤があるからに他ならない。その意味において、グラミン銀行が様々な試行錯誤を経てもたらしてきた革新や社会貢献は、グラミンの職員、顧客である女性達、そしてユヌス博士をはじめとする経営陣の努力や創意工夫だけでなく、バングラデシュ議会・政府・中央銀行、さらにはそこで活動をしている人々を直接・間接に選んできたバングラデシュ国民の選択の結果といえるのではないだろうか
 
 様々な側面から観察すればするほど、様々な学びや気付きを提供してくれるグラミン銀行。次回の記事では、グラミン銀行の“失敗”とそこからの学び、そしてグラミンのモデルの背景にある基本的な経営思想についての学びを共有していきたい。(続く)
 

バングラデシュのソーシャル・ビジネスが織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(2) | 2012/10/26 19:56

グラミン銀行 ~信頼を基盤とする金融は如何にして創られるのか?(その4)~

◇グラミン銀行は顧客に如何なるサービスを提供しているのか(続)

 グラミン銀行をはじめ、マイクロ・ファイナンスの金利水準は常に論争の的だ。対象とする顧客が、土地や資産も持たない途上国の低所得者層であることから、金利の徴収は「搾取」の同義語と捉えられやすい。実際「ノーベル平和賞と持て囃されているけれど、マイクロ・ファイナンスの金利は日本の消費者金融と同じか、それ以上だ」と批判する声は強い。また、「実質的には額面よりも高率の金利を課している」、「金利設定が複雑過ぎて、貧困層はもちろん、その国の規制当局や、先進国のドナーにとっても分かりにくく不透明」といった意見もある。なぜなら実際に顧客が支払う総額は、例えば借入元本のみに課される単利なのか、利子分も含めて計算される複利なのかによって大きく異なるし、金利以外に「手数料」や「保険料」を徴収する、あるいは半ば強制的に貯蓄を奨励する機関もあるからだ。  

      Grameen Branch 1 
  ~タンガイル県ゴライ・ユニオンのグラミン銀行の支店で、エリア・マネージャーをはじめ、グラミン銀行のスタッフと議論するCrossover21のメンバー~     

 他方で、言うまでも無く、金利は事業を継続していくための基盤となる利益の源泉だ。「貧困撲滅」という美しいビジョンを掲げても、利益を上げていかなければ、自律的・持続的に事業を継続することは不可能であり、ビジョン実現に自らを近づけていくことは出来ない。従って、顧客に対して課す金利水準は、金融機関自身の資金調達コストから始まり、人件費、支店の開設・運営、そしてシステム維持等に必要となる経費や貸し倒れに備えた引当てといった様々なコストを十分にカバーできる水準とする必要がある。

 借り手の生活水準向上の力となりつつ、自らの事業基盤を確立する「適切な」金利水準、そして、貧困層を顧客とすることに伴う倫理的な批判にも応えうる「正しい」金利水準はいくらなのか、難しい問だ。

 前置きがやや長くなったが、グラミン銀行の最も標準的な商品である「Basic Loan」の金利は20%だ。これに5%の「強制預金(obligatory savings)」がついてくる。つまり、資金を借り入れる際に5%(1万タカを借りた場合には500タカ)が差し引かれて、顧客名義の口座に預金されることになるのだ(但し、このうち半分は即時に引き出しが可能で、残りは少なくとも3年間引き出し不可であることから、真にObligatoryなのは2.5%分のみ)。

 ここで、日本の代表的な消費者金融であるアイフルのウェブサイトを開いてみると「実質金利6.8%~18%」というメッセージが目に飛び込んでくる。こうした数字をもって「グラミン銀行は日本の消費者金融以上の金利を月収1万円にも満たないバングラデシュの農村部の女性たちに課し、搾取している」という批判が展開されることになる。

 これへの典型的な反論は、「グラミン銀行がサービスを始める前、村の貧困層は、200%もの金利を要求するLoan Shark(高利貸し)から借り入れていた。これと比較すれば、20%(+2.5%の強制預金)は十分安い」というものだ。これは確かにその通りだ。が、これだけでは、「それは比較の対象がおかしい。グラミン銀行設立から既に30年が経過し、数多くのマイクロファイナンス機関が業務をしている現在もなお、マイクロ・ファイナンス業界は、高利貸しを代替するような存在なのだろうか。途上国の貧困層向けマイクロ・ファイナンスが、日本の消費者金融以上の金利を取るのは、矢張り搾取だ」という批判に十分に応えられない。
 
 では、グラミン銀行の「金利20%」という水準を、他のマイクロ・ファイナンス金融機関と比較してみよう。以下のグラフはバングラデシュのお隣のインドで活動する87の主要マイクロ・ファイナンス機関が提供する235のローンの金利水準とサイズについてまとめたグラフだ。作成者は「真に貧困削減に資するマイクロ・ファイナンス事業の実現を、金利設定の透明性の追及を通じて実現する」ことをミッションに活動をしているMicrofinance TransparencyというアメリカのNPOだ。 
 india MFI Interest Rate 
 ~インドの主要マイクロ・ファイナンス機関の金利水準とローンサイズ(出展:Microfinance Transparency)

   縦軸が金利水準(%)、横軸が平均ローン・サイズ(ルピー)を示している。ちなみに、ここで言う「金利」とは「額面の年率金利」に「手数料」、及び「強制預金」を合わせたものだ。これを見ると、インドの主要マイクロ・ファイナンス金融機関の金利水準は、おおむね25%から35%の範囲にあること分かる。

  同じ事柄について、エクアドルの30 機関、フィリピンの40機関について、それぞれ見てみよう。  
 
 Ecuador MFI Interest Rate 
~エクアドルの主要マイクロ・ファイナンス機関の金利水準とローンサイズ(出展:Microfinance Transparency)~

  Pillipeans MFI Interest Rate
 ~フィリピンの主要マイクロ・ファイナンス機関の金利水準とローンサイズ(出展:Microfinance Transparency)~

   グラフが示すように、エクアドルは15-40%の間でばらつきがあるが平均25%程度、フィリピンに至っては平均は100 %前後となっている。ちなみに、バングラデシュのマイクロファイナンス業界の規制・監督機関であるMicrocredit Regulatory Agencyが2011年6月に導入した金利の上限規制は27%だ。こうしてみると、グラミン銀行の金利水準は、マイクロ・ファイナンス業界の平均値を下回る水準であることが分かる。

 また、マイクロ・ファイナンスの金利に対する批判は日本等の先進国の貸金業の金利水準との単純比較でなされることが多いが、途上国のマイクロ・ファイナンス機関の金利が「適切で」、「正しい」ものなのかは、その事業環境についても考える必要があるだろう。例えば以下の数字を見るとどうだろうか。

 - 政策金利  バングラデシュ:7.75%、  日本:0-0.1%
 - インフレ率(前年同月比の消費者物価指数) 
        バングラデシュ:10%前後、日本:マイナス0.4%
 
   上記で紹介したグラミン銀行及び他の新興国・途上国のマイクロ・ファイナンスの金利水準は物価上昇分を加味しない名目ベースだ。インフレ率を差し引いた実質ベースで見ると、大分風景が違って見えるだろう。また、債券発行や借入れによるマイクロ・ファイナンス機関自体の資金調達コストも、先進国と比較すれば相当程度割高だ。こう見ると、マイクロ・ファイナンスに限らず、先進国の金融業と途上国の金融業の金利水準を額面で単純比較することは、そもそもナンセンスだということになる。

   さらに、金利水準の妥当性について判断するには、利率だけでなく金利を課す方法についても注意深く観察する必要がある。この点グラミン銀行の20%の金利水準は、元本のみにかかる単利だ。そして、借入当初の元本額をベースに返済終了まで同額の金利の支払いが発生する「Flat Basis」ではなく、資金返済が進むに従って減っていく「未返済の元本額」に対してかけられる「Declining Basis」で計算される。グラミン銀行のウェブサイトでは、この点がバングラデシュの政府が運営するマイクロ・ファイナンスの利率との比較で強調されている。即ち、政府のマイクロ・ファイナンス金利は11%とされているものの「Flat Basis」であり、グラミンが採用している「Declining Base」で再計算すると22%となるという。  グラミン銀行のほうが官制マイクロ・ファイナンスより安い、という訳だ。

    こうしてみると、持つべき疑問は、「グラミン銀行の金利は高く過ぎるのではないか」ということではなく、むしろ「何故、グラミン銀行の金利は他のマイクロ・ファイナンスと比較して低く抑えられているのか?」ということなのかもしれない。そして、その答えは、グラミン銀行が、実はマイクロ・ファイナンス機関ではない、という点にあるのだ(続く)。
バングラデシュのソーシャル・ビジネスが織り成す物語 | コメント:(1) | トラックバック:(0) | 2012/10/25 20:26

グラミン銀行 ~信頼を基盤とする金融は如何にして創られるのか?(その3)~

◇グラミン銀行は顧客に如何なるサービスを提供しているのか?

 グラミン銀行の借り手女性たちが口をそろえて僕らに語った成功物語が“やらせ”ではなく、また、案内された「借り手センター」が外部宣伝用の“優良センター”でもないとしたら、いったい、成功の背景には何があるのか。そもそも、彼らは成功をどのように定義しているのだろうか。如何なるサービスをどのような方法で提供しているのか。リスクをどのように認識し、それをどう管理しているのか。  

           Grameen Branch IV
 ~ タンガイル県ゴライ・ユニオンのグラミン銀行の支店を訪問するCrossoverのメンバー ~          

 問題意識を沸騰させながらCrossover Bangladesh Study Tripのメンバーはグラミン銀行の支店の門をくぐった。バングラデシュのほぼ全ての地域に展開する約2,500のグラミン銀行の支店は、それぞれ平均55箇所のセンターを所管している。一つのセンターが12の「5人組」で構成されていることを考えると、一つの支店は平均約3,300人の顧客と向き合っていることになる。 

             Grameen Branch II
   ~申請した融資の承認を待つグラミン銀行の顧客の女性達~

 鉄筋一階建ての支店の中では、机に向かって黙々と電卓をたたいているグラミン銀行職員を、質素なサリーで身を包んだ数人の女性たち囲んでいる。融資の承認を待っているのだという。既に貸し出した資金については、グラミンの職員が村々を回りながら回収していくが、借り入れに際しては、女性たちが支店に赴く必要がある。この点はごく普通の金融機関と同じだ。しかし、そこで提供させる金融商品の内容は、様々なリスクや不確実性の下にある農村の女性たちの状況に対応したデザインとなるよう工夫を凝らしたものであることを、僕らは、職員との意見交換を通じて知ることになった。以下、グラミン銀行の最も標準的なサービスである「Basic Loan」について、その特徴を紹介したい。

◎ 担保なし、保証人なし、契約書なし
 グラミン銀行がその設置法(Grameen Bank Ordinance)において、担保となる土地や資産を持たない層に顧客が限定されいること、及び5人組が連帯保証の役割を果たすものではなく、借入れ・返済共にあくまで個人ベースでなされることは前回の記事で紹介したが、もう一つの大きな特徴は、顧客とグラミン銀行との間には、融資に当たって契約書が交わされないという点だ。双方が合意した借入れ金額とその条件、返済状況については、「借り手センター」で出会った女性たちが手にしていたグリーン・シートに記載されていくが、双方の署名などは無く、あくまでも備忘録に過ぎない。

  Grammen Branch III
  ~顧客の女性達一人ひとりがもっている借入れ履歴・返済状況を記したグリーン・シート~

 複数の支店を統括するエリア・マネージャーのラディブさんはこう語る。
 「記載内容に不履行などがあった際、グラミン銀行は、顧客を裁判所に引っ張っていくようなことはしません。問題解決の方法はあくまでも双方の話し合い。そのベースにあるのは、書類ではなく対話を通じた相互の信頼なのです。」

 バングラデシュの識字率が5割少々であることを考えると、契約書の内容を理解できる人は、グラミンの顧客層ではごく僅かだろう。また、たとえ理解出来たとして、いざ訴訟となった時、彼女らに弁護士を雇う余裕があるだろうか?こう考えると、契約書を交わすという形式的な行為により、借り手の権利や財産が実質的には不当に侵されるリスクは高い。双方の約束事をシンプルなメモにし、密な対話に基づく信頼でそれを守っていくという方法のほうが、顧客にとって納得感が強く、従って、その内容が履行される確率を高めることができるのかもしれない。

◎ 返済スケジュールは顧客一人ひとりの状況に応じたテーラー・メイド
 Basic Loanは初回借入れ1万タカ(約1万円)で毎週の返済が求められるが、返済期間及び週毎の返済額については、職員と借り手女性の話し合を通じた借入れ時の合意に基づいて、相当柔軟に設定できる形になっている。例えば返済期間は3ヶ月から3年までの幅のなかで自由に設定でき(平均返済期間は44週間)、また、毎週の返済額は定額である必要は無い。これは、グラミンの顧客である貧困層が手がける小規模なビジネスのキャッシュ・フローが、牛の売買であれ米の脱穀であれ、季節等により大きく変動する傾向が強いという事情に応えるものだろう。なお、借入れに当たって合意した返済内容で1年間毎週確実に返済した顧客は、毎年25%ずつ借入れ上限が引き上げられる。

◎ 3%の保険料で借り手が死亡した場合は借金全額免除+葬儀代支給
 借入額の3%を保険料として支払った顧客は、不慮の事故や病気で本人(女性)及びその夫がなくなった場合、残された借金は全額免除となり、また1,500タカの葬儀代も支給される。本人がコントロールできないリスクが不幸にして現実のものとなっても、残された子供や親族に借金が圧し掛からないようにすることで、マイクロ・ファイナンスが貧困を再生産する要因にならないよう、配慮がされていると言えるだろう。

  Grameen Branch V
  ~ 支店の財務状況等について丁寧に説明してくれるグラミン銀行の職員の皆さん ~

◎ 借り手の子供への奨学金の提供
 借り手の子供が大学へと通う費用を補助するためのプログラムも用意されている。各支店で特に成績の良い子供16名(うち半分は女子、残りの半分は男子と女子から成績の良い順に適用)を選び奨学金を提供するこのプログラムにより、これまで約15万人の子供達が、高等教育への進学を手にしたと言う。これは、借り手の母親達が子供の教育に力を入れる上での大きなインセンティブとなるだろう。
  
◎ 職員のモチベーションの源泉となる「10の指標」と「五つ星」

 「Basic Loan」が持つ上記の特徴はいずれも、グラミン銀行の職員が、顧客の生活水準を持続的に向上させるというモチベーションを持って、積極的な対話を試みるか否かにより、相当程度結果が違うものとなるだろう。例えば職員や支店の成績が「融資量」や「回収率」、あるいは「儲け」のみで判断されれば(無論、これらは金融機関としては無視できない大切な指標だが)、交わされる「対話」の内容が、不必要に長期の返済期間を顧客に提案し金利を余分に稼ぐ、過剰借入れを顧客に奨励する、あるいは、暴言によって資金回収を図る、といったものとなり、ひいては、かつて日本の消費者金融で問題になったような事態に陥りかねない。

 その点、グラミン銀行が設定している「10の指標」は興味深い。全うな家屋、清潔なトイレ、娘/息子の小学校への就学、十分な衣服、一日三度の食事といった項目が並ぶこの指標は、各支店が、顧客の状況を毎年チェックする際に用いるものであり、「顧客が貧困から脱却したか」を判断するためのツールとして用いられている。言い換えれば「10の指標」はグラミン銀行の成功の定義なのだ。

 「10の指標」は職員や支店のパフォーマンスを評価し、相互の切磋琢磨を引き出すことにも貢献しているようだ。ここで、「成績のよい」支店や職員に賞として与えられる「五つ星」を見てみよう。

 ☆ グリーン・スター:融資の回収率が100%の職員・支店

 ☆ ブルー・スター:利益を出した支店
 ☆ バイオレット・スター:融資量を上回る預金を集めた支店
 ☆ ブラウン・スター:借り手女性の子供が全員小学校に通っている/修了した支店
 ☆ レッド・スター:顧客全員が「10の指標」をクリアした支店

 金融機関として事業を継続するために必要な財務指標と、顧客の生活水準を持続的に向上させるための社会指標とがバランスよく盛り込まれたものとなっている。「契約書・保証人・担保なし」、「テーラーメードの返済スケジュールと実績に応じた融資上限の引上げ」といったグラミン銀行のローンは、「10の指標」「五つ星」といったインセンティブ・メカニズムと合わさっているからこそ、顧客女性の貧困からの脱却という社会的ミッションと、金融機関としての財務の健全性の維持の両立に貢献するのだろう。

 次回は、マイクロ・ファイナンスを巡り常に論争の的となっている金利水準について紹介、議論をしていく。(続く)
バングラデシュのソーシャル・ビジネスが織り成す物語 | コメント:(1) | トラックバック:(0) | 2012/10/23 02:35
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