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バングラデシュが未来を切り拓くには何が必要だろうか? ~技術立国を目指して走り続ける若者たちの物語(その2)~

 広々としたイスラム工科大学のキャンパスに響き渡る鋭いエンジン音と若い歓声。100名を超えるベンガル人学生の視線の先にあるのは、「1リットルのガソリンで、どこまで走っていけるか」をテーマに、チームで創り上げた「エコラン・カー」だ。

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今年秋に開催予定の全国大会に向けた「試行ラン」の第一走者となったボリシャル職業訓練校の学生は、細身のエコラン・カーを巧みに操りカーブを切った。その後をチームの仲間が歓声を上げながら追いかけていく。エコラン大会の火付け役であり学生たちのコーチ役でもある青年海外協力隊の大河原俊弥さんは腕組みをしながら厳しい視線でエコラン・カーを見つめる

 第一走者が無事スタート地点まで戻ってきた。昨年の第一回大会の教訓が活きたのだろうか、途中故障することも無く見事に走り終えた。素晴らしい!続いてラッシャヒ工科大学、ダッカ工科大学と試行ランは続く。しかし、走行途中でエンジンの調子がおかしくなり停止してしまう車両。スピードが出すぎてカーブを曲がり切れず、クラッシュしてしまう車両等トラブルが続出。唯一の女子チームであるチッタゴン工科大学の車両は走り出すことも出来ない。必死にエンジン調整をするチーム・メンバー。何とかしたい。何とかしなきゃ!眉間の皺は深まり、額には汗が滲む。

 本番さながらの緊張感の中での試行ランだからこそ発生する様々なトラブル。歓声と苦悶のうなり声が交差する。

 試行ラン開始から一時間。意を決した表情で女子チームの一人がヘルメットをかぶり、狭いコックピットに華奢な体をもぐり込ませた。ハンドルを握りアクセルを踏み込む。

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暫くの沈黙の後、突如車両は発進。彼女はバランスを崩しながらも必死でハンドルをさばく。大声を上げながら走る仲間たちが後に続く。会場は拍手に包まれた。イスラム工科大学のキャンパスを周回して無事スタート地点に戻ってきた女子学生。やけに大きく見えるヘルメットから開放された彼女の表情は安堵と喜びに満ちていた。
 
 しかし、大河原さんの仕事は終わらない。試行ランを終えたチームを一つ一つ回り、車両の構造やハンドルの操作性、重量等、様々な視点から、チームを指導していく。

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その表情は厳しく指摘事項は容赦ない。しかし、学生たちも真剣な表情で大河原さんの指摘に耳を傾け、率直な質問をぶつける。まるで自らの製品に誇りを持ち、決して妥協をしない職人が、若い工員を叱咤激励する町工場の風景のようだ。日本の経済成長の基盤を作ってきた数多くの中小企業の町工場では、きっとこういう本気の指導と挑戦が受け継がれてきたのだろう。


 午後3;00。キャンパスに響き渡っていた歓声は、次第に柔らかくなっていく日差しのなかで、少しずつ静寂に取って代わられていく。ようやく一息を付いてコーラで喉を癒す大河原さんをつかまえて、エコランに掛ける想いやその先にあるビジョンについて語ってもらった。

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 「バングラデシュが将来を切り拓いて行く上では何が必要か。それは決められたことを決められたとおりにやって満足する状況から抜け出し、自分たちで創意工夫を繰り返しながら、新しいモノを作り出していく力だ。学生達にはエコランを通じて、失敗から学び、直面した壁を自ら乗り越えていく力をつけていって欲しい。そしてその過程を大いに楽しんで欲しい。」

 縫製業を中心に近年目覚しい経済成長を遂げるバングラデシュ。しかし、例えば繊維製品を作り上げるのに必要なミシンは全て輸入頼み。MADE IN BANGLADESHを唄う電化製品やバイクを製造・販売するWALTONという会社はあるものの、部品は全て外国製。WALTONの提供できる付加価値は、組立てと販売、アフターケアに留まっている。バングラデシュが世界に提供できる価値が「安価な労働力」だけでは、何時までたってもこの国の人々は、付加価値ある何かを自分たちの手で作ることは出来ない。多くの労働者は、このブログでも紹介した牛革加工や船舶解体、レンガ工場、あるいは出稼ぎ先の中東地域の工事現場と言った、3K職種に甘んじ続けることになる

 しかし、この状態から脱却するための資産を、バングラデシュは持っているのだ。それは大勢の若者たちだ。バングラデシュの若者たちが、柔軟な発想力と失敗を恐れない精神を持ってものづくりにトライする機会、即ちエコランは、この国の技術力を高める基盤となるのだ。
  
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 大河原さんのビジョンは技術に留まらない。
 「エコランは技術を身に付けるためだけの機会ではない。エコラン全国大会が実現し、さらに、バングラデシュの毎年の恒例行事として、全国各地の職業訓練校や技術大学校が競い合う国民的イベントとなれば、それぞれの地元の人々も地元代表を懸命に応援するでしょう。まさに、甲子園を目指す高校球児と彼らに声援を送る地元のつながりと同じです。それを通じて、皆で共通の目標に向かう力、そしてフェアプレーの精神がバングラデシュに定着していく。これはこの国の「汚職」を無くしていく上で、大きな力となるはずです。」

 世銀がプロジェクトを実施していくうえで、必ず直面する巨大な、しかし目に見えない壁が公共機関の「Weak Institution」。「Institution」とは日本語に訳しにくい言葉だ。辞書を引くと「機関」「制度」「慣例」といった字句が並ぶが、僕は「組織力」だと捉えている。即ち、単にフローチャートとしての「組織」やその組織を動かすための「ルール・慣例」、あるいは十分な人員や設備といた物理的な事柄だけでなく、組織のメンバーが共有するミッションやゴール、メンバーを目標に向けてプロアクティブに歩ませる動機付けや相互学習、あるいはメンバー間の連帯感や共感、即ち仲間意識がコアとなる概念だと考えている。

 そして、これらがバングラデシュの特に政府部門では著しく欠けているのだ。エコランというグループ・ワークを通じて、こうした「Institution(組織力)」を高める人財がきっと育っていくだろう。それは、高度な技術を持続的に生み出していく上でも不可欠な要素だ。

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 最後に「フェアプレーの精神」。贈収賄や横領、あるいは多くの政府職員あるいはその家族が私企業経営に関わり、公の資源を我田引水する利益相反等、あらゆるタイプの汚職が、この国には蔓延っている。それは、多くの開発プロジェクトの成果を遠ざけるばかりか、「正直者が馬鹿を見る」風潮として社会に根を張り、納税意識を低め、援助頼みの状況からの脱却を阻む

 エコ・ランへの参加を通じて、そしてエコランに参加する学生たちにエールを送ることを通じて、この国の人々が、フェアプレーの大切さ、楽しさ、爽やかさに集団として強い気付きを得れば、システムとして定着してしまった汚職文化を、自ら変えていこうという波が生まれるかもしれない


 インタビュー終了後、最後に残っていたチームの元に大河原さんは掛け戻っていった。

 向き合うのは、目の前にある車両、そして若者達。しかし、彼の目指す北極星は、その先にある。バングラデシュのこれからの国創りに必要な目には見えない三つの大切なモノだ。

 「僕はいつかはいなくなる。僕無しで、ベンガル人の若者の手で、エコランが継続し拡大していくことができるか。それが成功の定義です。」

 そう、北極星に向かって、運転席に座り、勇気を持ってアクセルを踏み込み、故障も乗り越えて進んでいくべきは、他ならぬベンガル人の若者たちなのだ。エコ・ランは、そんな志を持ったベンガル人の若者たちの、若者たちによる、若者たちのための物語なのだ。(終わり)
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バングラデシュ人と日本人の協働が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/03/18 02:52

バングラデシュが未来を切り拓くには何が必要だろうか? ~技術立国を目指して走り続ける若者たちの物語(その1)~

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 バングラデシュが未来を切り拓くのに必要なもの。それは「試行錯誤を通して得られる物作りの力」「チームで共通の目標に向かう力」、そして「フェアプレーの精神」

 こう信じて走り続ける男がいる。バングラデシュ青年海外協力隊平成21年度4次隊の大河原俊弥だ。バングラデシュ南部の町、ボリシャルの職業訓練校でコンピューター講師として活躍する大河原さんと出会ったのは昨年秋。彼が本業を超えて手掛ける「燃費競技大会(通称エコラン)」のコンセプトと、その先に描かれるビジョンに初めて触れたのもその時だった。エコランとは、「最も燃費の良い車両をつくる」ことを目標に、バングラデシュの工業大学の学生たちがチームを作って車両を作成、ガソリン1リットルで何キロ走れるかを競い合う大会だ。僕が小学生時代に毎年夢中になって見ていた、琵琶湖に向けて意匠を凝らした様々な手作り飛行機が飛び立つあの「鳥人間コンテスト」を髣髴とさせるこの競技。日本では30年以上前から行われており、最高記録はなんと3,000キロを超えるそうだ

 エコランのコンセプトをバングラデシュにも根付かせ、最終的には、エンジニアを志す全国の若い学生たち参加する「エコラン全国大会」を実現したい…こんな大きな目標に向けた第一歩は小さいが確かなものだった。

 2010年12月、現在利用が停止されているボリシャル空港の滑走路で開かれた第一回エコラン大会に参加したのは、大河原さんの赴任先であるボリシャル職業訓練校の学生がつくる2チームのみだった。参加学生数も5ヶ月の作成期間を通じて減り続け、当初の30人から最後までしっかり参加したのは5人程度。しかも本番もトラブル続きで、ようやく出来上がった2台のうち走ることが出来たのは一台のみ。しかし、その一台が一リットルのガソリンで100キロを走ったのだ。共通の目標に向かって皆で本気の試行錯誤(チャレンジ)を続け何かを成し遂げることの喜び、そして5ヶ月間の苦労が合わさって涙をする学生もいたという。

 第一回エコランから様々な反省と確かな手応えを得た大河原さんは、その後、バングラデシュ各地にある技術大学、工科大学を駆け回り、大学関係者や学生にエコランのコンセプトとその先にあるビジョンを語り続けた。第二回大会を全国規模にするために…


 2012年3月9日、週末である金曜日の朝早くから、僕は友人とともに、ダッカ郊外のガジプールにあるイスラム工科大学(Islamic University of Technology)に向かっていた。向かう先で開かれるのは今年秋に企画されている「第二回エコラン大会」に向けた「Eco-Run Demonstrative Trial Contest(試行ランを兼ねた予備戦)」だ。一体何台のエコラン・カーが出場するのだろう?しっかり走ることが出来るのだろうか?どんな形の車が登場するのだろう?
 
 大河原さんがベンガル人の学生たちと描いてきたエコランの過去、現在、そして未来に強く共感していた僕は、笑いあり、涙ありの「鳥人間コンテスト」のテレビ番組が始まるのを待っていた子供の時のように、胸の高まりを覚えていた。

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 モダンな建物と美しい緑のグランドが印象的なイスラム工科大学に到着したのは朝9:30。既に大勢の学生たちがひしめいている。人数は軽く100人を超えるようだ。キャンパスに並ぶ形も様々な「エコラン・カー」は11台。各チームに分かれてそれぞれが試行錯誤の末に創り上げた車両の整備に余念がない。

 前輪横にバングラデシュと日本の国旗を掲げるこちらのエコラン・カーは、昨年も参加したボリシャルの職業訓練校の学生チームの車両。少ないガソリンでどこまでも走っていけるよう、出来る限りの軽量化を図っている。
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 こちらは、バングラデシュ北部の都市、ラッシャヒ工科大学のチーム。安定感重視だろうか、4輪のエコランカーだ。
 
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 鮮やかなサロワール・カミューズに身を包む女子学生たちが、手を真っ黒にして最後の調整に汗をかいている。今回参加する11チームのうち、唯一の女性チーム。チッタゴン工科大学の学生達だ。

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 こちらはおそろいのポロ・シャツも作って団結力をアピールするダッカ工科大学のチーム。「Eco-Fighter!」と名付けた愛車を囲んで気勢を上げる。気合十分だ!
 
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 今回は試行ランということで、参加チーム一斉スタートの競争はせず、一台ずつキャンパスを周回し、そのスピードや走行距離、操縦性、重さ、そして作成コスト等をチェックするのが目的。今回の試行ランで得られた教訓を糧に、学生たちは今年秋に開催予定の本番に向けて、チャレンジを続けることになる。

 大河原さんは、「試行ラン」全体の運営、そして各チームへのコーチングに駆け回る。カラリと晴れ渡った空から照りつける太陽は、エコラン・カーや学生たちの影を次第に濃くし、地上の熱気を高める。作業着姿で駆け回る大河原さんの額には汗がにじむ。学生たちは、それぞれの作業やおしゃべりに夢中で、全体が全く見えていないようだ。決められた時間になっても、決められた場所に動こうとするチームは少ない。

 「おい、早く移動しろと何度も言っているだろ!」
 「そこ、ヘルメットをつけずに絶対に運転するな、と何度言ったら分かるんだ!!」

 大河原さんのベンガル語の怒声がキャンパスに響き渡る。元自衛官でもある大河原さんの一喝は迫力満点だ。ダラダラとしていた学生たちの動きも引き締まる。ようやく11台のエコラン・カーが横一直線に並び、試行ランの準備が整った。

     eco-run 8

 最初のチームはボリシャル職業訓練校チーム。そして、彼らの試行錯誤の結晶であるエコラン・カーが、今、鋭いエンジン音をあげながらスタート地点を飛び出した!(続く)
バングラデシュ人と日本人の協働が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/03/15 02:16

開発プロジェクトの成果向上のためには何が必要だろうか?(その4)

 バングラデシュでは情報公開法(Right to Information Act)が2009年3月に議会で可決・成立しているが、これも、開発プロジェクトの成果を向上させ得る有力なツールだ。

 バングラデシュの西部、インド国境に近いシャトキラ(Shatkila)地区では、市民による政府のガバナンス向上をミッションに活動を続けるNGO、Agrogoti(アグロゴティ:ベンガル語で『前進』の意味)が、世銀の第三者評価プロジェクトを情報公開法を使って実施している。対象となるプロジェクトは、住民から選出された村議会、Union Parishad(ユニオン評議会)の強化を目指すLocal Government Support Projectだ。

 現在、バングラデシュには、地域住民が選挙で選出する村議会(ユニオン評議会)は存在するものの、実態は村の顔役たちが集まって、あーだ、こーだと議論をしているだけで、そこで決めた内容を実施することは極めて難しい。何故なら、ユニオン評議会の議員が利用可能な人員は評議会議長の秘書一人、そして利用可能な財源は、村人から徴収する微々たる税金のみというのが実態だからだ。つまり、バングラデシュの村では、住民代表が議論・決定した事項を、実行に移すための人員と予算を持つ「地方自治体(町役場や村役場)」が存在しないということだ。

 そして、各種の行政サービスは、各ユニオンにある中央省庁の出先機関が、中央からの指令に基づき実施している。これでは、地域住民のニーズに基づく社会サービスや小規模なインフラ整備の、きめ細かな実施は期待できない。汚職も起こりやすくなるだろう。

      Union Chairmanのオフィス
 ~ シャトキラ(Shatkila)地区のKhalishkhali Union Parishad(カリシカリ・ユニオン評議会)の建物。議長のオフィスとミーティング用スペース、そして秘書の執務室が入っている~

 こうした現状を変えるために、JICAが先行実施していたプロジェクトから得られた知見も借りて、世銀が全国的に実施しているのが、Local Government Support Projectなのだ。具体的には、ユニオン評議会に対し、住民からのニーズを反映したプロジェクトを実施する財源を与えるとともに、資金が真っ当に使われているか、ユニオン評議会がその説明責任を果たすための監査プロセスを導入する。

 世銀は、このProjectの成果指標のひとつとして「対象地域の女性の雇用がどの程度伸びたか」を設定している。そして、今回の第三者評価プロジェクトは、地元のNGO、Agrogotiの先導で、地域住民が情報公開法を活用して、上記女性の雇用に関する指標が実現できているかどうかをモニターし、最終的に世銀が実施する自主評価の結果とどう違うかを確認していくのだ。


子供たちが歓声をあげながらクリケットを楽しんでいる小学校の校庭の隅で、多くの女性と若干の男性たちが、椅子を並べて議論をしている。世銀のLocal Government Support Projectで提供された資金を使って、ユニオン評議会のイニシアティブで始めた地元の道路の修復事業がテーマのようだ。

     Social Mapping - Shelter 5

Agrogotiの担当者から、「世銀の成果指標によれば、このプロジェクト実施により地元の女性の雇用が20%から30%に改善することが目指されている」旨が紹介される。コミュニティのメンバーは、まず、何故道路のプロジェクトで女性において女性の雇用が重要なのか、という点から議論を始まる。

「女性が働いて家計を助けたければ、旦那と農作業をやればいいんじゃないのか?」
「いや、農作業は女性にとっては早朝から晩までの重労働。それに、すぐに現金が入ってくる訳ではないし…」
「田んぼの真ん中でトイレに行きたくなった時のこと、考えたことある?男は適当に用を足せばいいけれど、女性はそういう訳にはいかないのよ。」
「道路の修復もレンガを砕いたり、運んだりしなければならないけれど、農作業よりは随分楽。家からも近いかから、小さい子供の面倒を見ながら仕事を続け易い。」
 
 率直且つ実感のこもった対話が交わされる。そして、情報公開法に詳しい男性の一人が、その趣旨を女性たちに説明し、現在実施中の道路修復プロジェクトでは、世銀が目指す成果指標の通り「作業員の3割が女性」となっているかを、情報公開法を活用してユニオン評議会のオフィスに確認しよう、という運びとなった。   

 数日後、村の人々に数枚のリストが手渡された。道路修復を実施している業者を通じて、ユニオン評議会が入手した作業員のリストだ。見ると約2割少々しか女性がリストアップされていない。さらに、リストを眺めていた女性の一人がこんな声をあげた。
 「ありゃ、私の名前が入っている。何もやっていないのに!」

 業者からすれば、力が強い男性を出来るだけ多く雇いたい。また、地元の人々よりも低賃金で働いてくれる超貧困層等をどこか別の場所から連れてきて雇ったほうが安上がりだ。世銀は成果指標として女性の雇用を設定しているが、草の根では、こうした事情から必ずしも成果実現に向けてオン・トラックと(順調)とはいえないようだ。

 話はここで終わらない。実態を把握した女性たちは、ユニオン評議会議長との面会を申し入れた。世銀の成果指標と情報公開法を活用して得たデータを下に、議長に対して、必要な改善措置を業者が採るように伝えるためだ。議長は自分も実態を把握しきれていなかったことを認め、業者を呼んで実情を確認することを約束した。

 今後もこの村の住民は情報公開法を活用しつつ、自主的に、世銀のプロジェクトが「女性の雇用も生み出す、地域に役に立つインフラ整備」という初期の目的に向かって前進していくか、モニターを続けていくだろう。なぜなら、彼女たちこそ、このプロジェクトの最も重要なステークホルダー(利害関係者)なのだから。エンド・ユーザーが主役となる第三者評価の醍醐味はここにある。


 以上、4回に渡って、地方道路整備、サイクロン・シェルターの建設・修復、そして地方議会の強化といった現在進行中の3つの世銀プロジェクトに対して、Social Mapping、Citizen Report Card、及び情報公開法といった道具を使った世銀の第三者評価が、如何にして実施されるかを紹介してきた。草の根の市民の声とNGOの能力によって把握された様々な事実や学びが、プロジェクトの成果向上のためにしっかり活かされるか、今後、世銀及び政府側の覚悟が試される。その意味で、開発プロジェクトの成果を高めるための第三者評価が機能するためには、トップダウンのコミットメントとボトムアップの地道な取組みの双方が欠かせない。

 現在、世銀は全社体制でこうした取組みを後押しするべく、ぜーリック総裁のイニシアティブの下で、Global Partnership for Enhanced Social Accountability(社会的説明責任強化に向けたグローバル・パートナーシップ)というイニシアティブを開始した。背景には、「受益者などステークホルダーが公共サービス提供や資源管理の設計、監督、評価に関与することで開発成果向上が可能になると一層明らかになってきている」との問題意識がある。

 僕は今、こうした世銀がグローバルに掲げる問題意識を、試行錯誤を続けながら現場で実践に移す立場にある。成果(Result)向上の最前線で、マクロとミクロを往復しながら、開発効果の向上、汚職撲滅に向け、志を共にする世銀職員やNGOの仲間たちと、引き続き戦っていきたい(本シリーズ、終わり)。
バングラデシュと世銀の協働が織り成す物語 | コメント:(1) | トラックバック:(0) | 2012/03/10 03:40

開発プロジェクトの成果向上のためには何が必要だろうか?(その3)

 バングラデシュ南西部の小さな町、バゲルハット(Bagarhat)は、ユネスコの世界遺産にも登録されている15世紀に建てられたモスジット(モスク)郡で有名だ。しかし、その巨体をデコボコ道で揺らしながら走る世銀のジープは観光名所をあっさり通り過ぎ、さらに南へと向かう。
       Bangladesh_Bagerhat

 フェリーを使って河を超え、50キロ程さらに南に進んだ先にあるMorrelgonji(モレルゴンジ)が、世銀第三者評価プロジェクトの実施現場だ。今回対象となるプロジェクトは多目的サイクロン・シェルター。普段は小学校として活用され、いざサイクロンが襲来した時には、村人及び家畜の避難所となる。以下では、前々回の記事で紹介した「Social Mapping」が、サイクロン・シェルタープロジェクトではどのように活用されるかを見ていきたい。
      Social Mapping - Shelter 1

 こちらが世銀のプロジェクトで1995年9月に建設されたサイクロン・シェルター。以前の記事「バングラデシュは変わりゆく気候に適応できるだろうか?」でも紹介したが、村の家々は土を壁に、木々を柱に、そしてトタンを屋根として活用している質素なもの。こうした家々は、サイクロンがもたらす強風や洪水を前にはひとたまりもない。また平地ばかりのバングラデシュの南部に、避難できる高台はない。村で唯一の鉄筋コンクリート2階建ての建物、サイクロン・シェルターを除いては。

 今回の第三者評価プロジェクトでは、気候変動の最前線で生きる人々の生命線であるサイクロン・シェルターがその役割をしっかり果たしているか、改善が必要であるとすれば、それは何かを、実際にそれを使う人々の声に耳を傾けながら把握していく
      Social Mapping - Shelter 2

 前々回の記事で紹介したNarsingdiの地方道整備プロジェクトへのSocial Mapping同様、実施部隊となるNGO、Bangladesh Disatster Preparedness Center(BDPC)の声掛けで集まってきた村人たちは、車座になって地図を地面に描き始める。サイクロン・シェルターを中心に、近くにある小川や橋、そして道が描かれていく。舗装されている道は緑色、舗装されていない道は茶色。養鶏場や牛が多く集まる場所も記されていく。ちなみに牛やニワトリは農家にとっては極めて重要且つ高価な資産だ。牛は一頭、中くらいのものでも3万タカ(約3万円)、大型の水牛となると10万を超えるものもある。これらは農作業の担い手とあり、また所得の糧であるミルクを生み出す。サイクロンから命からがら逃れても、家畜が皆流されてしまったのでは、その経済的な損失は計り知れず、またサイクロンが去った後の生計も立てようがない。このため、サイクロンシェルターは一階部分は家畜用に、そして2階の学校の教室、及び3階の屋上が人々が当座を凌ぐスペースとなるのだ。ちなみに、このシェルターの収容可能人数は250名程度だ。
     Social Mapping - Shelter 3

何も無かったフロアにはカラフルな地図が出来上がり、議論の準備が整った。BDPCの職員は、ごく普通の近所の農家や主婦、そして子供たちを集めて議論を始める。超大型サイクロン・シドールが2007年11月にこの村を襲った時、このシェルターは実際にどのように使われたのだろうか。

 「そもそも、シェルターの数が足りない。この村の人口約5,000人に対して、シェルターはたった一つ。もっと作って欲しい。」
 「私たち一家はサイクロン・シェルターを使えなかった。この地図の通り、私たちの家からこのサイクロンへと向かう道は舗装をされていないから、風雨の中でたどり着けなかったんだ。」
 「サイクロンが村を襲った後、このシェルターでは300人近い人が9日間過ごしたが、一番困ったのがトイレだ。何せ用意されていたトイレは屋外の少し離れたところにあったのだから。洪水で一面水浸しで、見えているのはトイレの屋根だけ。どうやって用を足せって言うんだ?
 「シドールの後、世銀のプロジェクトでこのシェルターが修復されたとき、しっかりシェルターの2階にトイレを作ってくれたのは良かった。でも水道が機能していない。乾季になるとポンプが水源にまで届かないんだ。」

 実際にシェルターを利用した人、あるいは利用したくても出来なかった人にしか分からない意見が次々と出される。議論のまとめ役であるNGO,BDPCの職員は議論や地図の内容を丹念にメモに採り、政府や世銀への報告書の題材としていく。
 そして、人々の議論は、政府や世銀への単なる要望を超えていく。
 
 「俺はこのシェルターを使わなかった。そもそも避難する必要は無いって思ったからね。モスクのマイクから「レベル8のサイクロンが来る」って流れてきたけど、何のことかさっぱりだった。近所にレンガ造りの家があったから何とか助かったけれど、そうでなければ、ダメだっただろうな。」
 「私も、サイクロンのレベルって、何のことか分からない。誰か知っている人は?」
 
 すると、以前、BDPC(Bangladesh Disaster Preparedness Center)主催の防災セミナーに参加したと言う女性が立ち上がって、サイクロンのレベルについて、自分が習ったことを村の人々に伝えていく。また、彼女は、シェルターでは男女が別々な教室に別れて避難することになるので、女性もためらうことなく避難をすべき、と説く。この地域は特に保守的なイスラム教徒が多いことから、女性が家の外に出ることへの抵抗感は強い。それを踏まえた女性からの意見は、村人たちのシェルターへの心理的な距離を縮めていく。Social Mappingの議論を通じて、村人自身がお互いの知識や経験を共有し合い、問題解決の主体となっていく。


 シーンをNarsindhiの地方道プロジェクトに戻そう。第三者評価プロジェクトのもう一つのツールであるCitizen Report Cardを使ったヒアリングが村で行われている。
      Citizen Report Card ①

 Citizen Report Cardは家計調査に似たツールだ。一定の地域からランダムに選択したサンプルに対して、あらかじめ用意した質問表を元にアンケート調査を実施する。バイアスの係らないサンプリングの方法や効果的な質問表の作り方、質問方法については、第三者評価を実施するNGOの取りまとめ役であるManusher Jonno Foundationが世銀と協働で実施したトレーニング・プログラムの場で共有される。 

 調査対象となる地方道を日々使ってる主婦、リキシャ引き、そして農家等を対象に、各々の家族の状況や収入などから始まり、家から道路までの距離、道路の主な用途、道路整備前と後を比較して、学校・病院・市場等への時間がどの程度短縮されたか、そして、道路整備に当たって私有地を提供したか、その場合は政府から所定の補償金を受け取っているか等がヒアリングされ、その結果が調査票にまとめられていく。
     Citizen Report Card②

 現在は手書きによる作業だが、これが例えば専用のアプリケーション・ソフトが搭載された携帯電話等を使って実施されれば、モニタリングの頻度や正確性、そして迅速性も格段に向上するだろう(続く)。 
バングラデシュと世銀の協働が織り成す物語 | コメント:(0) | トラックバック:(0) | 2012/03/07 23:56

開発プロジェクトの成果向上のためには何が必要だろうか?(その2)

       Social Mapping
  ~Rural Infrastructure Improvement Projectの効果検証のために、村人が描くSocial Mapping~

 開発プロジェクトの成果(Results)向上のためには何が必要か?世界中で貧困削減に取り組む政府や国際機関の政策担当者、NGO職員、そして学者等が試行錯誤を繰り返しながら頭を悩ます課題だ。そして、世銀がこの難題に対して見出した答えは、「エンド・ユーザーの声に耳を傾けること」、「プロジェクトに関わる全てのステークホルダー(利害関係者)の継続的な学習を促すこと」、そして「得られた情報と教訓を進行中のプロジェクトにフィードバックをし、臨機応変にその実施方法・体制や内容を見直していくこと」。これを点ではなく面で実現すべく、バングラデシュ初めての試みとして今年からスタートしたのが「Third Party Monitoring(第三者評価)」だ。現在世銀はバングラデシュで35のプロジェクトを実施しているが、試験的に4つのプロジェクトで第三者評価を開始した。具体的には
① 前回の記事で紹介した地方道を整備する「Rural Infrastructure Development Project」、
② バングラデシュの地方政府による社会サービス実施体制を強化する「Local Government Support Project」、
③ 2007年の大型サイクロンSidr(シドール)の被害を受けた南西部地域に対してサイクロン・シェルターの新設・修復を行う「2007 Emergency Cyclone Recovery and Restoration Project」
④ 安全な飲み水の供給体制を強化する「Water Management and Improvement Project」
の4つを先行プロジェクトとしている。

 第三者評価の効果的な実施には、バングラデシュ政府の積極的な協力、そしてエンド・ユーザーを巻き込み、前回の記事で紹介したSocial Mappingのような革新的なツールを使ってMonitoringを実施出来る実行力あるNGOとの協働体制の確立が不可欠だ。

 2月8日にダッカのルポシ・バングラ・ホテル(旧ダッカ・シェラトンホテル)で開催された第三者評価のキック・オフ・イベントでは、世銀バングラデシュ・オフィスの責任者であるCountry Director(国担当局長)、第三者評価を実施するNGOの取りまとめ役である「Manushure Jonnno Foundation」の専務理事、そして地方行政担当大臣(Minister of Local Government, Rural Development and Cooperatives)等が一同に会し、約200名の聴衆と主要メディアが集まる前で、それぞれの言葉でThrid Party Monitoringの意義を語るとともに、NGO-政府-世銀が確固とした協働体制をもってこの新たな試みを実施していくことを確認した。

     Thrid Party Monitoring Launching Event-1
 ~2月8日に開催されたThrid Party MonitoringのLaucning Event。壇上中央の女性が世銀バングラデシュの国担当局長であり我がボスのEllen Goldsteinだ~

 一般的に、政府にとっては、市民社会がプロジェクトにトヤカク口を出すのは、気乗りのする話ではない、と言うのが本音だろう。しかし、キック・オフ・イベントに参加した Syed Ashraful Islam地方行政担当大臣はその意義を以下のようにクリアに語っていた。
 
"This initiative provides an opportunity to further utilize the knowledge of local communities to improve access to and quality of service delivery. Citizens will have a greater voice in ensuring the best use of public resources and will hold local governments accountable for results.”
 (このイニシアティブは、社会サービスの質とアクセスの向上に向け、地域のコミュニティが持つ知識をより一層活用する機会を提供するものだ。公共のリソースの有効活用と地方政府の「結果」に対する説明責任を確保するために、市民はこれまで以上に大きなVOICEを持つことになる。)

 バングラデシュの主要紙である「Financial Express」紙は、世銀の国担当局長、Ellen Goldsteinの発言を引用しながら第三者評価の意義を翌日の一面で報じた。

 ”We believe that if civil society and general people can be involved with the monitoring in addition to the traditional monitoring by the government and the donor, transparency and accountability and quality of the projects will be ensured.”   
 (政府とドナーによる伝統的なモニタリングに加え、市民社会と一般市民が参画すれば、開発プロジェクトの透明性、説明責任、そして質が確保されることになる。)
   
    Third Party Monitoring Laucning Event -2
 ~会場となったルポシ・バングラ・ホテルのマーブル・ルームは200名近い聴衆が詰めかけ立ち見が出るほどの盛況ぶり。翌日の主要全紙が当イベントを大きく報じるなど第三者評価への期待と関心は高い。~

 このパイロット・イニシアティブが継続的な実施とスケールアップという成功を収める上で、政府の積極的な関与と並んでカギとなるのが、実施部隊となるNGOの能力だ。その点、今回世銀のパートナーとなっているManusher Jonnno Foundation(MJF)は頼もしい役割を果たしている。人権や政府の透明性強化の分野で活躍してきたMJFは、第三者評価の効果的な実施に必要な二つの強みを持っている。一つはバングラデシュ国内に無数に存在する草の根NGOとのネットワーク、二つは、Social Accountabilityの分野で培ってきた経験と知識だ。MJFの担当者は世銀側の担当である僕と議論をしながら第三者評価のコンセプトを詰めるとともに、具体的な実施スケジュールを策定、そして上記4つのプロジェクトに対して実際に草の根でモニタリングを実施するのに最も適当と思われるNGOを選定する。また、実施部隊となる草の根のNGOの担当者をダッカに集め、第三者評価の趣旨や目的の共有や、Social Mappingや次回の記事で紹介するCitizen Report Card、あるいはバングラデシュで導入されたばかりのRight to Inforamation Act(情報公開法)等のツールに関する研修も行う。研修で必要となる教材や知識は、世界各地で実施されている第三者評価の事例を集積している世銀のWorld Bank Insituteが提供する。

    Thrid Party Monitoring Training Program
 ~キック・オフ・イベントに続いてダッカのBRAC大学で実施されたNGO向けの二日間の研修。コンセプトのプレゼンテーションに続く、少人数のワークショップでは、実際のケースを用いて実践的、双方向の議論が展開された。~
 
 今、バングラデシュでは、このようにして政府、NGO、世界銀行、そしてコミュニティのエンドユーザーというマルチ・ステークホルダーが協働しながら開発プロジェクトの効果を高めるイニシアティブが始まっている。次回は、僕がMJFや草の根NPOのカウンターパートと共に足を運んだ第三者評価の実施現場からの実況中継を通じて、Citizen Report CardやRight to Information Act等のツールが現場でどのように活用されているかを紹介していきたい。(続く)
バングラデシュと世銀の協働が織り成す物語 | コメント:(2) | トラックバック:(0) | 2012/03/02 01:26
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