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グラミン銀行 ~信頼を基盤とする金融は如何にして創られるのか?(最終回)~

◇ グラミン銀行のビジネス・モデルの背景にある基本哲学とは何か?
 
 ダッカ市ミルプール地区にそびえるグラミン銀行本社ビルの会議室で行われた、Crossoverのメンバーとグラミン銀行幹部とのディスカッションの際、こんなやり取りがあった。

 「グラミン銀行が貸したお金で、女性たちが皆そろって牛を飼ってミルクを買う商売を始めたら、過当競争になって価格が下がり、思うように借り手の収入が伸びないのではないでしょうか?グラミン銀行の現場職員は、こうした事態が起こらないように、しっかり指導できるのでしょうか?」

 「そういうこともあるかもしれません。しかし、職員は女性たちを“指導”する立場にはないのです。そういう事が起これば、一部の借り手は、牛を育てるために必要な飼料を売る仕事をするかもしれない。あるいは、ミルクを集めて市場まで運搬する仕事をはじめるかもしれない。こうしたアイディアを、女性自らが、あるいは仲間との議論を通じて思いつき、実行に移していくことが大切なのです。グラミンの職員が手取り足取り教えるようなことはしません。私たちは、彼女たち自身が自らの、そしてお互いの先生であり、また学び手となるような仕組み、具体的にはセンターなどでの議論を促すだけです。」 

 Discussion with Grameen Bank Senior Management
 ~ Crossoverのメンバーから次々と出される質問や問題提起に答えるグラミン銀行幹部のラタンさん ~

 グラミン銀行やユヌス博士に対しては、主にバングラデシュ国内で「金を貸すだけで、借りたお金をどう使うかに関する指導が足りない」という批判が聞こえる。確かにグラミン銀行の職員は、貸出し時に資金の使途について確認はするものの、女性達が借りたお金で小規模ビジネスを成功させる方法やスキルに関する個別の指導はしてはいない。その代わり、「借り手センター」などの場で、ビジネスを上手く軌道に乗せている借り手の女性が、自らの経験や学びを他の女性たちと共有する機会を設ける、あるいは、各エリアで公衆衛生や教育、あるいは様々な小規模ビジネスの専門家を交えたテーマ別のワーク・ショップを開催し、そこに集ったセンター・チーフがそれぞれの学びをセンターに持ち帰り、共有するような仕組みを構築している。いずれにしても、グラミン銀行の職員自らが、手取り足取り教えるのではなく、借り手自らによる学びと自立を促すことにより、貸したお金が目的、即ち「10の指標」で定義されている貧困からの脱却に向けて使われるよう促しているのだ。

 もう一つ、今回の訪問で僕らが印象付けられたグラミン銀行の奇抜なサービスを紹介したい。それは「Struggling Members Loan」だ。直訳すると「困窮メンバー向けローン」だが、要は物乞いローンだ。現在8万2, 864人が利用しているこのローンには、5人組組成や「借り手センター」での週一回のミーティング出席をはじめとするグラミンのBasic Loan向けルールは一切適用されない。返済期間やスケジュールに関しての取り決めも無い。金利も無い。利用に当たって「乞食稼業を止める事」という条件も課されない。交わされる約束は唯一つ・・・「いつか返してください。」

 借りたお金で現状を脱却するべく、何か小さな仕事を始めるか、それとも乞食稼業を続けるのか、グラミン銀行は、こうした選択に介入せず個人の判断にゆだねる。しかし、重要なのは、元手となるお金が無ければ、仮に意思があったとしても、物乞いは物乞い稼業を続けるしか選択肢が無いということだ。グラミン銀行の「Struggling Members Loan」は、機会さえあれば現状を何とか変えようとStruggle(格闘する)メンバーに対して、きっかけを提供しているのだろう。

 以上のエピソード、及びこの連載を通じて紹介してきたグラミンの商品ラインアップやコーポレート・ガバナンスの構造から浮かび上がる、グラミン銀行の基本哲学とは何だろうか。それはおそらく、顧客の可能性への信頼と機会の提供による自立自助の精神の涵養、と言えるのではないだろうか。農村部の女性たちは、あるいは物乞いたちは、たとえ資産もキャッシュも無くても、自らの力で自らの生活や人生を変えていく潜在力がある。そうした人々の潜在力に火を灯すきっかけが、グラミン銀行によるCreditの提供なのだろう。 

  ここで、「Credit is a fundamental human right 」という、ユヌス博士が語った有名なフレーズを思い出す。「Credit」とは多義的な言葉だ。信頼、誇り、信念、名声・・・貸付という行為を通じて、グラミン・ファミリーのメンバー相互間では、こうした価値が醸成されていくのかもしれない。

 他方、「自立自助」の哲学を具体的なビジネス・モデルに反映させることで、「面倒見が悪い」、「結局は金貸し以上のことはやっていない」という批判が付きまとうことになる。例えば、バングラデシュ最大のNGOであるBRAC(Bangladesh Rural Advancement Committee)との比較でこの点を考えてみよう。1972年に創業したBRACは、マイクロ・クレジットの提供に加え、顧客のために井戸や水洗トイレを設置する、あるいは農業指導や医療保険サービスを提供している。資金の貸付だけでなく、資金の適切な使い方や生活環境の向上のために、職員自らが乗り出すBRACとグラミン銀行を比較すると、一見BRACのほうが、顧客志向の「やさしい」機関であると捉えたくなる。

 しかし、グラミン銀行は「手取り足取り」の領域にまでは踏み込まない。手取り足取り指導する、対価をもらうことなくモノやサービスを提供することで、自立自助の精神が損なわれることを懸念してのことだろうか。このあたりは正に哲学論争だ。ただ、顧客への「手取り足取り」の指導やサービスの無償提供をビジネス・モデルに組み込むことによって、その機関自身の「自立自助」経営が困難になる、という事実には注意する必要があるだろう。この点で特質すべきは、グラミン銀行が2004年以降、預貸率が100%を超えていること、及び2000年以降、一貫して経営黒字を出していることなどに見られるとおり、名実共に自立自助の経営を実現しているということだ。他方で、BRACは、バングラデシュ最大のNGOであり、国内外で極めて多くの実績を残しているには違いがないが、その活動を支える収入の内訳を見ると、マイクロファイナンスからの金利収入とほぼ同額の国内外からの寄付に拠っていることが分かる。
 (注:2011年度のBRACの総収入(341億タカ)に占める寄付収入は約3割、約100億タカ、同機関のマイクロ・クレジットの金利収入(118億タカ)に次ぐ第二の収益源となっています(出展:BRAC Statement of Income and Expenditure))

 ここでBRACとグラミンのどちらが優れているか、と言う議論をしているのではない。グラミン銀行を批判するのは簡単だし、実際、改善の余地がある部分も多くあるだろう。大切なのは、グラミンが顧客に対して自立自助を求めるのと同じように、グラミン銀行自身が、その経営において自立自助の精神を体現しているということであり、そうした経営方針は、農村部の女性たち自らが 、借り手として、預金者として、そして株主として影響を及ぼしていくことを通じて、構築されてきた、ということだ。

 今後もグラミン銀行は、様々な困難や批判と直面するかもしれない。しかし、グラミンが「バングラデシュ農村部の女性達の、女性達による、女性達のための金融機関」としての基本的性格、そして学びによる自己革新の文化を維持し続ければ、これからも、女性達の、そしてバングラデシュの持続的な成長の大きな力となっていくだろう。(本シリーズ終わり)
  Photo with Dr. Yunus 
  ~ ユヌス・バイ、バロアチェン?(ユヌスさん、元気ですか?)とベンガル語で語りかけると「オボッショイ・バロアチ(勿論元気だよ!)」と最高の笑顔で応じてくれたグラミン銀行創業者のユヌス博士と~
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バングラデシュのソーシャル・ビジネスが織り成す物語 | コメント:(3) | トラックバック:(1) | 2012/10/30 00:02
コメント:
はじめまして
いつもブログを読んで勉強させていただいております、在バ8年目のhakaseと申します。

以前の記事も毎回驚くほど丁寧で、池田さまの能力の高さがあふれ出ていましたが、今回のグラミンの記事がまた秀悦でした。まさにシュンドール!!

私は特別な専門分野も持たない一介の主婦ですので、注意深くじっくりと読ませていただいても、途中から頭が飽和状態になって内容が頭に入ったかどうか?という記事も多々あったのですが、今回は私自身、今後仕事でグラミンに関わる可能性があり、3か月ほど前から少しずつ調べているところでだったので、内容が理解しやすかったです。

理解しやすいどころか、自分で調べた中で感じた疑問点がすべて説明されており、「なるほど~、なるほど~」と唸りながら読んでいました。

グラミンについては正直、too good to be true的な印象が常にあり、巷に出回る噂とも相まって評価半分で見ていましたが、今回の記事を読んで細かな理由づけや哲学などを理解できたことはとても大きかったです。

「いいこと」をしている人たちに対して、私はどうしても一歩離れてみてしまう癖があるのですが、池田さまのおかげで疑問が解消されましたので、今後は積極的に支持していけそうです。ありがとうございました。
コメントありがとうございます
hakaseさん、長々とした拙記事を読んでいただきありがとうございます。バングラ暦8年の大先輩であるhakaseさんから、このようなコメントを頂き嬉しいです!引き続き好奇心を灯しながら、この国から五感の全てで学べるだけ学び取って、日本に還元していきたいと思っています。お時間があったら、お会いしてお話が出来るのを楽しみにしてます。これからも宜しくお願い致します。
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◇ グラミン銀行のビジネス・モデルの背景にある基本哲学とは何か?    ダッカ市ミルプール地区にそびえ

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