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サバールの悲劇 ~人災は何故繰り返されるのか?(その3)~

  安全な職場を実現するためのルールは既にある。しかし、ルールを執行するための「政府の組織力強化」が遅々として進まない中、過ちは繰り返され、多くの命が失われてきた。そして、民主主義と市場経済という現行のシステムでは、投票の結果や経済取引の条件に、個別の労働者の声は反映されにくい。では、悲劇的な人災の再発を防ぐにはどうしたらよいのだろうか?

  garment worker
    ~ダッカ市内の薄暗い雑居ビルの中の零細縫製工場で黙々と作業にいそしむ女性。~

 バングラデシュでは「サバールの悲劇」を機に、こうした不都合な現状を打破するための「新たな社会契約」が、 (海外の)バイヤー、(バングラデシュの)サプライヤー、業界団体、労働者、ILO(国際労働機関)等の国際機関といったバングラデシュの縫製業にかかわる様々な利害関係者(ステークホルダー)間で立ち上がりつつある。

Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh(バングラデシュの防火及び建物の安全に関する協定)」  

  安全な労働環境を民間のイニシアティブで着実に定着させるべく、IndustriallInternational Labor Rights Forumといった国際NGOが数年前に立ち上げたこのイニシアティブは、当初は見向きもされなかったものの、昨年11月に117名の犠牲者を出したTazreen Factoryの火災事故、そして4月24日の「サバールの悲劇」を契機にモメンタムが高まり、ヨーロッパを中心とするアパレル大手(バイヤー)が次々と参画している。以下、その特徴を5つに分けて紹介したい。
 
① バイヤーの費用負担による工場の安全確保に向けた長期的な取組み

 協定に署名したバイヤーは、バングラデシュにおける取引先である縫製工場の、防火体制と建物の安全性向上を目的とする5年間のプログラムに参加する。

 プログラムは、①独立した検査官による取引先縫製工場の安全性チェック、②必要な是正措置の勧告とその実施状況のモニタリング、③専門知識を持つコーディネーターによる工場従業員と管理職への火災訓練や安全意識向上のための研修の提供、の3つで成り立っており、協定に参加するバイヤーは、検査官やコーディネーターの雇用コスト等、プログラム実施に必要な資金として、年間最大で500,000ドル(約5千万円)を拠出することを約束する。

② 積極的な情報開示

 バイヤーは、バングラデシュにおいて取引のある縫製工場の名前(下請け、孫受けを含む)を全て公表することを義務付けられる。
 その上で、安全検査の結果と、それを踏まえて工場側が策定する改善計画も、検査終了後遅くとも半年以内に公表される。そして、検査官は、工場側が改善計画に即してタイムリーに改善措置をとらない場合、その名前を公表できる。これらは必要な改善が確実に実施されるよう、積極的な情報開示により生まれる世論の圧力を活用する仕掛けだ。そして、こうしたプロセスを経てもなお、改善計画が実行に移されない場合、バイヤーは工場に対して、取引の停止を通告することとなっている。

③ 工場側の負担に配慮した価格交渉の要請

 上記検査や情報開示などを通いて、相当なプレッシャーが縫製工場側にかかることになる。しかし、バイヤー側が工場側に対して、職場環境の改善実施に向けたプレッシャーをかけながら、同時に、単価の引き下げを今まで通り要求していたのでは、余りにも一方的だ。この点、特質すべきは、本協定が、工場側が必要な安全対策を実施しつつ利益を出せる形で、単価などの交渉に当たるようバイヤー側に義務付けていることだ

④ ステークホルダーの声が平等に反映される意思決定メカニズム

 プログラム実施に当たっては、その具体的内容、予算・決算、検査官やコーディネーターの採用等について責任を持つ、運営委員会(Steering Committee)を立ち上げることとされており、運営委員会のメンバーは、工場の経営者側、労働者代表からそれぞれ3名、そして、ILO(国際労働機関)が指名する中立的な議長一名で構成される。プログラム実施にかかる意思決定が、労働者側、経営者側のいずれにも過度に偏らないようにするための工夫だろう。

⑤ 法的拘束力

 参加する国外のバイヤーと、バングラデシュの工場側でプログラムの意思決定や実施に当たって見解の不一致があった場合、最終的に裁判所の裁定を仰ぐこととされている。つまり、これは単なる紳士協定ではなく、通常の商取引における契約同様、法的拘束力を持つ文書なのだ。


 「サバールの悲劇」発生以降、Accord on Fire and Building Safety in Bangladesh(バングラデシュの防火及び建物の安全に関する協定)」に参加する海外のバイヤーは、ヨーロッパの大手アパレル・メーカー、小売店を中心に増え続け、現在、署名済みのバイヤーは24社を数える。具体的には、“Fast Fasion”のキャッチフレーズで知られる世界第二のアパレル・メーカーH&M(スウェーデン)、H&Mに告ぐ世界第3位の売り上げを誇るスペインのアパレル・メーカーで日本でもお馴染みのZARAを傘下に持つInditex 、米国に拠点を置く世界最大のシャツ・メーカーで、Tommy Hilfiger、Calvin Klein等の超有名ブランドとのライセンス契約を持つPVH(Phillips-Van Heusen Corp)など、そうそうたる顔ぶれだ。

  consumer protest
 ~ オーストリア、ベルギー、ドイツ等で高いマーケットシェアを持つアパレル・メーカー、小売大手のPrimarkの店舗前で、バイヤーとしての「サバールの悲劇」の責任を問う消費者団体のメンバー。Primarkも上記「協定」に参加をした。~

 一方、
世界の小売最大手であるアメリカのウォールマート、そして米アパレル最大手のGAPは、自社独自の取組みを実施するとして、本協定に参加しない旨を発表。日本のユニクロもこれに続いた。この経営判断について、内外のメディアや市民社会の反応は総じて否定的だが、どう考えればよいのだろうか。

 上記協定は、バイヤー側の費用負担のあり方などについて、今後細部をつめなければならず、具体化には若干の時間を要する。他方、自社独自の取り組みであれば、明日にでも開始可能であり、また実施内容も自社の判断で臨機応変に決定できる(上記協定よりももっと実効性の高い枠組みを作ることも可能な訳だ)。 また、協定は最低5年のコミットメントが求められているところ、今後5年間、バングラデシュの縫製工場を取引先として活用するという確実な方針がなければ、署名は難しいのかもしれない。

 一方、もし、主要バイヤーが揃って協定に参加すれば、検査方法の標準化、重複検査の排除等を通じて、バイヤー側、工場側双方の負担軽減につながるほか、工場の安全確保に関する関係者共通の理解やスタンダードが作られやすい。また、上記協定の最大の梃子は、参画するステークホルダー同士で、約束事を確実に実施しようという「ピア・プレッシャー(仲間内からのプレッシャー)」が継続的にかかることだ。
 
 協定への不参加を表明したウォールマート、GAP、ユニクロの経営判断が、より責任あるサプライ・チェーン・マネジメントにつながるか否かは、ピア・プレッシャーのかからないところで、自社独自の実効性ある安全プログラムを実施し、そのプロセスと結果を公表するインセンティブを、各社がどれだけ持続できるか、にかかっている。  

  そして、バングラデシュの女工さんたちが作った質のよい服を安く購入している我々先進国の消費者は、ステークホルダー間の「新しい社会契約」に基づくアプローチと、自社独自の個別のアプローチで課題と向き合う企業の双方の取組みについて、その帰趨をアンテナを高くしてウオッチしていくことが必要だろう(続く)。

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バングラデシュの経済・産業が織り成す物語 | コメント:(4) | トラックバック:(0) | 2013/06/08 03:37
コメント:
正統性と実効性
NPOのシステムに参加することは、「(国際的に認められている)第三者の権威を用いて自らのスタンスを示すこと」で、格付会社やISOなどと同じ発想。一方でユニクロは「生産現場まで自らの品質管理を徹底する」自前主義と認識していますから、将来の発注の有無だけでなく、基本的なスタンスが相容れないと思います。自分に自信があれば、第三者の介在は邪魔なだけですから。

第三者システムは一見公平なようでいて、エンロンやサブプライム証券(リーマンショック)に見られるように、その第三者の能力(及び意図)に対する監視がなければ砂上の楼閣でもあります。通常は「政府」が強力な第三者になるのですが、バングラデシュはそこの弱さが代替の必要性に繋がってしまう事情は良く分かります。どう実効性を確保するかと、どう正統性を確保するかの境目に対する常なる関心が、いずれにしても我々に求められるのでしょう。

また一方で、経済活動の基盤である貨幣が砂上の楼閣であることを認識すれば、そんなことどうでもいい(実効性があることのみが社会的にbetter)という考え方もまた正しい気も致します。
コメント有難うございます
 Kojimaさん、いつもコメントを有難うございます。コメントを拝見して、ちょっとこの仕組みに関する理解が、僕と大分異なるので、以下、改めて詳述させていただきます。

まず、本スキームのLegitimacy(正統性)についてですが、これはNPOが担保している訳ではないと思います。NPOは枠組みの形を提案しただけで、彼らが運営委員会のメンバーになる訳でもないし、署名主体になる訳でもない。検査官の採用に影響もなければ安全性の基準を作るわけでもない。その意味で、ISOや格付会社とは性格が異なります。Legitimacyの源泉は、むしろ、安全性の基準を作り、SCの議長役も務める国際機関ILOである、というのが僕の理解です。

 また、このシステムは「第三者システム」でもないと思います。確かにILOという(一応Legitimateとされている)機関が各SCの議長役を務めるものの、あくまで、その意思決定者であるメンバーは契約の当事者(バイヤー・サプライヤー、そして労働者)なのですから。彼らが意思決定者としてSCのメンバーとなり、検査官を雇い、行動計画を作り、また彼らの間で意見の不一致があったら、裁判所に持ち込んで、判断を仰ぐ訳ですので。その意味で、「実効性」の担保は、これまで意思決定から阻害されていた労働者の代表が、SCメンバーに加わることが大きいのではないかと思います。

 次に、今回のシステムの効用については、安全性確保に向けて各工場側にかかるコストを下げるという意味もあると思います。

 ご案内のとおり、一つの縫製工場で複数のバイヤーの注文に対応していることを考えれば、各社別製品の検品ならともかく、工場の建物や防火体制といった共用空間の安全性チェックについて、各社がバラバラと実施したら、工場側の負担は途方もないものになります。

 本スキームを通じて、署名した各社間で検査のタイミング、検査の基準、検査官の採用、そして改善計画について協調が進めば、同じ発注先の工場が受けるコストがかなり軽減することが期待されます。

 ご存知のとおり、ユニクロは自社の工場をバングラに持っている訳ではありません。従って、発注先工場がユニクロにしか服を売っていない、という場合を除けば、この検査の重複の問題は出てくるのだろうと思います。

 最後に、「自前主義」の件ですが、(ユニクロは兎も角)バングラ・国外の企業双方が、「自前の論理」で仕事をこれまでしてきた結果、こういう惨事が続いている訳ですから、もはやそれを盾にとっても、世の中を納得させることが出来ない、と言った事情もあろうかと思います。
No title
はじめまして。この問題について、Facebookの下記のページで、現地の動きや国際的な労働組合等の動きを紹介しています。http://www.facebook.com/424Savar?ref=hl
このブログの記事も紹介させていただきました。
実効性獲得までのルート
池田さん、コメントありがとうございます。確かに当方の理解が少し足りませんでした。

全体の構造が
【安全確保】 ILOの指導のもと、従業員と縫製工場が対話して実施していく。対話や指導員のコストはバイヤー負担。安全対策の工事費用は縫製工場負担。
【縫製工場への動機づけ】協定に参加するバイヤーが取引先の縫製工場を「強制的にプログラム参加」させる。安全確保ができなかったら契約停止。
という成り立ちなのだとしたら、本プログラムは実質的に「既存工場の安全性の向上」ではなくて、「安全でない工場(companyではなく施設の意味で)の緩やかな排除を通じて平均値を上げる」によって実効性が担保されいくと思います。また、プログラムに参加するバイヤーの意図も納得できます。

一方で、自前主義は別に否定されないと思います。何故ならば今回のようにアクシデント(人災含む)があった場合にはバイヤーはreputation cost を確実に払うわけで(今回フランスでの報道がその典型例)、これまでは「自前で(安全対策を)やってきた」のではなく「実質的に何もやってこなかった」ということです。実質何らかの形でやろうとしている会社(responsibility taker by reputation risk)を、外部の枠組みに参加しないからといって否定する必要はないと思います。

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